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命乞いから始まる魔族配下生活〜死にたくなかっただけなのに、気づけば世界の裏側に首突っ込んでた〜  作者: 月森 かれん
第2部 「教会送り」追求編

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野宿する①

 同じ場所に長時間留まるのも危険なため、森の中を移動しながらこれからについて話しだす。

 

 「とりあえず夜を過ごせる場所を探さないとな」


 「そうですね……」


 「最悪……だけど司祭達に捕まるよりはマシね」


 正直、森で一晩過ごすのは不安だが、目まぐるしく変化した状況に皆疲れているはずだ。 


 (寝ている間に発見されて囲まれる……って可能性もあるけど、これから先休めるかどうかもわからないしな)


 あれこれ考えているとザルドが頷きながら口を開く。


 「だが、この辺りでちょうどいい場所なんてあったか?」


 「どうでしたっけ……」


 「洞窟でもあれば雨風は凌げるから助かるんだけど、そんな都合のいいものあるわけないわよね」


 ノースウッズは木々が生い茂っているので隠れて移動するのはうってつけだが、一晩過ごすとなると厳しいと思う。フローの言う通り洞窟でもあれば助かるが、この辺りにあっただろうか。


 「じゃあ俺が見てこようかー?」


 風が吹いたかと思うと、気づいた時には正面にデュークさんが立っていた。

フローの言いつけ通りかなり後方からついてきていたはずなのに、相変わらずの素早さにはビックリさせられる。


 「後方からついてこいって言ったじゃない!!」


 「仕方ないじゃん。歩くペース落とされたら気になるだろー。

  で、何か探すなら俺が行って来るけど?」


 「そう言って好感度上げるつもりね!?」


 「悪い?」


 即答されてフローか゚指をさした姿勢のまま固まった。言い訳でもするかと思っていたらしい。


 「ヒハハッ!異論ねーな?じゃ、行ってくるわ」


 デュークさんは走り去っていってしまった。残された俺達は顔を見合わせる。


 「なんか調子狂うわ。あいつ、本当にデュークなの?」


 「対峙していた時と雰囲気が違います。殺意を感じませんし」


 「本物なのは間違いないけど、俺もここまでとは……」


 引き入れた俺だが言うのもなんだが、困惑させてしまって申し訳ない気持ちになる。


 「あいつにはビックリさせられっぱなしだが、信用はできないな。俺達についてきたのも、もしかしたら魔王から何か言われているのかもしれないし」


 「そうね」


 「だとしたら、魔王は何を企んでいるのでしょうか?」


 「アリーシャ、どういう意味?」


 意外な発言に皆がアリーシャに注目する。彼女は恥ずかしいらしく、少し顔を赤くしながら口を開いた。


 「え、えっと、もし魔王が世界征服を企んでいたら私達を助けるなんてことはしないはずですし」


 「デュークの独断ってことか?」


 「そうかもしれないと思っただけですので……」


 アリーシャの説明をフローは腰に手を当てて聞いていたが、ふと顔を上げると俺に向き直る。


 「こういう時のカルムよ」


 「へ!?俺!?」


 まさか俺に振られるとは思わず、声が裏返った。俺に意見を求めるなんて珍しい。フローは少し呆れたように俺を見ながら話を進めてゆく。


 「何とぼけてんの。あんたは魔族側にいたんだから、少しぐらい何か知ってるでしょ?」


 「ま、まぁ……」


 (ごもっともだけど)


