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命乞いから始まる魔族配下生活〜死にたくなかっただけなのに、気づけば世界の裏側に首突っ込んでた〜  作者: 月森 かれん
第2部 「教会送り」追求編

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どうにか場を収める

 ナキレの北にある森、ノースウッズ。そこにある開けた場所で俺達はデュークさんと対峙していた。俺達はすぐに動けるように膝を曲げて低姿勢だが、デュークさんは木の幹に寄りかかってニヤニヤしている。

誰も武器を構えてはいないものの、空気がピリピリと張りつめていた。 


 「で?何で俺警戒されてんの?助けたじゃん」


 「そ、その件はありがとうございました。ですが……」


 「何か企んでるから、あたし達を助けたんでしょ!」


 フローに指を差されるとデュークさんは目を閉じて笑った。


 「まあな。それについては追々話す。

  だって他に気になる事、あるだろ?」


 俺達は顔を見合わせる。デュークさんの言うことは最もだ。

 理由はわからないがこれだけは言える。デュークさんが生きているのなら、()()()()()()()()

 

 「たぶん皆、似たような事考えてるよな?」


 小声で尋ねると3人とも頷き、ザルドが口を開く。

 

 「ああ。倒したはずだろ?」


 「あいつも気になるけど、先に魔王よね」 


 「はい……」


 意見を確認すると、俺はデュークさんに向き直ってゆっくりと口を開いた。


 「魔王は生きてるんですよね?」


 「………………」


 デュークさんからニヤニヤが消える。今までもこのようなことは何度もあったのに、刺すような寒気に思わず唾を飲み込んだ。


 「ああ。アンタらが倒したのは魔王であって魔王じゃなかったのさ」


 「どういうことよ?分身でもしてたってわけ?」


 「さあ?ただ、本物じゃなかったのは確か」

 

 (分身か身代わりって事だよな。ん?身代わり?……まさか!?)


 ある答えが思い浮かぶ。しかし、ここで言ったとしても理解できるのは俺とデュークさんだけなので、喉まで出かかっていた言葉をのみこんだ。

 デュークさんは俺達の顔を流し見た後、再びニヤニヤし始めた。刺すような悪寒も緩まる。


 「ヒハハッ!魔王の方が1枚上手だったな」


 「お前は何で俺達を助けたんだ?」 


 「そりゃあそっちの方が不利だったから。司祭共とか胡散くせーし」


 まだ警戒しながら尋ねるザルドにデュークさんは軽快に答えた。


 「あんたがそんな簡単な理由で助けるとは思わないわ!

何を企んでるのか言いなさい!」


 性格とはいえ、デュークさん相手にここまでズバズバ言えるフローに尊敬する。しかし、その言葉で緩んでいた空気が張りつめてきた。

デュークさんは木に寄りかかるのをやめて、静かに佇む。

 

 「追々話すって言っただろ?そうガッツクなよ」


 「やっぱあんた、今ここで倒しておいた方がよさそうね!」


 フローが杖を喚び出してデュークさんに向ける。ザルドとアリーシャも盾や杖を喚び出して臨戦態勢に入った。


 (ヤベェ!?止めないと!!)


 俺は慌ててフローとデュークさんの間に割って入り、叫んだ。


 「ちょっと待ってくれ!」


 「何でよ!?いつ攻撃してきてもおかしくないでしょ!?」


 「そうかもしれないけど、今は争ってる場合じゃない!」


 (まだ言ってくれないけど、デュークさんだって何か助けた理由があるはずだし)


 そうでなければ放っておかれただろう。

 目で訴えているとフローは渋々杖を下げてくれた。俺がここまで強く言うことは少ないため、理解してくれたのだろう。するとザルドやアリーシャも同じようにした。


 「確かに。それにカルムの背中無防備だしな」


 (ゲ!?)


