未来
「なるほど、俺は死んだということか」
まるで、他人事のように呟いたルカに、死神と名乗る人物は補足をする。
「はい、正確には仲間に殺されました」
「そうか……」
仲間から殺された。その言葉を受けて思い出すことが出来た。どんな風に殺され、あの五人が冷たい瞳で自分を見ていたことに。
「悔しくないのですか?」
「まさか、そんな感情がある訳ないだろう」
悔しいというよりも、油断をした自分がバカバカしくて腹が立つ。
そもそもルカは知っていたし、わかっていたはずだ。
他の仲間と違って、好意的に見る者がいないことを。
恨む者、憎む者が誰よりも多いことを。
魔族との戦いは、決して英雄たちと魔族のみでの戦いではなかった。
あるとき魔族は、人族の村を一つ人質にしたことがあった。
それを知ったシリウスは、助けに行こうとした。もちろん、他の仲間たちも。
だけど、ルカだけは反対した。
村を助けるのは無理だと。今の自分たちの力では、魔族に対抗できないこと、人質を逃がす手段がないこと。
救済する手立てがないことを、主張して論破した。
そうして村を見捨てたら、戦う力のない人たちから非難を浴びて、リーダーであるルカは“無慈悲な悪魔”として恐れられるようになった。
だからきっと、自分が死んでも悲しむ人はいない。むしろ、死んでくれて嬉しいと思う人が多い。それに関して特に何も思わない。
死んだとしても問題はない。
(目的は果たした……。後悔はない)
「魔王を倒したからといって、平和になりませんよ」
「どういう意味だ?」
「そのまんまの意味ですよ。教えましょうか? 今、見ているこの景色について……」
まるで何かを試すような言い方に腹が立つが、この空間について知りたいと思っていた。
幻のようにみえるが、現実的な気がする。
知りたいと、一言も言っていないが、死神はサラッと隠すことなく言った。
「この景色は、未来のベルシュタイン王国ですよ」
「…………ふざけているのか」
「いいえ、本当のことです。私が今、ルカ様に見せているのは、魔王を倒してから数百年後の未来で、現実的になることです」
笑うことも、悲しむことなく、無表情で言った死神。
ルカは、改めて周りの景色を見る。
乾いてひび割れた地面に、木々は枯れ果てた姿。もちろん、花なんて一つもない。空は、灰色の雲が覆いかぶさり、太陽の姿を見ることが出来ない。
この景色が嘘か本当なのか確かめる方法はない。
だが、もし本当であれば何故こうなってしまうのか。知りたいと思ったから、死神にたずねた。
「死神、貴様は知っているのか。何故こうなってしまうのか原因を」
「はい、知っていますよ。簡潔に申し上げますと、こうなってしまったのは、シリウスのせいです」
「……詳しく聞かせろ」
死神から教えて貰ったことは、少なからずルカ自身も考えていたことだった。
魔王を倒してから数年後、シリウスはベルシュタイン王国の姫と結婚をし、次期国王となる。
国王が引退した直後、シリウスは国を好き放題するようになる。
国内の反乱と他国の侵略が重なり、ベルシュタイン王国は滅ぶことになった。
だが、それだけでは終わらずあらゆる国が争い、終わりの見えない戦争が始まり、最終的には世界が終わると死神は語った。
(愚かだな)
「そういうことですので、ルカ様には世界の未来を変えて貰いたいのです」
「何故?」
「ルカ様は、未来を変えることが出来る力を持っています。神から与えられた力を持っているからです」