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命乞いから始まる魔族配下生活〜死にたくなかっただけなのに、気づけば世界の裏側に首突っ込んでた〜  作者: 月森 かれん
第2章

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自主的に廊下を掃除する

 翌日、俺は何の問題もなくベッドから身を起こした。


 「全然痛くねぇ……」


 昨日の今日でこんなにも治まるものなのか。

もしかしたらテナシテさんが栄養剤に何か混ぜておいてくれたのかもしれない。いや、十中八九そうだろう。


 「薬ってスゲぇな……。それを作ったテナシテさんも

スゴいけど」


 俺は今まで薬に頼ることはなかったので感心しか持てなかった。しかも最近サンプルを採ったばかりなのに俺の体に合うように作られてある。今回の栄養剤も食事をしていない

ことを予測して、前もって作っておいてくれたのだろう。


 「これなら廊下掃除できるな」


 立ち上がって軽く体を伸ばしたあと部屋を出る。

先の見えない長い廊下は一見キレイだが、ところどころ砂や泥が落ちている。


 (俺が持ってきたものかもしれないけどな。魔王は気に

ならなかったのか?)


 疑問に思う。戦闘があった後、自分でガレキを処理する

らしいし、潔癖症まではいかなくてもキレイ好きなのは間違いないからだ。

立ち止まって考えていても埒があかないので歩き始める。


 「確かこの辺に小部屋が……」


 以前デュークさんが掃除道具を取ってきた場所だ。記憶が正しければこの辺りにあるはずだ。注意深く歩いていると

小部屋を見つけた。しかし中はガレキや木の板が無造作に放り込まれている。


 「ここ……じゃなさそうだな。いや絶対違う」

 

 表に位置しているからか造りが複雑だ。ここはどうも最上階みたいなので、この廊下と王座の間を含め、ところどころ小部屋があるだけみたいだ。

さらに進んで3つ目の部屋でついに探しものを見つけた。


 「あった」


ひび割れた壁に立てかけられているモップを持つと、部屋を出てさっそく掃除を始めた。

主に端の方に砂や泥、埃が溜まっており、モップでとるのは一苦労だ。


 「モップ以外にないのか?ホウキとか……」

 

 ひとまず1箇所に集める。ゴミ入れのようなものも見当たらないので自室にでも置くつもりだ。

外に放り投げてもいいのだろうが、誰かに当たってトラブルの元になるのは嫌だからだ。

 それにしても体が軽い。黙々と掃除を続けて半分を過ぎたのに疲労を感じないのだ。


 「薬のおかげだろうな。あ、今日こそはちゃんと

食っとかないと……」


 じゃないと罰としてサンプルを採られてしまう。それだけは回避したい。ある意味で疲れてしまい何もできなくなる

からだ。


 「何をしている」


 ふと背後から警戒しているような低い声。誰なのかは予想はつく。ゆっくり振り向くと案の定魔王が立っていた。

 魔王とはいったものの、俺は魔王らしくない魔王だと思っている。実力はさすが魔王と言われる強さなのだが、自分でも城内を掃除するし謝るし、なにより優しすぎる。

それに俺は配下になってから目を背けたくなるような仕事、例えば戦闘後の処理等をさせられていないのだ。 


 「自主的に掃除してます。最初の1日しか掃除してなかったんで、そろそろした方がいいかなーって思って」


 そう言うと魔王は赤い目を細めて俺をガン見しだした。

疑われているのかもしれない。


 「あ、なんか仕事をもらえるなら切り上げますよ?」


 「…………………………………」


 明るめに言っても魔王は表情を変えずに俺を睨んでいる。


 (何か言ってくれよ……。掃除始めていいのなら

始めるぞ)


 少しソワソワしながら魔王の言葉を待っていると息を

ついた。


 「……やはりキサマは変わっている」


 「はあ……」


 (いや、魔王もそうとう変わってるけど……。って、

しばらく待ってこれかよ!)


 俺の様子など気にもしていないらしく、魔王が話を

続ける。


 「我どころかデューク達にも刃向かわないとは」


 「……「教会送り」になりたくありませんから」


 「フン、どうやら本当にその思いだけでここまで来ているようだな。今日はそれを――ム?」


 魔王は枠だけの窓を横目で見ると眉をひそめる。

そして次の瞬間、右手を突き出しそこから黒い球体を飛び出させたのだ。数秒後にドンと凄まじい破壊音が聞こえた。

城全体も少し揺れる。

 モップでバランスを取りながら呆然とするしかなかった。あまりにも一瞬のことで何が起こったのかわからない。


 「へ?」


 「……勇者共が来ているのが見えた。簡単に城内に入られても困る」


 「ああ……」


 (表は迷路になってるから時間は稼げそうだけどな。

 それにしても容赦ねぇ。いきなり前から魔法弾が飛んで

きたら避けれないだろ)


 呆然としたままでいると声をかけられる。


 「ヒドイとは思わないのか?」


 「そこまでは……」


 (悲しくはないな。会ったこともないし。

っていうか見えなかったし)


 ザルド達なら抗議したが、パーティはもう「教会送り」になってしまったようだし、確かめる方法もないので気にしないことにする。

 俺の答えを聞いた魔王はどこか安心したように息をついた。


 「……そうか。フン……」


 「それで、魔王さんは何しにここへ?」


 「我がどこで何をしていようとキサマには関係のない

ことだ。せいぜい掃除に励むといい」


 魔王は俺に背を向けるとそのまま歩いていく。しかし急に振り向くと真剣な表情で話しだした。


 「1つ忘れていた。キサマに命令だ。ありがたく思え」


 「……なんでしょう?」


 (またモンスターの討伐か?だったらテナシテさんや

デュークさんに――)


 「デューク達、幹部の部隊を見てこい」


 「はい?」


 (マジで何がしたいんだ魔王は⁉)


 声に出しそうになったところをどうにか抑えて、首を縦に振った。


 「えっと……それで何か?」


 「誰かの部隊に入れ。絶対だ」


 頭の中が疑問符で埋め尽くされる。入ったら訓練でもさせられるのだろうか。運動不足になって身体能力が落ちるよりはいいが、本当に意図が読めない。


 「デューク達に話なら通してある」


 「わ、わかりました……」


 (本当はよくわかってないけどな。でも掃除より優先度は高い)


 俺は素早く掃除道具を片付けると移動を始めた。

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