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アンラヴドヒーローズ【全年齢版】  作者: トシヲ
▼前編(共通)
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02 セントラルタワー

 ジェラードに娘がいるという報道が世間を騒がせたのは、シャロンが通信制魔法士訓練校の修了を認定された翌日のことだった。


 ジェラードは今や、この街でその名を知らぬ人はいないと言っても過言ではない。高く支持を受ける一方で、敵対する者、組織も多く存在する。


 そういった者たちによって家庭に危害を加えられることを危惧したジェラードは、家族の存在を世間に公表していなかったとマスコミに語った。


 アイドル視され、ファンクラブを持つジェラードに妻子がいたという報道に一部では悲鳴が上がったものの、彼の隣に座っているシャロンの映った写真には多くの者が感嘆の声、うっとりとしたため息を漏らした。


 雪のような髪と肌、水色の瞳はもちろんのこと、顔立ちまでよく似ているのだ。

 性別が違うので瓜二つというほどではないが、霜柱のようなまつ毛も、精巧な氷細工のような存在感そのものがとてもよく似ていた。


 誰もシャロンのこれまでの人生など知らないのに、娘だから、顔が似ているからという理由だけで褒め称え、氷の天使やら雪の妖精、白雪姫などと呼ぶ者もいた。


 明るく素直で、ちょっぴりドジなところもあるシャロンは、いつも笑顔を絶やさない。柔らかな笑顔も父親と同じだった。


挿絵(By みてみん)


「えっと、まず連絡事項。最近、市内でもモンスターが出るようになったんだと。気ィ引き締めて、明日から頑張りましょう……さてと、明日のパトロール研修とかいろいろ、何か質問あるか?」


 モンスターとは、まさに言葉の通りのものだ。普通の生き物と違い、魔法によって生み出される疑似生命体のうち、悪意を持って作られたものを言う。


 これまでにも魔法で作られた疑似生命体が破壊活動や、強盗事件などで使われたことがあった。


 バラム市の魔法使いはIDを振られて管理されている。

 よって他の市よりも怪しい魔法使いのリストアップが早く、容疑者もすぐに確保されることだろう。


 ふんわりと笑ったまま、シャロンはうっすらとテレビで得たモンスターの情報を頭の中で並べていく。しかしその思考を掻き消すように衣擦れの音がして、クライヴが不機嫌そうな顔で手を上げた。

 ヒューゴにしたい質問があるのだろう。


「はい、クライヴくん、質問どーぞ」

「質問は2つある。まず、チームの編成について、それぞれの班に実力差が大きく出ないように分けたと聞いてる。うちは電気と水と氷で3人ともアタッカーなうえ、カナタは地方から引き抜かれてきた優等生。シャロンはジェラードさんの実の娘……隔たってると思うんだけど」


 それはシャロンが親の七光りと言うのがふさわしい存在で、実力が無いことをカバーするためだろう。そうシャロンは考えるが、口には出さない。

 にこにこ笑っているシャロンと同様に、なぜかヒューゴもへらへらと笑っている。


「もう1つの質問も先に聞いていいか?」

「ああ。あんたの能力について、僕たちはまだ何も聞いてない」


 ぴゅうとヒューゴが口笛を吹いた。


「ビンゴ! 答えはほぼそれ。天才3人固めときゃ、教官なんか人数合わせでいいだろ〜?  お前ら超優秀みたいだから、担当が俺になっゃいました〜ってこと」

「つまり、僕たちは無能な教官に当たったと?」

「そ。俺の魔法は傷の回復。サポート役のヒーラーってわけ。だから俺のことは戦力に数えないでくれな」


 クライヴとカナタが驚いているのを見て、シャロンも頭を傾げる。

 どうやら教官がヒーラーというのは普通のことではないようだ。


 それよりも、戦力に数えるなと言う割にはヒューゴの体はそれなりに鍛えられており、そのレッグホルスターには銃がある。

 魔法使いが銃のライセンスを取るのはかなり困難なことだが、素直に上官の言葉に従う方を選択した。


「教官がヒーラーなんて、聞いたことがない! 僕たちは実戦経験を積みに来たんだ。チャラチャラと遊びに来たみたいな格好で、僕たちに職務を教える気はあるのか?」

「おいクライヴ、落ち着け。見た目は関係ないし、ヒーラーということは、客観的に戦闘の場も見てるだろ」

「そうだぞ〜、落ち着けってクライヴ」

「落ち着いてなんかいられるか! ただでさえこの女と同じチームにさせられて、僕は……」

「おい、クライヴ!」


 シャロンを指さしたクライヴに一喝したのは教官ではなく同期のカナタだった。

 研修生同士で叱り、諌められる二人は相性が良いかもしれない。そして目下の者の言動に怒りを顕にしたりもせず、ヘラヘラと見守ることができるヒューゴも。


 シャロンはにこにこと笑ったまま、再び視線をヒューゴに向ける。


「クライヴとわたしを一緒にしたのも、バランスを考えてのことなの?」

「上も多分ちゃんと相性を考えて……あ、もちろん俺もシャロンと相性抜群だぞ! 運命の出会いってやつだな」


 器用にウインクをするヒューゴにシャロンもぱちくりと瞬きをする。

 未だシャロンに憎悪の眼差しを向けるクライヴの眼光に、かけるべき言葉は思いつかない。


「改めて、明日からよろしくお願いします」


 お辞儀をすると、クライヴ以外の2人も同じように「よろしく」と口にして、この日は解散となった。


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