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命乞いから始まる魔族配下生活〜死にたくなかっただけなのに、気づけば世界の裏側に首突っ込んでた〜  作者: 月森 かれん
第2部 「教会送り」追求編

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野宿する②

 「これからについて、か」


 「大司教様に会うってことだけしか決まってませんでしたね……」 


 誰も居場所がわからないため1度切られた話だ。まず、居場所の推測から始めないといけない。


 「でも大司教様ってとても重要な人なんだよな?そんな人が危険にさらされるような町にはいないと思うんだけど」


 「それは思ったわ。だから、魔王城に近いドリアスやナキレにはいないはずよ」


 「あの、大司教様についてなんですけど……」


 アリーシャが遠慮がちに口を挟んだ。何か思い出したのだろうか。俺も含め、皆興味津々で耳を傾ける。


 「彼は最も神聖な場所で眠りにつかれている、と習ったのを思い出して……」


 「最も神聖な場所?」


 「はい。なんでも、神様の声を最も近くで聞けるからだとか……」


 アリーシャの言葉を聞いたザルドは肩をすくめた。


 「悪い、教会関連についてはサッパリだ」


 「俺も……」


 賛同する。俺は魔力が皆無なこともあって興味がわかないからだ。

アリーシャは俺達の反応を見て小さく頷くと、ゆっくりと口を開いた。 


 「それで1つ思い当たる場所があって……。自信はありませんが、トゥラクです」 


 「ああ……」


 フローとザルドが感心したように声を漏らす。

 トゥラクは魔王城から最も遠い、且つ発展している町だと聞いている。

規模も大きく、たいていの素材や道具は揃っているので拠点にしている冒険者も多いし、モンスターによる襲撃もほぼないらしい。


 (2人とも行ったことがあるのか?俺は行ったことないけど……)


 俺の出身村はナキレから南下した所にひっそりとある村だ。町の情報は入っていたが西側に行こうとも思わなかった。


 「トゥラクを目指したらいいのか?」


 「そうだけど、ナキレからどのぐらいかかるかしら?」


 「ナキレはだいたい魔王城とトゥラクの中間に位置しているので……」


 「2、3日はかかりそうだな」


 ザルドの言葉に皆閉口した。その間に、司祭達や冒険者に見つかる可能性が高い。

 長い沈黙を破ったのはフローだった。


 「……こんな所で休んでる暇あるの?」


 「ないのかもしれない。だけど、これから先休めるかどうかもわからないから、俺は今の内だと思ったんだけど」


 俺の言葉に皆は複雑な表情を浮かべて再び黙ってしまった。


 「どちらを優先すればいいのでしょう……。難しいですね」


 「俺は休みたい!」


 ザルドが意思を尊重するように拳を突き上げる。いきなり大声を出されたとの決定的な意見に俺達は思わず注目した。それに気づいたザルドはスゴスゴと腕を下ろして、補足する。


 「です…………」


 「じゃあ、今から休んじゃいましょ」


 「いいのか?」


 「ああ!休もう!」


 はっきり意見を言ってくれたのは助かった。勢いを止めないためにもリーダーである俺が断定しないといけない。 

 そこからは早かった。みんなでレンジャーズキャンディを食べて、地面に転がっている砂利や小石をある程度払ってから横になる。

 思っていたよりも疲れていたようで、すぐに眠りに落ちた。 





 そのまま朝を迎えるかと思ったのに、パッチリ目が覚めてしまった。

隣ではザルドか゚いびきをかいていて、薄青のバリアの奥ではアリーシャとフローが寝息を立てているのが聞こえる。慣れない環境なのに眠れているのはスゴい。


 (やっぱり皆も疲れてるよな……。状況が変わりすぎたし)

 

 不満が出てもおかしくはない。厳密にいえば出ているが、パーティ解散に陥るほどではなかった。


 (あっ!そういえばデュークさんは!?)


 いろいろ話していて、見張りを頼んだままにしていることを忘れていた。 

 音を立てないように気をつけながら体を起こし、周囲を見回す。洞窟内にはいない。つまらなくなって立ち去ったのだろうか。

 ゆっくりと立ち上がって入口を出た所にデュークさんがこちらに背を向けて佇んでいた。姿を見つけてホッとする。心配しすぎていたようだ。

 気配で察したのかデュークさんが振り返った。


 「よう、モトユウちゃんー」


 「デュークさん。てっきり立ち去ったのかと……」


 「ヒハハッ、自分からついてくって言っといて消息絶つほど身勝手じゃないぜ、俺は。

  見張りついでに時々モトユウちゃん達の様子は見てたんだけど、3回目ぐらいに見た時に皆寝てたからさー。睡眠薬でも盛られたのかと思った」


 「休んどけるうちに休んどこうって話になったんです」


 「あっそうー。

  で、もう寝なくていいワケ?」 


 確かめるようにグッと顔を近づけられて思わず後ずさる。


 (相変わらず急に来るな。デュークさんらしくていいとは思うけど)


 「そのうち眠くなると思うので、起きてます。デュークさんは寝なくていいんですか?」


 「おう。7日間ぐらいは寝なくても大丈夫ー。

  そうだっ!寝れないんならさ、ちょっと話そうぜー?」


 「はい」


 (聞きたいことがあったから、ちょうどよかったな)


 魔王討伐の真相ととここまでの経緯についてだ。なかなか話せる内容ではないので、今の内に聞いておきたい。

 するとデュークさんは軽く俺の肩を掴んでくる。


 「ただし、条件がある」


 「へ?」


 デュークさんはアグラをかくと、そこに俺を座らせた。しかも腰をホールドされて動けない。


 (これ何の意味が!?逃げる気なんてねぇけど!?)


