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命乞いから始まる魔族配下生活〜死にたくなかっただけなのに、気づけば世界の裏側に首突っ込んでた〜  作者: 月森 かれん
第2章

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強制的に採られる

 俺はあたり一面真っ黒な空間に座っていた。周辺だけ灯りがついているかのように視界がハッキリとしているため、自分が座っていることと周りが黒いことがわかる。

しかし縄も鎖もないのに体を全く動かすことができず、声も出せない。目だけが動かせる。


 (な、なんだ?)


 幸い、周囲に敵の影は見えなかった。どうやら俺一人のようだ。


 |(でも、どうするんだこの状況。助けも呼べないし。そもそもどこだ?)


 現実世界ではないことはなんとなくわかる。ただ、緊張や漂っているブキミな空気はリアルに感じ取っているため、もしかしたら寝ている間にどこかに飛ばされたか運ばれたかして、ここにいるのかもしれない。


 |(誰が何のために?俺を監禁して得するような人が……

思い当たるのが複数いる)


 フォルスさんとマルール。とはいえ2人とも知り合ったばかりだ。確かに嫌悪感は抱かれているが、いきなりこんなことをするのは考えにくい。印象が変わる前に俺を潰しておこうというのなら話は別だが。


 |(でも「教会送り」のことは聞いてるはずだからな。マルールに関しては魔王のワード聞いただけで怯えてたしやっぱ違うか。なら、まだ顔も知らない魔族?)


 魔族達は人間の俺がいることは知っているはずだ。

デュークさん達幹部からの評価が今のところ高いため、よく思っていないのかもしれない。


 |(とりあえずこの状態を何とかしないと)


 すると突然、地面に灰色の霧のようなものが現れだんだん大きくなっていく。それを見て背筋が寒くなった。


 (モンスターじゃなさそうだけど嫌な予感がする。

逃げてぇ)

 

 そうは思っても俺の状態は変わっていない。

それは最終的に魚のような形をとり、大きく跳ね上がったかと思うと口を開けて俺に落下してきた。





 「うっぎゃあーーーー‼!」 


 あまりの恐怖に叫びながらベッドから体を起こす。

肩で息をしながら両手を握りしめた。全身にジンワリと汗が浮かんでいるのがわかる。


 「はっ、はぁっ……ゆ、夢か……。食われるかと思った」


 「ああ、ビックリしました」


 「え゛⁉」


 すぐ隣から聞き慣れた声。素早く右を見るとなんとテナシテさんが俺を眺めていた。手に容器を持っていたが、体中を部分ごとに紫の鎖で縛られていて、そっちに気を取られる。


 (まさかテナシテさんが夢を見せてたのか⁉

いや、それよりもここ、俺の部屋だよな⁉わざわざ出てきたのか?っていうかなんで鎖⁉)

 

 次々と疑問が思い浮かんで言葉が出てこない。

するとテナシテさんは少しだけ微笑んで口を開いた。


 「1つずつ説明しましょうか。まず夢についてですが、私にそんな能力はありませんよ。あなたが勝手に見ただけです」

 

 「疑ってごめんなさい……」


 「お気になさらず。

 次にこの鎖ですが、魔王様がつけてくださったものです。心の声が聞こえる範囲を狭めてくれます」


 「魔法の鎖?苦しくないんですか?」


 テナシテさんはしっかりと首を縦に振る。


 「はい。動きづらいのは確かですが、苦しくはありませんよ」


 (そうなんだ)


 「次に、私がここにいる理由ですが――」


 そう言うとテナシテさんは手に持っている容器の中身を俺に見せてくる。青い髪の毛一房、そしてさらに四角く区切られたには部分に赤い液体。自分の体温が下がっていくのがわかる。


 「まさか、俺のサンプルですか?」


 「はい。何故かは言わなくてもわかりますよね?」


 (食事……)


 心で答えるとテナシテさんは眉をひそめる。

ここに来てから俺はマトモな食事をしていなかった。というのも魔王が補助魔法をかけてくれているらしく、そのせいで空腹を感じないそうだ。

しかし、身体機能はしっかり低下していて普通ならば倒れていてもおかしくないそうで、今度から食事をし忘れたらサンプルをと採ると言われていたのだった。


 「その通りです。わかっているのなら摂ればいいじゃないですか」


 「ここ2日は見学で忙しくて……」


 (ヤベ、忘れてた。でも相変わらず空腹感ないし)


 「言い訳不要です。空腹感がなくてもとってくださいと言いましたよね?」


 言われたのは覚えている。しかし肉以外に何を食べればいいかわからないのだ。


 (それに肉の備蓄もないし。あ、せっかくだから聞いてみよう)


 「はい?」


 「テナシテさんは普段何を食べてるんですか?」


 そう尋ねると首を傾げていたテナシテさんは固まってしまった。まさか聞かれるとは思っていなかったようだ。


 (だって俺、モンスターから肉獲る以外に知りませんし) 


 「……魔族はニンゲンよりも丈夫なので、しばらくの間食事をしなくても生きていけます。それでも毎日食べる魔族もいるみたいですが。

 で、私の食事でしたね。私は城内のとある場所に生えている果実を2日おきに食べています。私にとっては栄養豊富なのでそれで充分です」


 (テナシテさんにってことはその果実が相性が悪い魔族もいるのか?