 聞かれたら答えるつもりではいた。とはいえ、なぜか気乗りはしなかったので、「墓地送り」と魔王が魔王らしくない、ということを話した。


 「私達で言う「教会送り」のようなものがあるなんて……」


 「だから倒したはずのデュークが生きていた訳か。厄介だな」


 「まぁ何となくしか教えてもらってないけど」


 「それ、十分スゴいわよ。普通教えてもらえないでしょ」


 フローから褒め言葉が出るのはなかなかないことなので少し嬉しかった。

 嬉しさの余韻に浸っていると、フローが怪訝そうな表情で尋ねてくる。


 「さっきから気になってたんだけどモトユウって何?」


 「魔族の所にいた時、どうしても自分の名前を思い出せなくて。一時的な呼び名――」


 「はぁ!?あんた自分の名前忘れてたの!?」


 「一時的!一時的だから!」


 俺の必死な弁明を聞いてフローは問い詰めるのは勘弁してくれたが、納得はいっていないようでブツブツと呟いている。

 すると探索に行っていたデュークさんが帰ってきた。


 「盛り上がってるとこ失礼ー。よさそうな感じの場所があったぜ」


 「え、あったんですか?」


 「おう。狭いけどな」 


 デュークさんの後についていくと、そこには苔やツタに覆われた岩肌があった。一見するとただの岩壁のようだが、よく見るとツタの隙間に暗い空間がのぞいている。ツタをかき分けると、屈まなければ通れないほど低い入口が現れた。中に入ると、外よりもひんやりとした空気が漂っていた。

奥行きはそれほどなく、壁際に身を寄せれば5人が横になれる程度の狭さだが、雨風はしのげそうだ。

 フローが魔法で灯りを作りながら意外そうに呟く。


 「こんな都合のいいことあるのね……」


 「み、見つかってよかったですね」


 「見つからないよりはいいけど、何か起こりそうで怖いわ」


 「起こったら起こったで対処すればいいさ。4人揃ってるんだから」


 「あんた呑気よね……」 


 フローに言われるとザルドは軽快に笑った。それにつられて俺やアリーシャも頬が緩む。

 するとフローが何かを思い出したように声を上げる。


 「寝場所についてだけど、男3人は入口付近で寝なさいよ!あたし達はバリア張った奥で寝るから!」


 「はいっ!」


 「別に敬語じゃなくてもいいわよ!!」


 フローの話し方は少し苦手なため、つい背筋が伸びてしまう。それでも、なんだかんだ言いながらデュークさんを数に入れてくれていることに安心した。


 (フローの案には賛成だな)


 反対側から破壊でもされない限り、女性陣が奥で寝る方が安全だろう。


 「あまり目立った行動はできないわね。追手が近くまで来ているかもしれないし」

 

 「そうですね。。ですが、今度は食べ物が……」


 「それならどうにかなるかもしれないぜ」


 アリーシャの言葉を遮りながら言うザルドの両手には、手のひらに収まるサイズの革袋が2つ。フローが体を震わせながらそれを指さした。


 「あんた、それ……」


 「酒場で買った「レンジャーズキャンディ」だ」 


 「レンジャーズキャンディ」とは、その名の通り冒険者御用達の携帯食で、1粒食べるとおよそ半日分の栄養を補えるというシロモノだ。ただし1日に1粒までと制限があり、守らないと数日は腹痛に見舞われるそうだ。


 ザルドは大食いで、食事を終えた後も物足りないのか所持金で勝手に食料を買ってくることがあった。散々俺達(特にフロー)から指摘は受けているのにまだ治っていないようだ。


 「いつもは1つなのに……」


 「なんか虫の知らせってヤツで、1つじゃ足りないような気がしてな」


 (役に立つ日がくるとは……)


 俺はザルトに歩み寄ると肩に手を置いて感謝を伝える。


 「ザルド、グッジョブ!」


 「ありがとうございます!ザルドさん!」


 「え?感謝されてる?」


 「見りゃわかるでしょ!?食糧問題どうしようってなってる時に食糧出したら喜ばれるに決まってるじゃない!」


 フローに言われてザルドは照れくさそうに頬をかいた。


 「これからも買ってきていいか?」


 「いいけどせめて買う前に一言教えてくれ」


 「わかった」


 最も苦労すると思っていた食糧問題が解決してしまった。喜ぶことだが、呆気なくて少し寂しい気もする。


 「もう今からでも休むか?それとも――」

 

 「あのさー、俺何したらいいワケ?」


 4人で話していることが気に食わなかったのか、不満そうにデュークさんが言う。フローがデュークさんを軽く睨みながら答えた。


 「暇ならしばらく周辺でも見張ってなさいよ」


 「モトユウちゃんはそれでいいの?」


 「お願いします」


 「リョーカイ」


 二つ返事で答えるとデュークさんは洞窟を飛び出していった。

 デュークさんの姿が完全に見えなくなったのを確認すると、フローが俺達3人に手招きした。 


 「さて、デュークもいなくなって静かになったし、

これからについて話すわよ」

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