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命乞いから始まる魔族配下生活〜死にたくなかっただけなのに、気づけば世界の裏側に首突っ込んでた〜  作者: 月森 かれん
第2章

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フロに乱入される

 「ヒハハッ!オツカレ〜、モトユウちゃん!」


 「お、おつかれさまです」


 (フロだったか……)


 城の中でデュークさんとよく行く場所と言ったらフロしかない。やっぱりという思いと少し安心感を覚えながらユにつかる。

ちなみにデュークさんは最初と同じように頭から飛び込んでいった。俺の真似をしてカケユをしようとはしたがすぐに飽きたようだ。

 

 (子供っぽいところあるよな。それに救われてるけど。でも、デュークさんと一緒なのも少しぶりな気がする)


 長い時間離れていたわけでもないのに、デュークさんがいないと寂しさを覚えるようになってしまった。俺にはないポジティブ思考に救われているだけだとは思う。

 ぼんやりしているとデュークさんが無邪気に笑みを浮かべて声をかけてくる。 


 「ね〜ね〜、モトユウちゃん」


 「はい?」


 「部隊移る気ないの〜?」


 「まだ1回も集まってないんですけど⁉」


 「そーなの?」


 スカウトを諦めていないようだ。どうにかして俺を引き入れたいらしい。せっかくなので理由を聞くことにする。


 「そうなんです。あの、どうして俺を引き入れたいん

ですか?」


 「モトユウちゃんと一緒にいると楽しいから」


 「楽しい⁉」


 予想外の理由に声が裏返る。そんな俺を見てデュークさんは当たり前といったように頷いた。


 「おうよー。特にモンスターに遭遇したとき突っ込んでく姿が」


 (なんだそりゃ⁉俺は真剣にやってるんだけど!)


 とはいえ、うまく立ち回りながら剣を振っているだけなのでデュークさんからすれば面白いのかしれない。

 するとデュークさんは何かを思いだしたように手を叩いて俺との距離を詰めてくる。


 「モトユウちゃんー、1個思ったこと言っていい?」


 「はい……」


 「前にビビりだって言ってたけど、俺はそこまでビビりじゃないと思うぜ」


 「へ?」


 (ビビりじゃない?)


 まさかそう言われるとは思っていなかったので、瞬きを繰り返すことしかできなかった。

 

 「だってよー、城周辺のモンスターにも突っ込んでくじゃん?アイツらはそこそこ強い。しかもこっちの姿を見ると向かってくる。本当にビビりだったらアイツらが狙いを定めてきた瞬間逃げてるだろ」


 (確かに。全部立ち向かっていったな)


 デュークさんの言葉に賛同する。今まで何度か城周辺のモンスターと戦ったが、1度も逃げた覚えはない。

なんで逃げなかったのか俺の中で答えは出ていた。


 「お、俺1人だったら逃げるか隠れるかしてたと思います。

突っ込んでいったのはデュークさんがいてくれたからです」


 1人だったら絶対にそんなことはしない。味方――しかも1番接点の多いデュークさんがついてきてくれたからこそだ。なぜか安心感を覚えてモンスターと戦うことができる。


 「フ〜ン、俺がいたからねぇ……。ああ、そう〜」


 (怖いぐらいニヤニヤし始めた……)


 変に解釈された気がする。本心なのは間違いないが、言わなかった方がよかったのではないかと少し後悔した。

 いつも通り距離も近いし、いたたまれなくなってくる。


 (怒らせたとかじゃないから、まだマシだけど。

でもこのままだと何かされそうな気がするし、上がるか)


 「俺そろそろ上が――」


 その時、突然ガラリとドアを開けてアパリシアさんが入ってきたのだ。慌てて上げかけていた足をおろして右腕で目を覆う。


 「ちょっ⁉」


 「お、誰かと思ったらデュークと下僕モドキじゃねーか」


 (なんで⁉立て札は⁉)

 

 女性の体は俺には刺激が強すぎる。

 ユが揺れてデュークさんが離れたのがわかった。


 「ヨォ、アパちゃん〜。相変わらず大胆だな〜」


 「お前もだろ。で、下僕モドキは何してんだ?」


 「見ればわかるじゃないですか!立て札気づかなかったんですか⁉」


 猛抗議するとアパリシアさんが呆れたように息をつく。


 「言ってなかったのか?」


 「悪い悪い、忘れてたわ〜」


 当たり前のように会話が交わされている。デュークさんがどうしているのかはわからないが、たぶん目は覆っていないだろう。


 「アパちゃんはなー、「立て札効かない勢」だ」


 「はい?」


 フロは混浴らしいが嫌がる魔族もいるため、入るときはそれぞれ立て札を入り口に立てかけているのだった。


 (効かないってことは……関係なく入ってくるわけか!

今みたいに!)


 「ちなみにデュークもな」


 「そう。っても俺は入らないけど〜。

前にうっかり入ってヒドイ目に合いそうになった」


 「あれは冗談抜きでビビった。危うくマルールに感電させられるところだったんだぞ!」


 「悪かったって〜。すぐ出なかったら俺が黒コゲになってただろうな〜」


 (女性がいるときに入ったのか⁉ある意味尊敬する!)


 会話の内容から状況もだいたい想像できた。

 それにしても次々と入ってくる情報についていけない。


 (と、とにかくアパリシアさんに出てもらわないと)


 けっこうユに浸かっていたので体が熱くなってきた。このままだと間違いなくのぼせる。

 

 「まぁ今日はお前らだから何も心配はないな!」


 しかし俺の気持ちも虚しく、アパリシアさんの声が近づいてきた。ユも揺れているし浸かったようだ。


 (マジかよ⁉逃げられねぇ⁉)


 右手は目を覆っているし、左手はバスタブの淵を掴んでいる。フロはありえないぐらい深いので離すわけにはいかない。溺れて「教会送り」なんて絶対に嫌だ。

 するとデュークさんが笑い出した。


 「ヒハハハッ!アパちゃんやるぅ〜」


 「あたしはフロ入りに来たんだぞ!浸からなきゃ意味ないじゃないか!

 それにお前もお前だ!さっきから全く動じてないだろ!」


 アパリシアさんの言うことは最もでデュークさんは普段通りの態度をとっている。まったくと言っていいほど慌てたり焦っている様子はなさそうだった。


 「アパちゃんと一緒になるの何度目よ〜?今更だわ。

それに俺、女に興味ないもん」 


 (あ、やっぱり?)


 背中を嫌な汗が流れ落ちて体温が少し下がった。うすうす感じてはいたが、デュークさんはソッチの方で間違いないようだ。


 「だからってそんな堂々としてるのお前ぐらいなもん

だぞ」


 「ヒハハッ。自分で言うのもなんだけど、俺はそう簡単に取り乱さないぜ〜。せいぜいコーフンしたときぐらいなもんよ」


 (興奮したときに取り乱す?)


 「お前が何したらコーフンするのかわからねーよ。

なあ?下僕モドキ?」


 「え⁉」


 (なんでくっついてくるんだ……!)


 肩に柔らかいものが触れる。魔族でも肌の質感は俺達と変わらないみたいだ。

急激に体が熱くなるのを感じながら視界が真っ黒になった。

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