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命乞いから始まる魔族配下生活〜死にたくなかっただけなのに、気づけば世界の裏側に首突っ込んでた〜  作者: 月森 かれん
第1部配下生活編 第1章 

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テナシテと約束する

 今回も3000字超えています。


 ※表現はぼかしていますが、軽い性のほのめかしが

ありますので、読まれる際はお気をつけください。

 「それで、私の所に来たと?」


 「はい……」


 俺の前にはイスに座って不機嫌そうに眉を寄せているテナシテさん。

 「会っている」と言われてオネットとテナシテさんが思い浮かんだが、薬に詳しいといえば後者になりそうだからだ。


 (オネットは裁縫が得意みたいだから違うと思うしな)


 「要約しますと、魔王様の仕事をクリアするために一時的に筋力を上げたい。しかも3日以内で、ということで良いですか?」


 「はい。薬に頼るなんて良くないとは思ってますけど……」


 「なら、頼るのをやめて失敗して、魔王様からボコられれば良いじゃないですか」


 (ヒデぇ⁉バッサリいったな⁉)


 「ヒドくて結構です」


 「あッ⁉」


 (そうだった、テナシテさんは……)


 心が読めることをすっかり忘れていた。

 焦りながらテナシテさんを見るとニッコリと笑みを返してくる。


 「思い出していただけたなら、何よりです。

 それにしても、3日以内とはなかなかハードですね」

 

 「やっぱり難しいですか?」


 「なんとも言えませんね。

 まず、サンプルを採らせてもらわないと……」


 「サンプル……」


 「ええ。今までニンゲンのサンプルなんて採ったことがありませんからねぇ。フフフフ」


 テナシテさんが立ち上がると同時に部屋の空気が変わった。殺意や恐怖ではないが、それに近い何か。この場に長く居たくない。


 「あ」


 (絶対敵に回しちゃいけない類だ!この魔族(ひと)!)

 

 「それは言いすぎですよ。

なに、大人しくしていただければ大丈夫ですから」


 そう言って今度は影のある笑みを浮かべながら近づいてくる。


 (なんか怖ぇ⁉) 


 とっさにイスから立ち上がろうとしたが、まるで拘束されたかのように動けなかった。しかし、体に鎖やロープが巻き付いているわけでもない。わけがわからないままゆっくりと視線をテナシテさんに戻す。


 「あ、あの……」


 (声は出せるのに?)

 

 「フフフ、すみませんねぇ。

逃げようとするだろうなと思ったので魔法でシバリました」


 (いつ⁉)


 するとテナシテさんが無言で床を指さした。つられて視線を向けるが何もない。強いて言うなら俺の影をテナシテさんが踏んでいるぐらいだ。


 (まさか影踏み⁉でもそんな魔法聞いたことがない……)


 拘束魔法があるのは知っているが、創造した鎖や輪で相手を縛り付けるものしか知らない。


 「シャドウバインドです。さぁ……覚悟してください……」


 「え⁉ちょ待っ――ぎゃああぁッ⁉」




 「サンプル」を採取された俺は疲労困憊だった。

 体感では1日経ったのかと思うほどだが、実際その半分以下だろう。テナシテさんは俺とは真逆でニコニコと笑みを浮かべている。よほど楽しかったようだ。


 「あんなに盛大に叫ばなくても。

 頭髪、唾液、爪、皮膚、血を少し頂いただけじゃないですか」


 「取りすぎですッ‼」


 (それに、ま、まさかアレまで採られるとは……)


 テナシテさんは口に出さなかったが、実はもう1つ採られたモノがあった。それのせいで俺は疲労困憊になっている。


 「フフフフフ、すみませんねぇ。

 けっこういい情報が入ってるモノですから、せっかくなら採っておかないと」


 (マジか⁉)


 ここまで疲れるとは思っていなかったが、薬作りに貢献できたのなら悪くなかったのかもしれない。


 「でも、これで俺に合うのを作れるんですよね?」


 「ええ、サンプルを頂いたので大丈夫です。

 ですが、ニンゲンに対しては初めて作りますので、効果はあまり期待しないでおいてください。

 それに、モトユウさんが拒否しても()()作りたいんですよ」


 「はい?」


 (あ、マニアック?)

 

 「フフ、長く閉じ籠もっているのも悪くはありませんよ。

 せっかくなのでモンスターについて分析してみようと考えまして。おかげで知識だけはあります」


 「そうなんですね……」


 また時間がある時に訪ねて、この辺りのモンスターについて知っておくのも悪くはなさそうだ。

 不意にテナシテさんが小さく息をつく。

 

 「はぁ……それにしてもデュークさんにも困りましたね。思っていたより口が軽いようです」


 「でも悪気はないと思いますよ」


 「そうでしょうね。彼と会ってから50年以上経ちますが、魔王様とデュークさん以外で訪ねてきたのは、あなたしかいませんし」


 「50……」


 テナシテさんはサラリと言ったが、俺からすれば長い年月だ。デュークさん達もそれなりの時間を過ごしているのだろう。噂で魔族は不老不死だと聞いていたので、不死ではないが、不老なのは間違いなさそうだ。


