01 セントラルタワー
本作には性的・グロテスク・胸糞悪い表現が含まれており、性について正しい知識の無い児童には不適切な内容となっております。
後編から、主人公の恋の相手によってストーリーが分岐するマルチエンド作品となります。
――魔法。
かつて、その特別な能力を持つ者たちは、あらゆる国、あらゆる時代で、様々な呼び名を与えられていた。
シャーマン、魔女、忍、鬼、狐憑き、怪物……。時には神の使いとして畏怖され、時には異端として忌み嫌われた。
異端審問や魔女狩り、戦争などで数を減らし、身を隠していた魔法使いたちが再び社会進出を果たしたのは近代に入ってからだ。
その魔法使いたちの一部は、課せられた職務から『ヒーロー』と呼ばれている
彼らのみが志すことのできる『ヒーロー』の呼び名は、異端者を示すものに他ならない。
わざわざ英雄の名を借りて、正義の味方であることをアピールしなければならないという社会がある。それは今も尚続いている。
「ここ、バラム市のヒーローは警察とは別に組織されてて……まあ、警察さんのために、前線で犯人と格闘させられるのが俺たちヒーローってわけなんだけど……な〜んて、ここまでは訓練校で死ぬほど聞いたか。改めまして、ヒーローのタマゴの皆さん、ようこそバラム市ヒーロー司令本部へ。俺は本年度の教官を務めるヒューゴ。好きなもんは女の子。そっちの真面目そうなのはエリオット。土とか鉱物の魔法を使う現役のプロヒーロー様だぜ。で、あっちにいるのが……」
オリーブアッシュの髪を肩の下まで伸ばし、ヒーローと言うには少しだらしない身なりの教官がへらへらと説明をする。それでも顔立ちが整っているためか、一部の女子研修生が嬉しそうな声を出していた。
この春、一定期間の基礎訓練と試験を乗り越えてヒーローの研修生となったシャロンは、ぴんと背筋を伸ばしたまま、そのヒューゴという若い教官の瞳を見つめていた。
まだ少々緊張していたり、夢に近づき目を輝かせている研修生たちに笑いかける彼だが、その一方、今どき古臭いホワイトボードを挟むようにして隣に立つエリオットという教官は、口を一文字に結んでむすっとしていた。
これから研修生3人と教官が1人、合わせて4人のチームとなって、本格的な実務訓練を1年間行う。
救助活動や応急処置、その他にも様々な講義もあるが、とうとう市内を自分の足でパトロールすることになる。
自分の担当教官になるかもしれない相手に、なるべく良い印象を持ってもらえるよう、シャロンはにこにこと微笑んでいた。
「そんじゃ研修チームの発表するぞ。呼ばれた奴は各自、指定の場所に行ってな。まずはこのおっかねえエリオット大先生にしごかれるチームから……」
「はじめまして! わたし、シャロンって言います。 好きなものは甘いものと、ぬいぐるみです。趣味は……えっと、お菓子作りかな。あっ、氷の魔法士です。よろしくお願いします!」
シャロンがぺこりと頭を下げると、2人分の拍手が耳に届いた。拍手をした1人は教官のヒューゴ。もう1人は少し暗めの青い短髪で、背の高いチームメイトの青年だ。
シャロンの自己紹介が終わると、次はその青い青年の番だった。
まだ制服の支給されていない研修生であるため、事前に貰った合格者案内メールの内容通りに運動着を着用している。
彼はシャロンと目が合うと、少し恥ずかしそうに頬を指でかいた。
青色の髪が海の深さを示すなら、その瞳は少し浅い。エメラルドグリーンの瞳は、写真で見た南国の海のようだ。
「はじめまして。自分はカナタといいます。水の魔法士です。バラムに来てすぐで、まだ地理に詳しくないのですが、どうぞよろしくお願いします!」
カナタに向けられる拍手は3人分。シャロンに拍手をしなかったもう1人もしっかり手を叩いている。
それもそうだ。その、『もう1人』である青年はシャロンの父が養子として迎え入れた義兄、クライヴなのだ。彼はなぜか最近、シャロンをやけに敵視している。
兄とはいえほんの数ヶ月の違いで、彼とは同い年にあたるらしい。