 「こ、この体勢で?」


 「おう。んで、何から話す?」


 「魔王討伐の真相についてです」


 全面戦争が起こった日、デュークさんと別れてから俺が何をしていたのかを要約して伝えた。

 そして少し間をおいた後、昼間思い浮かんだ答えについて話す。

 

 「デュークさんは昼に「倒した魔王は偽物」って言ってました。

それで……俺が倒してしまったのは、イノサンクルーンですよね?」


 「ああ。やっぱ気づいてたか」


 「分身だ身代わりだって飛び交ってるときに。ごめんなさい!!」


 城にいた個体だろう。ピンチを助けてもらって仲良くなったのに、化けていることにも気づかず倒してしまった。モンスターに「墓地送り」は効かない。

 するとデュークさんは励ますように腕に力を入れて、うなだれている俺の体を立たせる。


 「イノちゃんは恨んでないと思うぜ。何か言ってなかったか?」


 「困った時は直感に頼れ。あと倒されるなら俺の方がいいって……」


 「それなら大丈夫だな」


 「デュークさんは怒ってないんですか?」


 思わず尋ねた。あんなに親しそうにしていた相手がいなくなって何も思わなかったのだろうか。


 (いや、何も思わなかったはないな。感情はしっかり出すし)


 「怒ってないぜ。部下モンスターとはいえ、倒される度に怒ってたら拉致があかねぇ。

  あと、マーさんを恨むのも違うからな。マーさんも身代わり頼むのかなり辛そうだったからよ」


 「でもどうして身代わりを?死にたくなかったからとかですか?」


 「「教会送り」に引っかかってるところがあるんだと。だからまだ倒れるわけにはいかないってさ」


 (引っかかってること?)


 尋ねようとも思ったが、デュークさんの話しぶりからおそらく詳細までは知らないみたいなので言葉を飲み込んだ。


 (魔王討伐の真相はわかったから、次は今までの経緯か)


 背筋を伸ばして支えが不要なことをさりげなく伝えてから口を開く。


 「もう1つ聞きたいことがあるんですけど……」


 「な〜に〜」


 「デュークさんはどうしてナキレにいたんですか?」


 「モトユウちゃん探し回ってたのよー」


 予想外の理由で思わず首を後ろに向ける。デュークさんは満面の笑みだった。


 「俺を……?」


 「おう。襲ってやろうと思って」


 「え゛!?」


 (襲う!?身体的ダメージ……な訳ないよな。やっぱりあっちだよな)


 冷や汗が背中を流れる。今までのやり取りからして、特別な事情でもない限りデュークさんが俺にケガを負わせることなんてないはずだ。

ゆっくりと顔を正面に向けた俺を気にせず、デュークさんは話を続ける。


 「それでさー、外壁登って屋根伝いに町の中走ってたら見覚えのある顔が司祭共に追われてるんだもん。俺から見ても異常だったぜ、アレ」


 「あの件は、本当にありがとうございました。そのままだったら捕まってたので」


 「モトユウちゃん達、いったい何したの?」


 「話してませんでしたっけ」


 思い返してみるが話した記憶はない。要点だけ説明した。


 「ふ~ん、大司教とやらが長寿で、それを知っただけで追いかけ回されたと。何か隠してるのは明白だな」


 「やっぱりそう思いますよね」


 「ああ。俺ですらおかしいと思ってるんだから、お仲間も同じ考えなんじゃない?」


 「はい。なので、ひとまず大司教様に会って年齢を確かめようって話になってます」


 「なるほどねぇー」


 デュークさんが呟く。魔族だからかそこまで関心がないように見えた。


 (っていうか、いつまでこの体勢なんだ?そろそろ離してほしいんだけど) 


 しかし当の本人には離す気はないようで、腕の力は籠もったままだ。

デュークさんがどう思ってるのかわからないまま話は続く。


 「ところでモトユウちゃん、俺が何かしそうになったら止めるってぇ?」


 「え……は、はい。もしもの話ですけど」


 「具体的には?」


 「い、言えません。奥の手ってやつなんで」


 (デュークさんのこと嫌いになります、が最終手段なのも変な話だけど)


 空気がピリピリとしたものに変わり、嫌な予感がして鳥肌が立つ。

今から奥の手を見せろと言われるかもしれない。 


 「へ〜ぇ、奥の手ねぇ〜。俺が裏切りそうになったら止めに来るか?」


 「そ、そのつもりではいます」


 「ヒハハッ、楽しみにしとこーっと」


 笑っているのに寒気がした。デュークさんの声はいつも通りだったが、なぜか鳥肌はおさまらなかった。

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