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命乞いから始まる魔族配下生活〜死にたくなかっただけなのに、気づけば世界の裏側に首突っ込んでた〜  作者: 月森 かれん
第2章

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ベッド作りにチャレンジする②

 「そもそもドーワ族ってどこにいるんだ?」


 裏には何度も来ているが工房のような建物は見たことがない。頼りにしているデュークさんはどこかに行ってしまったので裏にいる誰かに聞くしかない。

 

 「裏にいる人と言えば俺が知ってるのはオネットぐらいか。聞きに行ってみよう」


 テナシテさんもいるが、あえて口に出さなかった。存在を知られたくないようなので、死角で誰かが聞いていたら大変だからだ。 

 さっそくオネットの部屋に向かい、ドアをノックすると控えめな返事が聞こえる。


 「モ、モトユウでーす」


 「あ、ど、どうぞ……」


 「失礼しまーす」


 室内は相変わらず大量のぬいぐるみが置いてあった。最初に会ったときのように、一際大きい何かのぬいぐるみも健在でその近くにオネットは座っていた。俺を見ると恥ずかしそうに瞬きを繰り返す。


 「お、お久しぶりです」


 「ひ、久しぶり。突然来てごめん」


 オネットに会うのは武器磨き以来なので、けっこう日があいていた。何かしでかしたわけでは無いが、お互いぎこちない。


 「い、いえ、お構いなく。それで、用事はなんでしょうか?」


 「さっきデュークさんからドーワ族がいるって聞いたんだけど知ってるかなって思って」


 「は、はあ、ドーワ族ですか。知ってはいますけど、

どうして知りたいんですか?」


 これまでの経緯を話すとオネットは納得したように何度も頷いた。少し疑っていたのかもしれない。


 「そういうことだったんですか。ベッドがないのは辛いですね」


 「俺はモノ作り苦手だからさ。作ってもらえるかはわからないけど、交渉してみようかなって」


 「よかったら、案内しましょうか?」


 「本当に⁉」


 思わず詰め寄るとオネットは体を少し後ろにのけぞらせた。ハッとして慌てて体勢を戻す。


 「は、はい。ちょうど今から飲み物を届けに行こうかと思っていたので……」


 「それ、いつもやってるの?」


 「はい。あの人たちは飲食も忘れて何かを作ってることが多くて。今は私が時計代わりになってます……」


 (マジか⁉)


 さすがはドーワ族、職人魂がスゴい。それにてっきり馴れ合いはしないのかと思っていたが、必ずしもそうではないようだ。

 いろいろ考えているとオネットが遠慮がちに口を開く。


 「じゃあ行きましょうか」


 そう言うとオネットはドアの方に歩いていった。

 オネットの後ろをついていくと、いつもの廊下に出る。


 (このまま直進だとテナシテさんの部屋につくけど、さすがにそこじゃないよな。オネットはテナシテさんのこと知らないはずだし)


 俺の心配をよそにオネットは途中で左に曲がった。

するとドアのない小部屋が現れる。むき出しの棚に並んでいる木製や金属の食器と奥に見える火起こし場を見る限り、どうやら調理場のようだ。

 

 (ここにあったんだ。何度も通ってたのに気づかなかった)


 デュークさんに教えてもらう予定だったが、なんだかんだでそのままになっていた。

 俺が室内を見ている間にオネットは棚から食器などを取り出してテキパキと準備をしている。


 「さ、行きましょう」

 

 「また歩くんだよね?外?」


 「いいえ。こっちです」


 オネットがトレーを持ったまま部屋の隅に立つ。


 (へ?端っこだけど?カラクリで壁が回るのか?)

 

 戸惑っているとトレーを差し出してきた。

とりあえず受け取る。


 「少し持っててくださいね」


 「う、うん」   


 「よし…………えいやッ!」


 オネットが勢いよく足元の床を持ち上げるとなんと階段が現れた。人1人がようやく通れる幅で地下に続いているようだ。


 (地下あったのここ⁉というか、これなら気づくはずがないよな)


 「行きましょう。モトユウさんが先に降りてください。私はフタをしますから」


 「は、はあ」


 俺が閉めてもいいのではないかと思ったが、オネットに従うことにした。トレーで両手が塞がっているので慎重に1段ずつ降り、最後の段を終えると薄暗い空間が広がっていた。やっぱり狭い。

 だが、ドーワ族の工房は近いようでカンカンという音が聞こえている。

 

 「モトユウさん、トレーをください」


 「あ、はい」


 渡してからオネットに道を譲った。俺に軽く頭を下げてから先導してくれる。


 「もう音が響いているのでわかるとは思うんですけど、ここがドーワ族の工房ですよ」


 「地下にあるのは音が響くから?」


 「それもありますけど、あんまり他の人に知られたくないのもあると思います」


 「な。なるほど」


 (やっぱり人付き合いは避けたいんだな。話聞いてもらえるのか?)


 そうこうしているうちに工房らしき場所にたどり着いた。おそるおそる顔を出すと中央の叩き台でドーワ族が一心不乱に金槌を振るっている。


 「飲み物持ってきましたよー」

 

 オネットが室内に向けて声をかけるが、ドーワ族には届いていないようだ。


 「聞こえてないみたいだな」


 「いつもそうなんですよ。やっぱりネキちゃんに――」

 

 (ネキちゃん?もう1人いるのか?)