幼い頃はいつも優しかったと記憶している。視線が合うたびにいつも微笑んで、シャロンのためにと絵本を読んだり、菓子や花を持ってくるような少年だった。
後に彼は家を離れ、中学、高校を全寮制の学校で過ごした。卒業後に再会してからはずっとこの調子だ。
「はじめまして。僕はクライヴ。電気の魔法士です。よろしく」
さらりと柔らかそうな金色の髪に、長いまつ毛。シャロンにとっては見慣れたもので気にしたことがないが、彼は人形のように整った顔をしている。
シャロンが拍手をしながら笑いかけると、クライヴはすっと紫色の目を細め、一度睨みつけてから視線を外した。
クライヴと交代するように手をひらりと振ったヒューゴは、ずっと愛想の良い笑顔を浮かべたままだった。
爽やかかと問われればそういうタイプではなく、ヒーローというよりも不良のような服装だ。プロになって初めて袖を通すことができる制服を、わざと着崩している。袖を折って捲くり、襟元もボタンが外されて、良く言えば涼しげだ。
「俺はヒューゴ。さっきも言ったけど、好きなもんは女の子……なんだけど、今からシャロンちゃん一筋になっちゃおっかな。連絡先教えてくんない?」
にへらぁと笑みを浮かべるヒューゴがポケットからスマートフォンを取り出す。すると、すかさずカナタが遮るように声を上げた。
「ヒューゴ教官、これセクハラですよ」
「しかたね〜な。お前らにも、ちゃんと俺の連絡先教えてやるからさぁ、ほら、スマホ出せ」
「……はい」
眉を顰めたカナタがスマートフォンを取り出し、ヒューゴのIDを確認する。同じようにシャロンもスマートフォンを取り出し、たどたどしい手付きでメッセージアプリを起動して、ヒューゴのIDを検索した。
「お前、メッセージアプリも使ったことないのか?」
冷やかなクライヴの声にぎくりと肩を震わす。
「……パパとは、いつも電話だから……」
「あーっ! シャロンちゃんのパパってジェラードさんだよな! すごいよなあ、ジェラードさんつったら人気ナンバーワンヒーローだもんなァ……あ! シャロンちゃんから申請きたぞ〜! ついでに結婚前提にお付き合いとか」
「だから教官、それセクハラだし、普通に気持ち悪いですよ! シャロンさんも、嫌な時はちゃんと、嫌だって言って良いんですよ!」
「えっと……はいっ、嫌な時はちゃんと言いますね」
そう答えてから、シャロンはギロリと冷たいクライヴの視線から逃げるように視線をスマートフォンに移す。
画面の中にはヒューゴの作ったグループに参加するか問うような内容が表示され、承諾を意味するボタンを押すとそのままメッセージ画面に遷移した。
シャロンの父親はこのバラム市のヒーロー、ジェラードだ。
誰もがきっと親子と思うであろう雪のような白い髪に、水色の瞳、血の気のない作り物のような白い肌……すべてジェラードから受け継いだものだ。
ただ1つ、性別だけが大きく異なっている以外は全てよく似ている。
「やっぱりそうなんですね。すごく似てるなって思ってました」
「えっと、あ……あのうっ、カナタさん! わたしには敬語じゃなくて大丈夫ですよ。パパのこととかで、あまり気を遣わないでくださいね」
「あ、ああ。じゃあ……俺のことも呼び捨てで。敬語もいらない。改めて、これからよろしくな、シャロン」
くだけた口調だが、全く乱暴さなども感じない優しげなカナタの声音に、シャロンもにこりと微笑む。
そんなシャロンとカナタの間を裂くように、ヒューゴが割り込んだ。
「待て、待て待て待て! じゃあシャロンちゃん、俺も君のこと呼び捨てにして、君も俺のことを呼び捨てにしようぜ。な。あー、野郎共もな」
上官にあたるものが何を言っているのかとシャロンは頭を傾げる。
カナタも不思議そうな顔をした。
「え、いや、教官は教官じゃないですか」
「良いんだよ! 良い! 俺のことは教官って呼ぶなよ。昔っからセンコーとか嫌いなんだよ。別に敬語も使わなくていいぞ。歳もそんな離れてないしさ、な? 友達みたいな感じで良いから、まじで仲間外れにすんなよな〜」
ヒューゴがそうして欲しいならばそれで構わない。シャロンはまたにこりと微笑みかけた。