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命乞いから始まる魔族配下生活〜死にたくなかっただけなのに、気づけば世界の裏側に首突っ込んでた〜  作者: 月森 かれん
第2部 「教会送り」追求編

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81話 信頼が揺れる

 「見逃してくれたんだよな……」


 エリクさん達が去った方向を確認しながら呟く。帰ったフリをしてまだ近くにいるのではないのだろうか。自分でも信じられていなかった。

 緊張から解き放たれたフローが大きく深呼吸をしながら俺に声をかける。


 「アンタが彼等と知り合いなんてね……」


 「知ってるのか、フロー?」


 「知ってるも何も、魔王城に突撃したときに先陣をきったパーティよ!?参加した冒険者なら全員知ってるわ!!」


 「そうだったのか……。普通のパーティではないなとは思ってたけど」


 魔王城で会った時も、彼等は落ち着いていて全く取り乱さなかった。場慣れしている感じだった 

関心しているとフローが呆れたようにため息をつく。


 「まさか魔王の配下になっていたことが、こんな所で役に立つなんてね」


 「そ、そうだな……」


 (あんまり話題にしてほしくねぇんだけど)


 苦笑しながら答えるしかなかった。

するとアリーシャが目を泳がせながら口を開く。


 「で、でも、そのおかげで話を聞いてくれて、見逃してもらえましたし。悪いことではなかったと思います……」


 「それに、少しは時間を稼いでくれるみたいだから、その間に進んでおこうぜ」


 ザルドが軽快に言って歩き出そうとした、その時だった。


 「ゴタゴタは終わったか〜?」


 聞き慣れすぎた声が頭上から響いたのと同時に、俺達の前に黒い影が降り立つ。その正体は紛れもなくデュークさん。木の上に避難していたみたいだ。

 すかさずフローが問い詰める。


 「アンタ、どこ行ってたのよ!?」


 「そうカリカリすんなってー。ちょっと様子見てただけだぜ。

髄分面白そうな状況だったじゃない?」


 「俺達としてはかなり危なかったんですけど」


 少しムッとしながら答えた俺を見て、デュークさんが笑う。何か面白かったらしい。


 「それにしても、てっきり下りてきて暴れるかと思ったんだが……」


 ザルドが首を傾げながら言うと、デュークさんは少し口を曲げた。


 「確かに俺は戦い好きだが、さすがに空気読むわー。まぁ、出ていっておっ始めてもよかったけど」


 デュークさんの言葉を聞きながらその場面を想像する。


 (まず、魔族だって騒いで……俺達もビックリしたフリはしただろう。でも戦闘に持ち込んだら、たぶんデュークさんは俺達を攻撃しないはずだから……。それでエリクさん達に怪しまれて、問答無用で連れて行かれてたかもな)


 「空気読んでくれて、ありがとうございました」


 デュークさんにも頭を下げると、いきなり叩かれた。なんとなく懐かしさを感じながら頭を押さえる。


 「痛ってぇ!?」


 「アンタ、誰でも彼でも簡単に頭下げすぎよ!もう少し節度ってものを考えたらどうなの!?」


 フローが赤い目を細くして俺を睨んでいた。さっきから彼女の機嫌を損ねてばかりのような気がする。


 「ヒハハッ!魔法使いちゃんの言うことも最も。でも、それがモトユウちゃんだろ〜?な?」


デュークさんがとりなすように俺とフローの間に割って入った。フローはまだデュークさんを警戒しているようで、数歩後ずさる。


 「……そもそも何であんたはカルムに引っ付いてるわけ?」


 「あ?……あぁ、だってモトユウちゃんは俺のお気に入りだから。な?」


 確認するように見つめられて固まった。肯定も否定もできない。

 俺の答えを待っているのか、フローもデュークさんも喋らなかった。


 (でもこれ、答えるしかねぇよな……。フローかデュークさんどちらかの機嫌が悪くなる)


 しかし、俺は答えを言わなくてよくなった。

 なんとアリーシャが口を挟んできたのだ。


 「意見が一緒なのはあまり嬉しくはありませんが、カルムさんらしいのは賛成です。

「頭下げすぎ」を取ったら何が残るでしょうか……」


 「アリーシャ、それ褒めてるの?貶してるの?」


 「ほ、褒めてます」


 思うことはあったが、口に出さないことにした。時々アリーシャは毒舌になるが、自覚はないみたいたからだ。


 「とりあえず歩かないか?せっかく見逃してもらえたんだからよ」


 ザルドの一声で少し雰囲気は悪いまま、歩き出した。

 誰も一言も発さないまま淡々と西に向かう。


 俺はデュークさんについて考えていた。少し引っかかることがあるからだ。


 (デュークさんがついてきた理由……「興味があるから」だったよな。

事実なんだろうけど、まだ他にもありそうな気がする)


 視界に映っては消えていく木々を眺めながら、頭を回転させる。


 (魔王は生きてるのに。いや、そもそも何でデュークさんは1人なんだ?) 