 そう思っているとドアの陰からひょっこりドーワ族が顔を覗かせる。帽子を深く被っていて性別が判断できないが、このドーワ族がネキのようだ。


 「……なあに?」


 「うわ⁉」


 思わずビックリして後ずさったが、それは相手も同じようで目を大きく開いている。


 「あ、ネキちゃん。飲み物――」


 「二、ニンゲン⁉」


 「そ、そうですけど、ちょっと頼みたいことがあって」


 「え、なんでここにいるの⁉取り残された?

見捨てられた?実は魔族のスパイだった?」


 ネキはオネットの言葉をスルーした。なぜか興奮していて、さっきのクールさはどこへ行ったのか、ひたすら言葉をはき続ける。


 「出来損ない?ウソつき?裏切り者?」


 「いや、えっと……」


 (俺が言うのもなんだけどネガティブな言葉ばっかりだな)


 「ごちゃごちゃ騒がしいぞ、ネキ!いったい――」


 金槌を振るっていたドーワ族が怒りを顕にしてこちらに向かってくる。身長は俺よりも少し低く、口元の白い立派なヒゲが年を感じさせる。仏頂面だったが、俺を見た瞬間固まった。


 「お、オネットと……は?お前、ニンゲンだよな?」


 「は、はい。モトユウって言います。いろいろありまして」


 「わ、悪い人じゃないですよ」


 「雰囲気でなんとなくわかるがよ、なんでこんなとこにいるんだ?」


 これまでの経緯を話すと親方らしいドーワ族は興味がなさそうに鼻を鳴らした。


 「ほー、とりあえずは魔族の敵じゃねぇってことか。

よく生きてるな、腰抜け」


 「腰抜け……」


 自分の短所はわかっているが、やっぱり面と向かって口に出されるとヘコむ。

 するとネキが落ち着きを取り戻したようで、大きく息を吐いてから俺を見た。


 「……さっきはごめん。緊張すると喋り過ぎる」


 「喋り過ぎる⁉」


 (普通逆だろ⁉)

 

 「……そう。自分でも不思議」


 「ネキちゃん、飲み物……」


 このままじゃ渡せないと思ったのか、オネットが割って入ってネキにトレーを差し出した。


 「……あ、そうだった。いつもありがと」


 「いえいえ。これぐらいしかできませんから。また後で持ってきますね」


 「……よろしく」


 「はい。じゃあ私はここで失礼しますね」


 (ここで帰るの⁉ってこの状況前にもあったような)


 「案内ありがとう、オネット」


 工房を出ていこうとするオネットに慌てて声をかけると笑顔で会釈して去っていった。みんなで後ろ姿を見送ったあと、親方ドーワ族が俺に向き直る。


 「で、何か用があるから来たんだろ、腰抜け」


 「あ、実はですね――」


 経緯を話すと親方ドーワ族は再び鼻を鳴らして背を向けた。


 「他をあたんな。ベッド、しかも今日会ったばかりのヤツの依頼なんか受けねぇよ」


 「そ、そこをなんとか!」


 「ダメったらダメだ」


 (やっぱりそう簡単には引き受けてもらえないか。となると物々交換ぐらいしか……あ!)


 以前、デュークさんが豹変したオネットを鎮めるために素材をとってくると言ったのを思い出した。オネットは1度ははねのけたが、2度目は負けて元の状態に戻ったのだった。

 ドーワ族は職人が多い。さらに戦いは得意ではないと思うので物々交換にかけてみる。


 「何か足りない素材や欲しい素材があったら

取ってきますよ?」


 そう言うと親方ドーワ族がピクリと反応した。バツが悪そうな表情で振り返るとボソボソと話し出す。


 「……………………。もしも、の話だ。プラティヌ鉱を採ってくるのなら考えてやらなくもねぇ」


 「プラティヌ鉱?」


 初めて聞く素材だ。ドーワ族の間では常識なのだろうか。首を傾げているとネキが口を挟む。


 「……この辺りにいるプラティヌゴーレムから採れる。でもとっても硬い。ツルハシが使い物にならない」


 「当然、倒すのも一筋縄じゃいかねぇ」


 (ゴーレム種か。確かにそうだな)


 プラティヌではないが、カッパーやシルバーなら戦ったことがある。物理はあまり通らず、結局フローの魔法に頼りっばなしだった。

 だが、持ちかけたのは俺だしベッドがないはツラいので引き受けないわけにはいけない。


 「明日は用事があるんで、2日後から取りかかって

いいですか?」

 

 「やるやらないは好きにしろ、腰抜け。

なぜなら俺たちは困らないからな!」


 (ごもっともです)


 「鉱石が採れたらまた来ますね」


 「フン、腰抜けに採れればの話だがな!それに絶対に作るとは限らねぇぞ!」


 「……じゃあねー」


 工房を後にする。持っていく量次第で作ってくれるかどうか決まりそうだ。

 

 「プラティヌゴーレム、やっぱり物理は聞かないのか?そうなると魔法部隊のアパリシアさんたちの協力が必須になるな」


 正直不安しかない。アパリシアさんはサンドバッグを条件に出したらやってくれそうだが、団長だし気が引ける。

かと言って副団長のマルールからは嫌われているので、言った瞬間拒否されそうだ。

 

 「部下のモンスター借りるか?アパリシアさんから言ってもらえれば協力してくれそうな気がする。

でも……」


 もしかしたらカッパーやシルバーと違って物理が通るかもしれない。情報収集が必要だ。


 「モンスターといえばやっぱり」


 まだ陽も落ちていないし、俺は目的の場所に向かった。

 オネット云々→第1章 クセの強い魔族を紹介される①

に書いています。


 よければ読んでみてください。

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