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命乞いから始まる魔族配下生活〜死にたくなかっただけなのに、気づけば世界の裏側に首突っ込んでた〜  作者: 月森 かれん
第2章

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直感が冴える

 今まででも真面目な話になったり機嫌が悪くなったりしてデュークさんの語尾が伸びなくなることは何度もあった。

 俺が「教会送り」にされそうになったという十分すぎる理由があるので、全くおかしくはない。だけど何か違和感がある。どのあたりがと聞かれると答えられないが、直感というやつだ。


 (デュークさんだけどデュークさんじゃない気がする)

 

 デュークさんは俺の様子がおかしいことに気づいてはいるようで、大剣を背負うと少し首を傾げながら距離を詰めようとしてくる。


 「どうしたよ、モトユウちゃん?

何をそんなに怯えてんのさ?」


 「いや、その……」


 「あ、俺の語尾が伸びてないから怯えてんのか」

 

(それもそうなんだが、やっぱり何か違う。気というよりは中身?)


 まだ警戒心を解かずに見つめるとデュークさんがため息をついた。

 

 「………………君、勘鋭いね」


 そう呟いた直後、グニャリと姿が変わり目元を仮面で隠した男になった。

右半身は俺やデュークさんと同じ肌色の皮膚だが、左半身はスライムのようにドロドロとしたモノだ。


 「なッ⁉え⁉」


  (ヤベェ、噛まれた痛みで立ち上がれねぇ)


 噛まれたのは少し前なのに、まだズキズキと焼けるように痛い。しかも痛みの範囲が広がってきているような気がする。

 目の前の男が味方だとは限らない。引きずるようにして体を動かそうとすると、それを制するように彼は顔の前で両手をヒラヒラさせた。


 「あー、そんなに警戒しないでよ」


 「へ?」


 「襲うんだった変身解かずに襲ってる。

  ちなみに僕はモンスター。イノサンクルーンって聞いたことない?」


 「あっ⁉」


 イノサンクルーン。相手に変身する能力を持っており、姿だけでなく声や筋力などもそっくりそのままなので、遭遇したらかなり面倒だと他のパーティから聞いたことがあるのを思い出した。


 「じゃあ本物はどこに?」


 「団長ならまだ暴食族の相手してる。だから僕に頼んだんだよ。暴食族が付きまとってるから監視しててくれってね」


 「助けに行かな――デッ⁉」 


 立ち上がろうとした瞬間、右肩に激痛がはしった。


 (いつまで痛むんだ⁉効果継続するような魔法でもかかってるのか?)

 

 うずくまった俺を見てイノサンクルーンは冷静に言い放つ。


 「無理に動こうとしない方がいいと思うよー」


 「でもっ!」


 「団長の強さは知ってるでしょ?」


 「そうですけど!剣は大丈夫なんですか⁉」


 左手でイノサンクルーンが背負っている大剣を指差した。刀身の赤といい、持ち手を覆うようについているギザギザといい、間違いなくデュークさんのだ。

 しかも今ここにあるということは、デュークさんは武器なしで戦っていることになる。いくらデュークさんでも暴食族30人は苦戦するはずだ。

 イノサンクルーンは大剣にチラリと目を向けてから俺に戻す。

 

 「大丈夫」


 言いきったイノサンクルーンに思わず口を閉じた。心配や不安は全く感じられない。

 ビックリして固まっているとイノサンクルーンはニンマリと笑った。


 「やっぱり君、いい子だね。団長が気に入ってるのもわかるよー」


 「は、はぁ……どうも……」


 「ニンゲンだからてっきり襲いかかってくるかと思ってたんだけど」


 「それは、俺も同じです。俺は人間だからよく思われてないのかと」


 「団長がさ、君のこと興奮気味に話すんだ。同じ話何回も聞かされたよ。必ずその度に「イイヤツだから1回会ってみなよ〜」って言われてねー」


 (そんなに俺のこと言い回ってたのか?嬉しいような嬉しくないような……)


 だが、そのおかげで現在警戒もなく話せているのかもしれない。


 「普通のモンスターでも話通じるんですね」


 「ヒト型はね。オークとかボアとかはさすがに通じないよ。まぁ、アイツラでも全く理解できてないわけじゃなさそうだけどね。邪魔って睨んだら回れ右して帰るし」


 「あなたはイノサンクルーンの中でも優秀なんですよね?だってデュークさんに認められるぐらいなんですから」


 「いや、逆。僕は落ちこぼれ」


 「え?」


  (落ちこぼれ⁉そんなふうには見えないけどな?)


 表情が顔に出ていたようで、イノサンクルーンは苦笑してポツリポツリと話しだした。


 「普通のイノサンクルーンなら、1度変身した対象は2回目以降相手が目の前に居なくても変身できる。

  でも僕はできない。変身する時は必ず対象が目の前に居ないといけないんだ。それをバカにされてね。リンチとかされたなぁ〜」


 「そう、だったんですか……」


  (マジか。モンスターもやることも俺達と変わらないな……)


 能力が低かったりなかなか成長が見られない者は

ハブかれたり奴隷のように扱われたり、ヒドいことをされる。もちろん全員に当てはまるわけではないが。

 考え込んでいると左肩を軽く叩かれる。


 「とりあえず移動しよっか?モトユウちゃん?」


 「え、でもどこに……」


 「どこにって、ケガしてるんだからさ。治さなきゃ」


  (あ、フロか……………マジで⁉)


 以前、治癒の痛みに悶絶していたデュークさんを思い出す。因果応報。

全身の血の気が引いていくのがわかる。


 「あの……知り合いとかで回復魔法使える方は?」

 

 「いないよ。だいたい団長の部隊、力押しの者がほとんどだから。それにね魔族でヒーラーって貴重なんだよ」


 「そう、なんですか……」


 (終わった。生きて帰れるか?俺?)


 デュークさんでさえ辛そうにしていたのだから、そうとうな痛みになるはずだ。以前のタンコブのときは気絶してしまったので大丈夫だったが、今回はそうはいかないだろう。

 そんな俺を気にせずにイノサンクルーンは肩を持った。

 

 「じゃあ行こっかー」


 「フロじゃなくて簡易の泉とかないんですか?」


 「ないよー。

  あ、そうそう、逃げようとしても逃さないからね。

団長から「もしモトユウちゃんがケガしてたら、なにがなんでもフロに連れてけ」って言われたから。

 眉間にシワ寄ってたけど、いったい何したのさ?」


 「こ、好奇心でデュークさんのケガした箇所をユに……」

 

 躾けられただけで終わりかと思っていたが、まだ根に持っていたようだ。

 俺の言葉を聞いたイノサンクルーンが笑い出す。


 「アハハハッ!なるほどー。

そりゃあ団長も眉間にシワ寄せるよ。ペース乱されるの嫌うから」


 「そう言ってました」


 「うんうん、もうしないように気をつけてね。

  さー、行こうか」


 「はい……」 

 

 もうこれは諦めるしかない。俺は強制的にフロがある裏に連れて行かれた。

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