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命乞いから始まる魔族配下生活〜死にたくなかっただけなのに、気づけば世界の裏側に首突っ込んでた〜  作者: 月森 かれん
第2部 「教会送り」追求編

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魔王と語る

 すかさずフローが魔王らしき少年を指差す。


 「あ、あんたっ!あの時の!」


 「そうガッツクな。落ち着いて話もできん……」


 少年――魔王はデュークさんの手を振りほどいて、呆れたように肩をすくめた。声は少し高くなっているが、この話し方は間違いなく魔王だ。


 「ガッツきますよ!だって、あなたが暴露したから私達が追われることになったんですよ!」


 珍しくアリーシャがハキハキ喋っている。それでも魔王は小さく息を吐いただけだった。

 俺達が追われる原因を作ったのに、罪悪感もないみたいだ。

さすがは魔王。


 「仕方あるまい。ああでもしなければ、誰も違和感に気づかぬままであった。とはいえ、我はお前に便乗しただけだがな」


 そう言って魔王は顎で俺を示した。少しムカついたが、顔に出さないように気をつける。


 「た、確かに最初に言いだしたのは俺ですけど……」


 「あの町で数日間張っておったが、あとにも先にも尋ねたのはお前だけだ。皆、人形のように黙って話を聞いておったわ」


 「わざわざ見張ってたのか!?」


 ザルドに噛みつくように言われても、魔王は微動だにしていない。

代わりにデュークさんが1歩前に出て、近づきすぎているザルド達を眼光で威嚇し始めた。


 「ああ、教会共の懐を探ってやろうと思ってな。まさか我が生きていて、しかも幼くなったなどと夢には思うまい」 


 そう言って、ニヤリと意地悪く口角を上げる。


 「……ニンゲンの子どもになりきるのは、なかなか楽しかったぞ?」


 誰も何も言わなかった。ただ、同じことを思っただろう。


 (魔王(こいつ)、全て計算してたのか!?)


 再び俺達は絶句した。


 相変わらず、周辺には誰もいない。足音どころか、鳥の声や風の音さえも消えてしまったかのように静まり返っている。

茂みの陰にはなっているが、少し入られたらすぐにバレてしまうだろう。

 本音を言えば場所を移動したかったが、とてもそんなことを言える空気ではなかった。

 フロー達や魔王は今の状況がそこまで気になっていないみたいだった。


 (もしかしたら魔王がバリアでも張ってくれてるのかもな……)


 何か対策でも取っていなければ、普通の声の大きさで話すことはないだろう。自分で自分を納得させるように頷いた。


 

 しばらく沈黙が続いた後、俺はみんなが気になっているであろうことを尋ねてみる。


 「それで……あの、なんで子どもになってるんですか?」


 「……禁忌の代償だ」


 「いったい何したわけ!?」


 「それは今はどうでも良かろう。急ぎの話でもない」


 (どうでもよくねぇけど!?)


 思わず心の中でツッコんだ。ザルドたちも何か言いたそうにはしていたが、子どもの姿とはいえ魔王。いつ気が変わってもおかしくない。

 また場が静寂に包まれてしまう。 

 

 (あれ?そういえばデュークさんがおとなしい……)

 

 変わらず、目で威嚇はしているもののそれだけで、どこか楽しそうにニヤニヤしながら俺たちを見ている。

 ふと、俺と目が合うと、なぜか満面の笑みを浮かべてきた。


 (怖ぇ!?俺何かしたっけ!?)


 背筋が寒くなって数歩後ずさった。咄嗟に今朝から今までの行動を振り返るが、デュークさんを刺激するようなことはしていないはずだ。

さすがに人の目がある前で大胆な行動はしないとは思うが、それでも警戒はしておく。

 俺の動きに気づいたフローが怪訝そうに声をかけてきた。


 「カルム、あんた何で数歩下がってるのよ?」


 「と、特に意味はないから……大丈夫」


 「そう?変な気配感じ取ったとかならすぐ言いなさいよ。

あんた、ときどき感鋭いんだから」


 「ああ……。ありがとう、フロー」


 直感を褒められるとは思わず、ザルドとアリーシャに顔を向けると2人共コクコクと頷いている。


 (もしかして、直感が鋭いのに気づいてなかったの俺だけ!?)


 少しショックを受けた。当人が一番最後に気づくなんてことがあるのだろうか。

 

 魔王は俺とデュークさんの密かなやり取りは気づいていたらしく、小芝居のようにわざと大きくため息を吐いた。それからゆっくり顔を上げる。

 

 「ところで、お前達は何をしようとしている?」


 低い、真剣な声と赤い目に見据えられて、俺達は顔を見合わせた。

みんな不安の色を浮かべているが、ここで躊躇して戦闘になっても困る。

 俺はかいつまんで話した。


 「なるほどな。大司教の年齢を尋ねにいく、か。「教会送り」の仕組みにも触れるだろうし、ちょうど良いだろうな」


 「ど、どうして「教会送り」が出てくるんですか?」


 アリーシャの質問に魔王は肩をすぼめた。どうやら呆れているらしい。

そして彼女を見据える。


 「逆に聞こう。なぜ、お前達は完全な状態で復活できる?

しかも、装備も無事でな」


 「それは……教会に登録してるからでしょ?おかげで戻れるわけだし」


 少し怯んだアリーシャの代わりにフローが答えた。しかし自信がないのか、不安が大きいのか、声が震えている。

 その様子を見ていたアリーシャは小さく拳を握ると、視線を魔王に向けた。


 「ま、まるで何か取られてるような言い方ですね……」

 

 「リスクのない復活などあると思うか?」


 「実際そうなのよ!?だとしたら、いったい何を取られてるっていうの!?」


 そう叫ぶフローの顔に汗が浮かんでいた。便利だと思っていた「教会送り」に、ペナルティがあるかもしれないことを知って動揺しているのだろう。

でもそれは、俺達も同じだった。


 (気づかないうちに何かを取られている?何だ?) 


 「我の推測ではあるが、確実にあるものを取られているだろう。

だが、その前に驚愕な事実を教えてやる。探りを入れて確信を持った」


 俺達は固唾をのんで魔王の言葉を待った。

間違いなく、とんでもないことを言おうとしている。

 魔王はわざわざ俺達一人一人に目を向けてから、重々しく口を開いた。


 「「教会送り」は……我ら魔族の「墓地送り」を模範したものだ」

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