プロローグ:勇者の咆哮
「ハッ、ハァ」
彼はゆっくりと息を吐きだす。
彼の体はひどい有様だった。
あけられた鳩尾、つぶれた眼球、失った左腕。
もう二度と戻ることのないものを彼は失っている。
失いすぎている。
それでもなお、愚直にも戦い抜こうとする在り方はとても滑稽だ。
彼は闘志を燃やし、男に無様でも一矢報いようとしている。
無理だ。
あの男に一矢報いることなどできるはずがない。
あの男に相対するというのがそもそも間違っている。
前提をはき違えている。
彼には才能がない。
力が足りない。
技術が足りない。
何もかも足りないのだ。
だが、彼はそのことを知っている。
なのに立ち向かうというのだあの男に。
私を守るなどという、くだらないことのために。
彼はただ持っているもの一つを奮い立たせる
それはきっと誰でも持っているもの。
それは勇気と呼ばれるもの。
彼は選ばれたものじゃない
ただ押し付けられた者だ。
私はそれを知っている。
彼はゆっくりと酸素で肺を満たした。
そして彼は男に言い放った。
「■■■■、さあショータイムだ。」
それはあまりにも格好つけで、中二で、威勢だけいい言葉だ。
彼はゆっくりと歩ぎだす。左手には鮮血を流して
彼は短刀をふるい、咆哮を上げて立ち向かった。
それは、まるで勇者のようだった。
時系列が少しごっちゃになるかも....