 指摘されて体を回転させる。ザルドは「無防備なのに攻撃してこない」ことを言ったのだろうが、俺は別の意味だと思った。距離も近いし、抱きつかれてもおかしくはない。

 デュークさんはというと、含みのある笑みを浮かべていた。


 「フーン……。やっぱオモシレー」

 

 そう呟いて、俺の真正面まで来ると小声で話しかけてくる。


 「ヤッホ〜、モトユウちゃん。元気そうじゃん」


 「ほ、本物ですよね?」


 いまいち信じられなくて尋ねると、デュークさんから笑顔が消えてグッと顔を近づけてきた。


 「ツケ、今から払うかぁ?」


 (紛れもなく本物だ!!)


 慌てて後退する。「ツケ」を知っているのは俺とデュークさんだけだからだ。

 フローは呆れ顔、アリーシャとザルドは口を開けたまま何度も瞬きをしている。


 「あんた達、そこまで仲良かったわけ?」


 「そ、俺とモトユウちゃん仲良しっ!」

 

 笑顔言いなから俺の肩に腕を回してくる。

フローが明らかに軽蔑した目で俺達を眺めた。


 「キモチワルッ!!」 


 「なんだよー、ニンゲンと魔族が仲良くしちゃオカシイ?」


 「おかしいに決まってるでしょ!敵対してるのよ!」


 「なら、何で攻撃しないワケ?俺は敵なんだろ?」


 デュークさんは再び真顔になると挑発するようにフローに問いかける。

フローはますます顔を険しくして叫んだ。


 「そんなにベッタリくっついてたら攻撃できるわけないでしょ!」


 「ヒハハハッ!アンタの魔法って当たれば即死?」


 「そこまで威力強くないわよ!」


 「じゃあ攻撃すればいいじゃないの。間違ってモトユウちゃんに当たっても「教会送り」にはならないんだろ?ほら、やってみ?」


 試すようにさらに俺の体を引き寄せる。フローはしばらくデュークさんを睨んでいたが、諦めたらしくため息をつくと後方にいるザルド達の所へ戻った。

 

 「ぐっ、やっぱムカつくわ、こいつ!」


 「ムカついてもらって結構。んで、そこの2名は?何で攻撃しない?」


 アリーシャとザルドは困ったように顔を見合わせて肩をすくめた。


 「せ、戦闘態勢に入っていないので」


 「それにお前の強さは知っている。今までの間に俺達を倒そうと思えば倒せるはずだからな」

 

 「フーン、思ったより頭回るじゃない」


 背後でデュークさんが呟く。声の状態はいつも通りなので、少し安心した。


 (っていうか、まだ離してくれないのか?俺としては良い状況とは言えないんだけど……)


 様子を伺っていると、眉間にシワを寄せているフローが声を荒らげる。


 「っていうかカルム!あんたも少しぐらい抵抗しなさいよ!

なに大人しくしてるの!」


 「て、抵抗したら……喰われる……」


 「はぁ⁉」


 フローの反応も最もだが、今までツケか゚2回溜まっている。今回何かしてしまったら払わされる可能性が高い。


 「よくわかってるじゃないの、モトユウちゃん」

 

 低い声で身震いした。本気なのか冗談なのか全くわからない。


 (ま、まさかマジで喰うつもりか!?)


 「なんてな。()()まだやめといてやるよ」


 デュークさんは笑いながら言うと俺の背中を押して解放した。

不意打ちで捕まらないようにダッシュでザルド達の所へ戻る。


 「大丈夫か?カルム」


 「まぁ……なんとか」


 「それにしても、どういうつもりなんでしょうね?」


 アリーシャの言葉に皆でデュークさんをチラリと見る。

 少なくとも、今は敵ではないということは感じ取っているようだ。



 会話が途切れ、しばらく見つめ合っているまま時間が過ぎてゆく。

デュークさんはニヤニヤしているだけで、まだ理由を話すつもりはないらしい。

 とうとう、耐えられなくなったフローが沈黙を破った。


 「話すこと終わったんなら、さっさとどっか行きなさいよ!」


 「ずっとニヤニヤしてて怖いです……」


 デュークさんは小さく声を漏らすと、とんでもないことを言い出した。

 

 「しばらくアンタ達について行こっかなー」

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