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命乞いから始まる魔族配下生活〜死にたくなかっただけなのに、気づけば世界の裏側に首突っ込んでた〜  作者: 月森 かれん
第3章

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人間と魔族の全面戦争が始まる

 ここに来て今まで1度も感じたことのない重い振動。ゴーレムやオーク等が侵入して起こしているわけでなさそうだ。


 (さすがにドーワ族にも伝わったよな?)


 工房まで大股で8歩あれば辿り着く。慌てて親方ドーワ族ところへ向かうと、彼は相変わらずのんきにイスに座ってくつろいでいた。


 「よぉ、どうかしたのか?」


 「どうかしたも何も、今地響きしませんでした!?」


 「ああ、したな。城に何かぶつかったんだろう」


 「ここが揺れるほどの衝撃ですよ!?」


 地上にあるなら俺も慌ててはいなかっただろう。しかし地下だ。強力な攻撃でもしなければここまで届く衝撃なんて簡単には起こらない。


 「外壁が崩れたんだろうよ。モンスターか人間の襲撃じゃねぇのか?たぶんモンスターだとは思うがよ」


 親方ドーワ族は全く動揺していない。似たような状況を何度も経験してきたのだろうか。

 一応、これから起ころうとしている人間と魔族の決戦のことを話すと、関心がなさそうに声を漏らした。


 「ほー、そんな憶測があったのか。まぁ、知ったところで俺等には関係ねぇがな。どちらの味方でもねぇからよ」


 「そうなんですか?」


 「ああ。最低限の干渉しかしないことを条件に過ごしてるだけだ。結局、魔王とオネットとしか話さなかったがな。

 先に言っとくが俺等のことは気にすんなよ。うまい具合に出ていく。巻き込まれるなんてゴメンだからな。

 それにしてもあと少しで完成だったのによ。それが心残りか」


 (あ、ベッドのこと言ってるのか)


 次々に話題が変わり、何のことを言っているのか理解するまでに少し時間がかかった。


 「俺も楽しみだったんてすけどね」


 「そうか。出会ったのが遅かったな。

 それよりこんな所で話してる場合じゃないんじゃないのか?参加すんだろ?」


 「いいえ、俺は決着がつくまで待機します。どちらか一方になんてつけないので」


 「ほー、やっぱり変わってんなアンタ」


 親方ドーワ族は感心したように声を漏らすと、立ち上がって俺の側まで来る。急に真剣な顔つきになって少し目を細めた。


 「武器は何使ってる?」


 「え、剣ですけど……」


 俺の返事を聞くと親方ドーワ族は隅に置いてある大きめの木箱をゴソゴソとあさり始めた。少しして、手のひらに収まるサイズの黒い石を持って戻って来る。


 「なら、ちょうどよかった。コレ、もう使わねぇからやる」


 「砥石ですか?あ、ありがとうございます!」 


 ここに来てから、剣の手入れは軽く布で拭いていただけなのでありがたい。慌てて頭を下げると親方ドーワ族が苦笑した。しかしバカにしている感じではなく、呆れながらも微笑ましいような感じだ。


 「アンタがこれからどうするかは興味ねぇが、またどっかで会えそうな気がするな」


 「もしそうなったら、その時はよろしくお願いします」


 「フン、どうだか。俺たちは気分屋だからな。依頼を聞かねぇかもしれねぇぞ?」


 「どうにかして頼みますよ。じゃあ、ネキにも伝えといてください!」


 俺の言葉を聞いて親方ドーワ族は目を閉じて笑うと、脱出する準備のためか片手を上げながら再び部屋の奥に姿を消した。




 地下工房から地上の調理場に戻り、そのまま外に出る。景色を目の当たりにして俺は開いた口が塞がらなかった。

 城壁の一部が崩壊していたのだった。破壊された箇所は大きく窪んでいて、あちこちひび割れており、破片も至る所に散らばっている。武器では不可能だと思うので魔法だろう。


 「いったいどんな魔法を使ったらこんな――」


 「モトユウちゃん見〜っけ!」


 背後から勢いよく肩を掴まれて軽く飛び上がったが、軽く押さえつけられていたため少し踵が浮いただけだった。背中を嫌な汗が流れる。


 「デュークさん⁉」


 (捕まった!終わったかも……) 