 他の幹部、へネラルさんやアパリシアさんも生きているのは確定だ。

合流でも狙っているのだろうか。


 「みんな、ちょっと止まってくれ」


 3人とも不思議そうな顔で足を止める。


 「何よ?忘れ物?」


 「いや、結局デュークさんが何で俺達についてきてるのか、聞いてなかったなって思ってさ」


 「確かにそうですが、今ですか?」


 「でもなぁ、後で裏切られても困るぞ」


 ザルトの一言が決定打になったのか、フローとアリーシャは立ち止まることに納得した。

 さっそくデュークさんを呼ぶ。


 「な〜に〜?雑用?」


 「いいえ。そろそろ、俺達についてきた理由を教えてくれませんか?」


 「……言ってなかったか?」


 「詳細は後で話すって言ったじゃない!それから聞いてないのよ!」


 フローの勢いにデュークさんは少しだけ口を曲げると、真顔になった。

その瞬間、空気が張り詰め、俺達は無意識に体を強張らせる。


 「あぁ、そういやそうだったな。相変わらず勘鋭いじゃん、モトユウちゃん?」


 「……教えてくれるんですよね?」


 「いいぜ。別に大した理由じゃねぇし。2つあってよ。

 1つ目は「アンタ達に興味があるから」。そして、2つ目は「俺が1人ぼっち」だからだ」

 

 「は?」


 「へ?」


 予想外の理由に、俺達は開いた口が塞がらない。

 しかし前にも似たようなことがあったおかげで、いち早く立ち直ったフローが問いただす。


 「ち、ちょっと待ちなさい!1人ぼっちって何よ!魔王は生きてるんでしょ!?」


 「ああ。でも場所まではわからねぇ。当然、他のヤツラもな」


 「だ、だからってそんな理由で……」


 「そう。そんな理由」


 遮られた上に真顔で返されて、アリーシャは小さく悲鳴を上げた。


 「俺、意外と寂しがりなんだぜ?」

 

 肩をすくめながらも、淡々と語るデュークさんに何も言えなくなる。


 「えっと、じゃあ、誰か仲間が見つかったら抜けるんですよね?」


 「ああ。それにずっと俺がくっついてるわけにもいかないんだろ?」


 そう言って、デュークさんがフローとアリーシャに目を向ける。2人は気まずいのか、すぐに顔を逸らした。

 すると、ザルドが声を上げる。


 「もし、最初に見つかったのが魔王だとしよう。そしたらお前はどうするんだ?」


 「そりゃあ、じゃ、俺ここまで、って抜けるわ。……何が言いたい?」


 「その後、魔王から俺達を倒せと命令が出たら……」


 「従うぜ?だってマーさんだからな」


 間髪入れずに答えるデュークさんに、俺も含めて全員で震え上がる。

ところが、デュークさんはこの状況を楽しんでいるように口角を上げると、話を続けた。


 「でも、マーさんはそんな命令出さないだろうよ。なぁ?」


 再びデュークさんが俺を見つめてくる。黄色の目がさっきより輝いているように思えた。


 「って、何で俺なんですか!?」


 「モトユウちゃんしかいないだろ。マーさんはモトユウちゃんに会って、さらに緩くなったんだからさ」


 「まるで、俺が頼めば見逃してもらえるような言い方やめてくださいよ」


 「いや、実際見逃すと思うぜ?モトユウちゃんもマーさんの態度は知ってるだろ?」


 思わず頷いてしまった。

 魔王は表向きは人間に興味があるから俺の命乞いを受け入れた。しかし実際は俺の様子が可愛かったらしい。さらに何かと気遣ってくれたという特典つきだ。

 よほどの理由でもない限り、俺達を倒せ、とは言わないはずだ。


 やり取りを見ていたフローが怪訝そうに眉をひそめて言った。


 「カルム……あんた、前世魔族だったんじゃない?」


 「何でそうなるんだよ!?」


 「魔王に一目置かれるって、なかなかできることじゃないだろ?」


 ザルドにまで言われて、一瞬怯んだ。でもここで負けるわけにはいかない。


 「違うと思う!

  と、とにかく、デュークさんは仲間と合流するのが狙いで、見つかった瞬間俺達に斬りかかるとかないんですよね?」


 「あ、それはないわー。俺、突拍子な作戦苦手だから」


 デュークさんの言葉を聞いた俺は、一気に顔から血の気が引いた。


 (嘘だ……)


 「それはない」は本当だったとしても、「突拍子な作戦が苦手」なのはあり得ない。

 オーク討伐の時も、ゴーレム戦の時も、どちらも突拍子な作戦だったからだ。


 (でも、こんな時に嘘?まさか、ここに来て一気に信頼が下がるなんて……)


 「嘘……ですよね……?」


 俺の声は音にならなかった。喉が軽くなっただけだ。


 (お、俺の気のせいだよな?でも、できる限り早く聞かなきゃ……) 


 恐怖とプレッシャーで手が震えてきた。

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