85話 「教会送り」の仕組みを知る
「墓地送り」。魔族達の復活制度。
俺達の「教会送り」はそれを模範したものだという、衝撃発言があった。
「「墓地送り」って魔族特有のよね……?」
「そう言ったであろう。お前の耳は飾りか?」
魔王に睨まれて今度はフローが怯む。すると、ザルドが口を挟んだ。
「誰かが「墓地送り」の制度を知って、仕組みを盗んだってことだよな?」
「ああ。200年ほど前か。ニンゲンは息の根を止めれば終わりだったのに、同じ顔が湧いて出るようになった。てっきり分身魔法の類かと思ったが、違う。
そこで、可能性は低いが「墓地送り」が盗まれたと考えるようになったのだ」
(デュークさんが言ってた「魔王が引っかかってること」って、これだったのか……)
確かに魔王の性格からして放ってはおけないだろう。1人で納得する。
「それで、俺達は代償に何を取られてるんですか?」
「推測ではあるがな。おそらく――」
「寿命、じゃないか?」
真横から声が飛んできて思わず顔を向ける。なんと、ザルドが遮ったのだ。しかしその顔は辛そうで、口元を震わせている。
魔王は意外そうに眉を上げただけだった。
「ほう?なぜそう思う?」
「少し昔の話になるんだが……」
ザルドは一度大きく息を吐いてから、ポツリポツリと話し始めた。
「俺、このパーティに入る前は幼馴染と2人でパーティ組んでたんだ、
俺もそいつもそこまで強くなかったから、何度も教会にお世話になったさ。
ある時、モンスターに負けていつものように「教会送り」になった。
だけど、俺の隣に幼馴染の姿がなかったんだ……」
「別の場所で復活したんじゃないの?私達の時みたいに」
「そう思って各地の教会を探したよ。でも、見つからなかった。司祭達にも聞いてみたが、「他の教会にいるのではないか?」の一点張り。
そこで、ふと気づいたんだ。もしかして「教会送り」になる度に寿命を取られてるんじゃないかって……」
再び静寂が流れる。寿命を取られているかもしれないという推測にも驚いたが、あの陽気なザルドが1人で抱え込んでいたなんて、全く考えなかった。
「だから、あんた、積極的に前線に出てたの……」
「ああ。少しでもリスクを減らせるならと思ってな。「教会送り」に疑問を持っているなんておかしいと思われそうで、誰にも言ってなかったんだ……」
「ザルド……」
かける言葉が見つからない。フローもアリーシャも辛そうな顔だ。
すると、空気を軽くするように魔王が鼻で笑った。
「フン、教会共は質が悪いな。「教会送り」を定着させ、この者のように疑問を覚えても言い出しづらい雰囲気にするとは」
「仕方ないじゃない。私達、何も言われてなくて……」
「どうして教えてくれなかったんでしょうか……」
「意図があったか忘れていたかの、どちらかであろうな」
「何よそれ!!どっちにしても無責任じゃない!!」
冷静に呟いた魔王にフローが掴みかかろうとする。
しかしデュークさんが立ちはだかり。フローが引き下がった。
「怒りはもっともだけどさー、ぶつける相手違うだろー?」
「そうだ。我にガッツいてどうする。その気迫を大司教にぶつけよ」
フローに怒りの剣幕で迫られても、魔王は調子を崩さなかった。
アリーシャはフローが落ち着いたのを見計らって、遠慮がちに魔王に声を掛ける。
「あの、1つお尋ねしても……?」
「なんだ」
「私達が寿命を取られているということは、魔族達も同じなんですよね?」
「我は寿命など取らん。その代わり、魂と肉体の再生までに短くても3日、長くて7日かかる」
「え?すぐに復活しないの!?」
フローの声に魔王はゆっくりと頷いた。
「「墓地送り」の管轄は我だ。魔族にのみ適用される復2制度。
回数に制限はないが、ペナルティが2つある。1つは復活に日数を要すること。もう1つは我に殺されれば2度と復活できないことだ」
(復活に日数がかかるのは知らなかったな……。俺もそれ以上は気にしたことなかったし)
魔王に殺されたら終わり、という話はデュークさんから聞いていた。
アリーシャが神妙な顔つきで呟く。
「「教会送り」とは違いますね……」
「模範にしただけだからな。詳細は管轄者に聞くしかあるまい」
「そうね……。管轄者って大司教でしょ?どうせ年齢を聞かなきゃいけないから、ついでね」
フローの言葉に俺達は頷いた。
その後、俺はまだ表情の暗いザルドに近づいて声をかける。
話し終わってからずっと俯いていて、見ているのが辛い。
「ザルド、気づいてやれなくてごめんな……」
「謝ることじゃないさ。話さなかった俺にも非はある。
それに、俺はカルムを利用したしな」
「え?いつ?」
「お前が魔族の配下になった理由って「死にたくなかったから」だろ?
それを聞いたとき、俺はフロー達と一緒に呆れたけど、本当は「お前も怖かったのか」って思ってたんた」
「それ、その時に言ってくれよ……」
そしたら、フロー達の俺に対する態度も少しは違ったかもしれない。
ザルドは顔を上げると、少しだけ笑みを浮かべた。
「悪い。今の今まで言い出す勇気がなかったんだ。
でも……お前が似た感情を持っててくれたのが嬉しかった」
言うザルトを見て胸の奥が温かくなる。
今更とはいえ、俺と同じような考えを持ってくれている人が身近にいて嬉しかった。
「…………。ザルドは死ぬの、怖くないのか?」
「全く怖くないと言ったら嘘になるが、命乞いするほどではないな」
「悪かったな、命乞いして……」
「ははっ。でも俺はカルムの選択は間違ってなかったと思うぜ。でなきゃ、今こうやって魔王達と話せてないだろ?」
「ま、まぁ……確かにそうなんだけど」
ようやくザルドが笑顔を見せてくれたので安心したが、死をあまり怖がっていないと知って、ガッカリした。
(やっぱ命乞いするほど死が怖いって異常なのか……)
ふと、顔を上げると魔王が俺を凝視していた。
しかしそれも一瞬で、全員に顔を向けると口を開く。
「さて、立ち止まっている暇などあるまい。
とっとと向かうぞ」
「何であんたが偉そうに仕切ってるのよ!?」
フローに尋ねられた魔王はとんでもないことを言い放った。
「我もついてってやるからだ」
「はい!?」
「え……」
「デュークがついてきたことにさえヒヤヒヤしてるのに、あんたもついてきたら余計に悪い一味扱いされるわ!」
「見過ごせんのだ。魔族の王として、なぜ「墓地送り」を模範したのか問いたださなければならん」
静かな、だけど重い威圧に俺達は黙りこくるしかなかった。
ずっと黙って聞いていたデュークさんが笑い声を漏らす。
「ヒハハッ。断る理由なんてないと思うぜー?マーさん百人力なんだからさー」
「そりゃ、そうですけど……」
(魔王だからな。それにフロー達も強さは知ってるし)
だからこそ不安なのかもしれない。デュークさんならともかく、魔王は勝てなかった相手。裏切られたら太刀打ちできないのは明白だ。
「疑うもの無理はない。我のことは信用しなくても構わぬ」
「あ、あの……私達を攻撃しないんですか?」
アリーシャの問いかけに魔王は首を横に振った。
「お前たちが敵意を見せない限りはな。我が誰これ構わず攻撃すると思ったら大間違いだ」