 おそるおそる振り返ると当の本人はヘラヘラと笑っており、ここ何日か感じていた危険な雰囲気はない。またイノサンクルーンが化けているのではないかと疑う。


 「ヒハハッ!そこまでビックリしなくてもいいじゃん〜。部屋行ってもいなかったからさ、けっこう探したぜ〜」


 「ちょっと用事があって……。

 そ、それより人間が来たんですか?」


 相変わらず至近距離で話してくるデュークさんから少し距離を取りながら尋ねると、笑顔が消える。


 (やっぱ本物だ。変な感じはしないし、

なにより真顔が怖ぇ)


 「ああ。マーさんの言ってた通りになった。少し様子見てみるか?」


 「え、見れる――おわあぁ⁉」


 言っている途中で担がれて、デュークさんはそのまま城壁を駆け上がった。

あっという間に頂点まで登ると正面に向き直る。


 「ほら、見てみ?」


 抱えられたまま下を見ると、普段はモンスターしかいない荒れ地が人で埋め尽くされていおり、すでに前方の集団が城に突入している。次第に武器や魔法がぶつかり合う音やモンスターの奇声がわきあがり、騒がしくなってきた。


 (冒険者って集まったらこんなにたくさん居るのか⁉)


 それにしてもさっきの城壁を破壊するほどの攻撃は誰がしたのだろうか。 

考えているとデュークさんが口を開く。


 「ヒハハッ、楽しそー。ホントにアイツラ本気で来てるな〜。数もそうだが、巨大魔法陣使用してくるぐらいだぜ?」


 「巨大魔法陣?」


 「そ。俺もそこまで詳しくはないけど、強い魔法使い数人で魔法陣作ってそこから魔法を放つんだと。

さっきの攻撃がそれな。俺、見てたし」 


 「え?見てただけなんですか?」


  (すぐ迎撃に向かいそうなのに……)


 表情が顔に出ていたようで、デュークさんはニンマリと笑う。


 「おう。今回は勝手に行ったらマーさんから怒られるからな〜。

どう見ても単独行動していい戦いじゃないだろ?」


 「は、はぁ……」


 「じゃ、マーさん所行くぜ!」


 「へ――ギャアアァー⁉」


 俺を担いだまま何の迷いもなく飛び降りた。足が浮いたような感じになるこの感覚は苦手だ。しかしすぐに枠だけの窓に滑り込んで床に足をつけたため、短い時間で済んだのはありがたかった。



 王座の間に入ると魔王が腕を組んで俺達を睨んでいる。ただでさえ気圧されるのに、赤い鋭い目が余計に恐怖心を煽ってきた。


 「遅い」

 

  (怒ってる……)


 「悪いなー、マーさん。モトユウちゃん探してたんだわ。どうせ連れて来いって言うと思ってさー」


 「……さっきの発言は忘れろ」


  (あ、正当な理由があったらナシなんだ。やっぱり魔王優しい)


 魔王は気持ちを落ち着かせるように息をつくと、腕を組んだまま口を開く。


 「察してはいると思うが人間共が攻め込んできた。

もうアパリシアとへネラルは向かっている。デュークも行ってこい」


 「リョーカイー。ところで、()()()()()()()()()()?」


 「好きにしろ。なにしろ数が多いからな」

 

 「ヒハハハハッ!さすがマーさん!じゃあ俺も行ってくるわー!

  あ、そうだ!」


 王座の間を出ようとしていたデュークさんは足を止めると、素早く俺の目の前に移動して頭をかき乱してきた。


 「な、なんっです、か⁉」


 「ヒハハハッ!しいて言うなら挨拶だなー。

  じゃーな!モトユウちゃん!」


  (挨拶……?)


 このスキンシップは初めてではないが、胸になんとも言えない気持ちが広がる。まるでこの先2度と会えないような感じだ。

 デュークさんは唖然としている俺の肩を軽く叩くと飛び出していった。 

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