 「そういえばモトユウさん、体調は万全ですか?」


 「はい。たぶんですけど……」


 また2日ぐらい何も口にしていないが、異常はない。


 「そうですか。念の為、今確認しておきましょうか」


 そう言うとテナシテさんが額に手のひらを押し付けてきた。すると、文字が浮かんだ光の輪が頭上から俺を囲みながらだんだん下がってくる。輪はあっという間に俺の足元まで下がって消えた。

 だが、テナシテさんの表情は硬い。さっきのニコニコが嘘のようだ。

 

 「モトユウさん……あなた、ちゃんと食事してますか?」


 「え」


 「ギリギリで動けている状態です。本来なら今のように話なんてできないと思いますが。

 ダルさや空腹は感じなかったのですか?」


 (やっぱりおかしかったのか……)


 自覚はあった。差し入れや用事のついでで何度か肉を食べたが、それでも日はあいている。

 話をどう続けようか考えているとテナシテさんがため息をついた。


 「おそらく、魔王様でしょうね。

 ニンゲンのあなたを死なせるわけにはいかないから、魔法でもかけているのでしょう」


 (そんな魔法があるのか……今度聞いてみよう)


 「とにかく、空腹感がなくても1日に2回は何かを口にしてください。あと、水分も忘れずに」


 「は、はい……」


 (なんか医師みたいだな)


 俺達人間にも冒険者以外に職業はたくさんある。

医師もその1つで、役割はほぼ「教会送り」とヒーラーに取られてしまっているものの、人々の健康状態を診ていろいろアドバイスをしているそうだ。


 「出来上がった薬を試す時に万全に近い状態でいて欲しいからです。薬の効果は服用者の体調にも左右されますので」


 「わ、わかりました……。よろしくお願いします」


 「ひとまず、明日また私を訪ねてください。少量でも作っておきます。

 さて、集中したいのでとっとと退室してもらえませんか」


 「は、はいっ‼」


 追い出されるように部屋を出ると目の前の壁にデュークさんが寄りかかっていた。待っていてくれたようだ。


 「話ついた〜?」


 「はい。作ってはもらえるんですけど、

人間に対しては初めてだから期待はしないで欲しい、と」


 「フーン、良かったじゃん〜」


 デュークさんはそう言って壁から離れると俺の正面に立った。相変わらず距離が近い。


 「それより、デュークさんはなんでこの事知ってたん

ですか?」


 「マーさん経由で聞いた。っても、たまたまだけどな〜。駆除のついでに角とか皮とか取ってきて欲しいって。

 で、理由聞いたら研究なんだとよ〜」


 「なるほど……。

 ついでにどうやって知り合ったのかも教えてもらっていいですか?」


 最初にテナシテさんと会った時に自分の存在を知っている人が少ないと言っていた。

 ずっと閉じ籠もっているみたいなので、活発に動き回っているデュークさんとどのように顔を合わせたのかが気になったからだ。


 「んー、いつだったか。城内ウロついてたらテナシテちゃん連れてるマーさんと会ったのよ。

 初めて見るからさー、「ソイツ誰?」って聞いて、今のようになった」


 「は、はぁ……ありがとうございます……」


 (あ、これからについて聞いておこう)


 オークの討伐を手伝ってくれると言ってくれたことだ。

 50体倒し終わるまでいてくれるのだろうが、以前、暇ではないと言っていたし俺の用事を優先しているのではないかと気になっている。


 「あの、デュークさん」


 「な〜に〜?」


 「俺の討伐の仕事が終わるまで、ついててくれるんですか?」


 デュークさんは何度か瞬きを繰り返したあと、盛大に笑いだした。


 「ヒハハハハハハハッ‼当たり前だろ〜!

俺から言ったんだしさ〜」


 「あ、ありがとうございます。助かります」


 「ドウイタシマシテ〜。

 んで、今からどうするの?オーク倒す?別の事する?」


 「今日はもう休もうと思います。体調良くないみたい

なので」


 やっぱり空腹感はないが、体を動かしたのと「サンプル」で疲れてしまっていた。

 それに今からオークを倒すとしても前より時間はかかるので、部屋で大人しくしておく方がいい。


 「リョ〜カイ〜!じゃあまた明日部屋に邪魔するからな〜」


 「は、はい……」


 (魔王じゃなくてデュークさんが訪ねてくるのが当たり前になってきてるな)


 だが、嫌でもないしなんなら少し安心する。

デュークさんの近くにいれば何かしら起こるため、何もしていないという罪悪感に悩まされなくて済むからだ。

 

 「せっかくだから送ってこーっと」


 「おわッ⁉」


 ガッチリと肩を組まれた。デュークさんからすればコミュニケーションの1つなのだろうが、いきなりされると心臓に悪い。


 (逃げれねぇ……)


 結局、自室まで肩を組まれたままだった。


 エインシェントオーク討伐数、1/50。

 タイムリミットまであと2日。

 

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