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命乞いから始まる魔族配下生活〜死にたくなかっただけなのに、気づけば世界の裏側に首突っ込んでた〜  作者: 月森 かれん
第2章

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ドーワ族と交渉する

 「こ、こんにちはー」


 城に帰ってきてすぐにドーワ族の工房を訪ねていた。

声をかけるとネキがひょっこりと顔を覗かせる。


 「……いらっしゃい、ニンゲンさん」


 「あ、ネキ。親方さんいる?」


 「……いる。あ!」


 ネキは俺が持っているプラティヌ鉱石を見て大きく目を開いた。しばらくそれを見つめたあと、ゆっくりと俺に顔を向ける。


 「……と、採ってきたの?」


 「うん。協力してもらったけどね」


 「……………………親方ーー‼」 


 大声で叫びながらネキが工房に入っていくとすぐに怒鳴り声が聞こえた。


 「ごちゃごちゃうるせぇぞ!ネキ!」


 「うるさくない!ニンゲンさん鉱石持ってきた!ほんと!

スゴい!」


 「……ああ?」


 意外そうな声がしてバタバタと足音がこちらに向かってくる。出てきた親方は俺を見て目を見開いた。


 「ど、どーもです」


 「……まさか本当に採ってくるとはな」


 「え、信じてなかったんですか?」


 「口だけだろうと思ってたんだよ。

どれ、見せてみろ」


 親方は鼻を鳴らして俺から鉱石を奪い取るように持つと、いろいろな角度から眺め始めた。真剣な表情で声をかける隙がない。

しばらくすると俺に顔を向ける。


 「1人で採ったのか?」


 「いえ、3人です」


 「…………正直、驚いている。ほぼ無傷じゃねぇか」


 「もし価値が下がったらいけないと思って気をつけました」


 (やっぱキズついたらダメだったのか。注意しててよかった)


 親方はしかめっ面ではあるが怒りなどは感じ取れない。たぶん普通の表情なのだろう。なんとなくだが、交渉するなら今だと思った。

 

 「そ、それで、ベッド、作ってもらえませんか?」


 「………………………………」


 (や、やっぱりそれとこれとは別なのか?

作ってもらえない?)


 少し眉をつり上げた親方を見て不安と恐怖を覚える。

とはいえ、やれるだけのことはやったのでドキドキしながら返答を待つしかない。

 親方は目を閉じると息をついた。


 「……木材はあるか?あるなら持ってきな。作ってやるよ」


 「ありがとうございます!!」


 深く頭を下げるとさっそく取りに向かう。するとネキがトコトコついてきた。


 「……ウチも行く」


 「いいの?それに木材重いけど」


 「……ドーワ族をナメないで」


 1人で運ぶつもりだったが、せっかくの厚意をムダにしたくない。

裏に戻ると放置したままだった木材を見つける。全部で10。

1回に2つ運ぶとして、ネキもいるので3往復すれば終わりそうだ。


 「……これ運ぶのね」


 「うん。とりあえず1回調理場まで全部――」


 「よいしょっと」


 俺は口を開けたまま動きを止めた。なぜならネキはスレンダーな体型とは裏腹に木材を軽々と担ぎ上げていて、しかも1つだけではなくさらに4つ増やす。


 「重くないの⁉」


 「……平気。ドーワ族は力が強いんだよ。知らなかった?」


 「聞いたことはあったけど、見るのは初めてで」


 ハラハラしている俺とは対照的に、ネキは普段通りのやる気のなさそうな顔だ。重さなんて気にしていないようだ。


 「……で、さっき言いかけてたけど調理場まで全部運ぶんでしょ?」


 「う、うん」


 まさかネキが5つも持っていってくれるとは思わなかったので2往復で終わってしまった。

その分時間ができたので、地下への入り口を開けて木材を1本ずつ通す。

 キズを増やさないように気をつけながら5本目を運んでいると工房から親方の声が響いてきた。慌てて向かって経緯を説明する。


 「ってなんだこりゃ⁉表面ガッタガタじゃねぇか!」


 「す、すみません。樹皮ぐらいは剥がしておいた方がいいかと思って。

 そのままの方が良かったですかね……」

 

 親方は視線を木材に移して眺めていたが、諦めたようにため息をついた。


 「いや、ありがたい。ここまでしてくるヤツは滅多にいないからな。

 だが……これだったら俺がやった方がマシだ」


 「すみません、不器用で……」


 「いい。俺たちの負担を少しでも軽くしようと思ってやったんだろ?

文句なんて言ったら罰が当たるな。言わねぇけどよ」


 (もしかしてこんな態度なのは理由があるのか?)


 明らかに最初と態度が違う。少しは気を許してもらえたのだろうか。

考えていると、木材を2つ抱えたネキが頬を膨らませて顔を覗かせる。


 「……ニンゲンさん、途中でやめないで」


 「あっ、ごめん!ネキ!」


 慌てて駆け寄って持とうとしたが、避けられた。

どうやら怒っているようだ。


 「……ウチが運ぶ」


 「あーあ、ネキの機嫌損ねたな。めんどくせぇぞ。

機嫌を直したいなら何か食い物持ってきな」

 

 (マジか……)


 「って、そんな湿気た顔すんなよ。食べられる物だったら何でもいいぞ。

その代わり大食いだから、3人分持ってきな」


 「マジですか⁉」


 「ああ」


 首を縦に振った親方を見て憂鬱な気分になる。3人分集めるのはけっこうキツいかもしれない。

 目標は果たしたし、次の目的ができてしまったので帰ることにする。 


 「じゃあ、俺そろそろ」


 「ああ、帰る前に身長測らせてくんな。じゃないと、サイズ合わねぇぞ」


 「お願いします!」


 「……アンタおもしれぇな。なんでそんなに頭下げんだよ?」


 「癖です」


 いつからそうなったのかは覚えていないが、ある意味、

俺のチャームポイントになっている。


 「なんだそりゃ。

 まあいい、そのまま立ってろよ」


 親方は木材を俺の横に立てて、頭より少し上の位置に赤い線を引いた。


 「これでよし。

 確実に3日はかかるからな。それ以降にちょくちょく顔出してくんな」


 「わかりました。ありがとうございます!」


 ネキにもお礼を言おうと思ったが、俺に背を向けて持ってきた木材を並べていた。親方とのやり取りは聞こえているはずなのにこちらを向かないということは、まだ機嫌が悪いのだろう。とはいえ、お礼は言っておかないといけない。


 「ネキもありがとう!」


 「…………………………」

 

 (ノーリアクション。次来るときに食べ物3人分、か)


 もう一度頭を下げてから工房を後にした。

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