 俺たちは好き嫌いならあるけど、人によって摂れる栄養が違うなんてことはない)


 全く仕組みがわからない。体質的な問題なのだろうか。


 「あなたは一部の魔族の評価は高いみたいですから、他の方にも聞いてみては?必ずしも肉から摂らないといけないわけではないのでしょう?」


 「はい……」


 (あ、そっか。この辺りなら少し歩けば水辺もあるし、肉だけじゃなくて魚や果実とかからでもいいのか)


 てっきり肉から摂らなければいけないと思い込んでしまっていた。気づかないうちに考えが偏っていたようだ。


 (でもここまでして俺のところに来てくれるなんて)


 そう思うとテナシテさんはまた眉をひそめる。起きてから今の間だけで何度目だろうか。


 「何を言っているのですか、あなたがヘバると魔王様が心配しすぎて気が動転するので仕方がなく来ただけですよ」


 「へ?」


 (心配?俺を?)


 「当然でしょう。モトユウさんは唯一のニンゲンなのですから。そう簡単に「教会送り」にするわけにはいかないと仰ってましたよ。それに人質にもできると」


 「人質……」

 

 (その考えはなかった。俺、自分から命乞いしたし当然か)


 いざというときは俺を盾にして他の人たちを攻撃するということだろう。自分で思っているよりも大変な状況なのかもしれない。


 (我ながら甘い考えだよなやっぱり。

 あ、そういえば)


 全く話は変わるが、夢に関連してここに来たばかりの頃に見ていた夢を話そうか迷う。まだ誰にも話していないが、ただの夢では済まないような気がしているのでずっとモヤモヤしているのだ。


 「あのテナシテさん、1つ聞いてほしい話があるんです。そんなに深刻な内容ではないんですけど」


 「ほう?」


 今までの夢を最初から話すとテナシテさんは呆れたように声を漏らした。


 「はあ、一緒に行動していた仲間が無言で容赦なく襲いかかってきたと?」


 「はい。トータルで3日ぐらいですけど。それに仲間が襲いかかってきたのは最後の日だけで……」


 俺の言葉を聞くとテナシテさんは少し考えてから口を開く。


 「あなたが寝返ったからじゃないですか?」


 「やっぱりそうですよね……」


 「ですが、目に光がなかったこと、武器が違うこと、

一言も喋らなかったこと。引っかかる点はありますね」


 「何かの暗示じゃないかとは思ってるんです。

なんとなくですけど」


 「そうですか」


 まだ言葉が続くと思って待ってみたが、テナシテさんは口を閉じたままだった。変化はなさそうなので立ち上がる。


 (忘れないうちに何か食ってくるか)


 するとまたテナシテさんが眉をひそめた。思わず動きを止める。


 (え?)


 「何勝手に終わらせようとしているのですか?まだサンプル全部採り終わってませんよ」


 「え、いや、俺は食事に――動けねぇっ⁉」


 (ヤベ、シャドウバインドくらった!)


 「あなたが立ち上がったときに影がちょうどいい位置にあったので、フフフ」


 テナシテさんは俺の苦手な影のある笑みを浮かべるとゆっくりと手を伸ばしてきた。




 「せめて、寝てる間に……全部採ってくれたら、

良かったのに」


 「採ろうとはしましたよ。ですが途中であなたが起き

上がってしまったので、仕方がないでしょう」


 意気消沈している俺を見ながらテナシテさんは微笑む。サンプルを採るのは楽しいらしい。やっぱり敵に回してはいけない。


 「でも、テナシテさんスゴイですね。目を閉じているのにサンプル採れるなんて」


 「相手のどこか1部分に触れればあとはわかりますから」


 「スゲェー」


 感心しながらコッソリ魔法が解けているかどうか確かめようと肩を揺らすと簡単に揺れた。


 (あ、動ける。でも食事の前に魔王のところに行かないと。へネラルさんの部隊に入ることを伝えなきゃ)


 そう思っているととテナシテさんから思いもよらない提案が出る。


 「私がお伝えしておきますから、モトユウさんは食事に行ってください」


 「え、いいんですか?」


 「はい。この鎖を解いてもらわないといけませんから。ついでですよ」


 「ありがとうございます!」


 お礼を言って頭を下げるとテナシテさんが笑う。


 「やっぱりあなたは面白い方ですね。敵に頭を下げて

どうするのですか」


 「俺はテナシテさんのこと敵だとは思ってません!」


 確かに魔族だし敵だと言われればそうなのだろう。サンプルを採るという無茶振りもしてくるが、それでも敵だとは思えない。

 言いきるとテナシテさんはハッと息をのんだ。しかしそれも一瞬で普段通りの表情に戻る。


 「敵ではないのなら、何ですか?」


 「えっと、いざというときは助けてくれるお兄さん

みたいな」


 「それなら私よりデュークさんの方が合っていると

思いますが……」


 (でも俺はそう思ってます。きれいごとですけど)


 するとテナシテさんはため息をついた。しかし呆れてついたわけではなく、どこか嬉しそうに見える。


 「……調子が狂うじゃないですか」


 「え?」


 「とにかく魔王様にはお伝えしておきますから」


 「お、お願いします」


 俺はテナシテさんと別れて食材を取りに向かうことにした。

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