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命乞いから始まる魔族配下生活〜死にたくなかっただけなのに、気づけば世界の裏側に首突っ込んでた〜  作者: 月森 かれん
第1部配下生活編 第1章 

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33/92

魔王には逆らえないと悟る

 始まりの状況が少しBL寄りになっているため

段落を下げています。ご了承ください。(途中で状況は改善されます)















 (なんでこうなったんだ?)


 俺の目の前にはデュークさんの顔。しかし覗き込まれているわけではない。ベッドに組み敷かれているのだ。

足はもちろん、両手も頭の上で括られているので全身を動かせない。物理版シャドウバインドだ。

 テナシテさんからお叱りを受けていた時、俺の何気ない一言でデュークさんの機嫌が悪くなり、話そうぜ?と、俺の部屋に来た結果こうなった。


 「あのー、デュークさん?」


 「だってこうでもしないとモトユウちゃん逃げるだろ〜?」

 

 満面の笑みだ。さっきまで真顔でダンマリしていたのが嘘のように思える。


 「逃げませんよ……。話があるって言ってるのに。

ちょっと怖いですけど」


 なぜ怖いかというと、デュークさんとの距離がやけに近い時はだいたい脅されるか忠告されるかしているからだ。

 俺の言葉を聞いたデュークさんは数回瞬きをしたあとグッと顔を近づけてきた。ただでさえ近かったのに、今ので額同士が軽くぶつかる。


 「ン?そう?なら、本題に入るけどさー、

俺の変化見て、()()()()()よな?」


 「う……」


 (やっぱりその事だよな)


 威圧感に俺はゴクリと唾を飲みこんだ。

 まだ魔王の配下になる前、仲間たちとデュークさんに挑み倒したのだが、その時に模様は1()()()()()()()()()()()()()

 テナシテさんによれば最大限のパワーが引き出された状態らしいので、対峙した時は本気ではなかったということになる。


 (正直に言うか)


 聞かれなければ黙っておくつもりだったが、ここまで圧をかけられたら言うしかない。


 「はい……。

 前に戦ったとき、オーラとか模様が濃くなるとかなかったですよね?ずっとそのままで……」


 「ヒハハハハッ、おうよ。気づくよな?」


 「魔王さんから何か言われてたんですか?」


 「……やっぱ勘鋭いな、モトユウちゃん。

そう、簡単に全力で対峙するなと言われている。

どうしてかは知らないけどな」


 (知らないのか……)


 てっきりデュークさん達幹部には話していると思っていたのでガッカリする。

 

 (デュークさんって安心してると口軽くなるのか?)


 「墓地送り」やテナシテさんの存在や薬に詳しいこと、割と大事そうな情報を俺に話してくれている。


 「前も聞いたとは思うんですけど、重要そうな情報を俺に話しても――」


 「ああ、話す。個人的にモトユウちゃん信用してるし。

 それに前に言ったよな?退()()()()()()()()()()()()()って」


 「でも――」


 「ならどうして反抗しない?」


 「…………」


 痛いところをつかれた。

 俺には配下になってから没収すらされていない装備品がある。しかも剣に関しては持ち歩いていいということがわかっているため、反抗ができない状態ではない。


 (俺が反抗しないのは挑んでも負けるとわかっている

から。それに少しずつ魔族達と打ち解けてきて、敵として見れなくなってきている……)

 

 魔族全体のほんの1部だし、上辺だけという可能性もあるが、それでも俺にとっては仲間のような存在になりつつあった。 

 返す言葉が思いつかずに口を閉ざしているとデュークさんが小さくため息をつく。


 「気になるんならマーさんのトコ行ってくれば?」


 「じゃあ、行ってくるんで退いてもらってもいいですか?」


 「ヘーイ……」


 渋々ではあるが退いてくれた。そのままベッドから下りて立ち上がるとニヤニヤしながら俺を見る。

 相変わらずの切り替えの早さには開いた口が塞がらない。

 

 「ところでモトユウちゃん〜、どうして俺が組み敷いたかわかる?」


 「え?いや……」


 「じゃあ、前に2回ほど俺の前で考え込んだの覚えてる〜?」


 「ボヤッとですけど……」


 食料調達に行った日にデュークさんの前で考え込んだ。

普通なら機嫌が悪くなってしまうのだが、それがなかったのだ。


 「今回はね、それのツケ。

モトユウちゃん何かと考え込むことが多いからさー、

その度に機嫌悪くするのもどうかと思って」


 「は、はぁ……」


 (忘れていたわけじゃなかったのか)


 おかしいとは思っていたが、理由がわかってスッキリした。

 

 「んで、だったら回数溜めといてこういう時にツケとして払っちゃおうーって考えたんだわ。なかなか名案じゃない?」


 「名案だと、思います……」


 (マジか。気をつけないとな。心臓に悪いし)


 つまり、俺がデュークさんの前で考え込んでしまって何もなかったら後々覚悟しておいたほうがいい、ということになる。

 ベッドから下りて身支度を整えると部屋を出た。 


 王座の間に入ると頬杖をついている魔王と目が合う。今日は多忙ではなさそうだ。


 「…………下僕か。何の用だ」


 「えっと、少し聞きたいことがあって……」


 「……1つだけにしろ」


 魔王は短く答えると目を閉じた。前回もそうだったが1つだけしか聞く気がないらしい。


 (今回は聞くことが決まっているから迷わないな)


 「魔族って本気出したら強いんですよね?」


 「……何が言いたい」


 「い、いろいろありまして。

その過程でデュークさんが全力で対峙するなって言われたって言ってたから気になって……」


 「過程とやらを話せ。全てな」


 「え?」


 戸惑っていると魔王は目を開けて無言で立ち上がると歩み寄ってきた。いつの間にか右手にメイスを持っている。


 (え⁉ボコる気か⁉)


 慌てて経緯を話すと魔王は呆れたように息をついた。


 「…………そんなことか」

 

 「へ?」


 (そんなことって……。魔王にとって大した問題じゃ

なさそうだな。やっぱり何か考えがあるのか?)


