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命乞いから始まる魔族配下生活〜死にたくなかっただけなのに、気づけば世界の裏側に首突っ込んでた〜  作者: 月森 かれん
第3章

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魔王と別れる

 「今ならまだ間に合うかもしれないっ!」 


 全力で裏を駆けながら呟く。

 なぜ今になって魔王を倒してはいけないという勘が出てきたのかはわからない。魔族側が不利とはいえ、テナシテさんと視覚を共有していたのなら命があるのは間違いないだろう。

 勢いよくドアを開けようとして手を止める。戦闘音は聞こえてこないが、向こう側にいるのは魔王だけではないような気がしたからだ。冒険者が辿り着いてしまったのかもしれない。


 (無言で開けよう)


 急いでドアを開けた俺はそのポーズのまま固まった。目の前には倒れた魔王。そして4人のパーティ。

立ち止まらなければ魔王を呼びながら開けていただろう。しかし安心している場合ではない。 

 紺髪のソードマンがトドメを刺そうと剣を振り上げているところだったからだ。


 (魔王が、負けた?)


 状況を受け入れられない。俺達の時はかすり傷すらつけられなかったのに、どういうわけか攻撃が通ったようだ。

 固まったままでいるとソードマンが腕を上げたまま怪訝そうに尋ねてくる。

 

 「………君、1人か?」


 「は、はい。仲間とはぐれてテキトーに進んでたらここに……」


 慌てて嘘を言う。配下に成り下がって細々と生活してました、なんて言えるはずがない。ソードマンは疑う素振りもなく話を続ける。


 「そうか。

  悪いが去ってくれないか?」


 声には苛立ちが含まれていた。どうやらトドメを刺す所を見られたくないらしい。

 しかし彼に従うつもりはなかった。俺は魔王と話さないといけないからだ。


 (どうにかして武器を下ろしてもらわないと……そうだッ!)


 「そ、そのまま魔王を刺しても死にません!実は魔王を倒すには特別な呪文を言いながらじゃないとダメなんです!」


 「……………は?」

 

 4人が目を丸くする。

そうなるのも当然で、俺が言ったことはデタラメだからだ。


 「なら、今からやって見せてくれよ。その間にトドメを刺したらいいんだろ?」


 頑丈な鎧と盾を装備した茶髪の男が声をかけてくる。目を細めて明らかに疑っている表情だ。


 (やっぱ疑うよな。でもここで引けない!)


 「そ、それが、呪文を知ったのがバレて、他者に1人でも見られながらだと

効果が出ない呪いをかけられてしまって……」


 我ながらテキトーな理由だが、彼等に去ってもらうにはこう言うしか思いつかなかった。

 顔を下げないまま言葉を待っていると、ソードマンは腕を下ろして俺をジッと見つめてくる。


 「つまり、俺達はこの部屋から出ないといけないのか」


 「そうです!」


 「………………わかった」


 「コイツの言葉を信じるのか⁉エリク⁉」


 タンクの言葉にエリクと呼ばれたソードマンが頷く。


 「ああ。半信半疑だが、もしこの青年の言うとおりなら

今まで魔王が倒れなかったのも納得がいく。俺達にできることはない」


 「なら、仕方がないですねー。行きましょー」


 温厚そうな金髪のヒーラーを先頭に、エリク……さん達は部屋を出ていってくれた。

 急いで魔王に駆け寄ると、ゆっくり俺に顔を向ける。いつもの威厳は全くなく全身キズだらけで息をするのも苦しそうだ。


 「なぜ、戻ってきた……」


 「魔王を倒してはいけないという勘が出てきて……」


 さすがにビックリしたようで魔王は少しだけ目を見開いたが、短く息を吐くと上を向く。


 「怖気づいた、のかと思えば。もう手遅れだ……」


 「か、回復魔法は?」


 「先程から、かけておるわ。だが……特殊な呪文でも、武器にかけて、

いたようだ。キズが塞がらん……」 


 「そ、そんなッ⁉……俺、誰か呼んできます!」


 立ち上がろうとすると服の裾を掴まれた。思ったよりも強く引っ張られ少しだけバランスを崩す。


 「行ってどうする。先程の奴等は、外にいる、のだろう?」


 「なら、裏からッ!」


 「やめておけ。自身の死期ぐらい、わかるわ……」


 魔王が死ぬ。俺達人間にとっては喜ばしいことなのに、涙が勝手に溢れてきて止まらない。


 「……なぜ泣く?

我が倒れて、嬉しいのではないのか?」


 「嬉しくないですよ!何度もボコられましたし脅されましたし死にかけもしましたけど、なんだかんだ言って「教会送り」にはしなかったじゃないですか!」

 

 本音だったがモヤモヤはなかった。 

 言い切ると魔王の頬が僅かに緩む。 


 「……フン、お気楽だな。これから、本格的にコキ使ってやろうかと……」


 「はい⁉」


 「戯言だ。

  お前の勘は、すばらしい。この先、困ることが起きたら、それを頼りに、進むと良い」


 そう言ってから俺の背後を指さした。つられて目を向けると隅にガレキに隠すようにして、なんと俺の剣と防具が置いてある。

 

 (へ?何で?)


 理解が追いつかない。こうなることがわかってたから俺の部屋から持ってきていたのだろうか。

 戸惑っていると魔王から青い光が放たれる。


 「今、完全に防御魔法を解いた……。お前の剣で刺せば、我は死ぬ」


 (俺が倒すのか⁉)


 「い、嫌です!」


 魔王を刺すことはもとより、俺が追い詰めたわけでもないのに、いいとこ取りなんてできないはずがない。 

 反射で答えると、魔王が目つきを鋭くして睨んでくる。


 「泣き言を言うな、たわけ。先程の奴等に、倒されるぐらいなら、

お前の方が良い」


 「でもッ!」

 

 「おい!青年!まだなのか⁉」


 さっきのタンクの声がドア越しに聞こえてきた。待たされてイライラしているらしくドスが聞いている。


 「す、すみません!あと少しです!

 ∞∈∑∏∨∃∂⊄⊃∧――」


 呪文っぽいものをを唱える。今更感はあるが唱えないよりはいい。

 そんな俺の手に魔王は何かを握らせた。見ると指輪が2つ光っている。

 

 「おそらく……我は跡形もなく、消えるだろう。

証拠に、持っておけ……」


 「で、でも……」


 「急げ。アイツらが、しびれを切らす前に……」


 (クソッ!やるしかない!)


 俺は素早く剣を取ると、ギュッと目を瞑って魔王の胸に剣を突き立てた。

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