 「…………下僕らのように幹部を倒して我の元まで辿り着くパーティも一定数いるからな。我の推測ではあるがデューク達が本気を出してニンゲン共と戦えば、我の元まで辿り着ける者の数が激減する。それがつまらんからだ」


 「つ、つまり魔王さんが退屈――」


 俺の頭に鈍痛がはしった。メイスで殴られたのだ。

久々の感覚に両手で頭を押さえる。


 「いってぇ〜〜⁉」


 「身勝手な理由で悪かったな。

あと、いちいち騒がしいぞ下僕」


 「だったら殴らないでくださいよ⁉」


 痛みで若干出てきた涙を浮かべながら訴えると、なぜか魔王は笑みをもらした。


 「…………その割には嬉しそうだな」


 「はい⁉」


 (久しぶりで懐かしいなとは思ったけど、嬉しくはない!)


 朝叩き起こしに来なくなった理由を聞くのを思い出したが、1つだけと言われたので聞くならまた今度になる。

 若干魔王を睨んでみたが、当の本人は気にしていない様子で話を続けた。


 「……下僕の動きに関してはデューク達から報告を受けている。その腰の低さは策略かと思っていたが、違うようだな?」


 「死ぬのが怖いって言ったじゃないですか……」


 「……そうだったな」


 魔王はどこかに懐かしそうに目を閉じると腕を組んだ。


 (まぁ、そう簡単には信じないよな)


 「……下僕よ、今のような状況がいつまでも続くと思うな」


 「え?それはどういう……」


 やっぱり魔王だから、そのうち俺達の誰かに倒されるということだろうか。


 「なまやさしい状況が続くわけがなかろう!

近々、目も背けたくなるような仕事を与えてやるから

覚悟しておけ!」


 「は、い……?」


 (そっち⁉変に考えた俺がバカだった……)


 俺が状況をのみ込めず固まっているのを魔王がわかっているのかどうかは知らないが、ゆっくりと口を開く。


 「……用が済んだのなら戻れ」


 「し、失礼しました……」


 俺はよく理解ができていないまま王座の間を後にした。




 「魔王の意図が読めねぇ……」


 長い廊下を歩く。薄い赤色の絨毯が敷いてあるが、土がついていたり、破れたりしていてボロボロだ。

 

 (魔王らしくないのは確かだ。優しいというか。

ただ、力は本物。危うく「教会送り」にされそうになったことはあるけど)


 時々不在にしているようだが、魔王が普段何をしているのかもわからない。


 「ん?そういえばここって……」


 立ち止まって顔を上げた。配下になった初日に掃除させられた所だ。

 

 「そういやあれから1度も掃除してないけどいいのか?」


 何も言われてはいないものの、気になりだした。

魔王はキレイ好きだし掃除しておくのもいいかもしれない。

 

 「やっぱ明日にしよう……」


 ふと外を見て考えを改めた。日が落ちようとしていたからだ。今から始めれば間違いなく明け方になる。


 「となると、することがなくなる――」


 「モットユウちゃ〜ん‼」


 「え゛⁉」


 聞き慣れた声に振り返るとデュークさんが右手を上げて歩いてきていた。


 「マーさんから答え聞けたー?」


 「まぁ……」


 「ビミョーな反応だな〜。納得いってないの?」


 「そんな大したことない理由だったんで……」


 不思議そうに瞬きを繰り返すデュークさんを眺める。

 

 (それにしてもタイミング良いところに来たな⁉

まさか……)


 「俺を待ってたんですか?」


 「そうそう、フロ誘おうと思ってさ〜」


 (本当フロ好きだな……)


 しかし、もう日も落ちるし仕事もないので断る理由がない。


 「フロ、行きます」


 「さっすがモトユウちゃん!」


 「わッ⁉」


 勢いよく肩を組まれて視界が縦に揺れる。

でも嫌ではない。


 (デュークさん達もクセは強いけど、なんだかんだ言って気にかけてくれてるしな。俺はここで過ごす方が……)


 何かの間違いで「教会送り」になって、みんなの元に帰れても歓迎はされないだろう。むしろ、1人だけ逃げた裏切り者として追いかけられるかもしれない。

 

 (ザルド達には申し訳ないけど、戻れない)


 俺1人になったとたん襲ってきた死への恐怖には勝てなかった。

 「教会送り」が嫌で自分から配下になったし反抗するつもりもないが、このまま魔王達に従っておいたほうがよさそうだ。



                   第1章 完

 おかげさまで、第1章が完結しました。

一区切りつきましたので、評価等いただけると

嬉しいです。

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