魔王に直談判する
道に迷いながら王座の間に行くと魔王が仁王立ちをして待っていた。
とにかく威圧感がすごい。俺から話があると言っていなければ「教会送り」にされそうだ。
「……………来たか。聞いてやるだけありがたく思え」
俺は魔王の10歩ほど前まで近づくと、最初の時と同じポーズで頭を下げた。
「武器の所持を許可してください!」
なぜこんな事を頼んだかというと、食料調達のためだ。
この辺りのモンスターは素手では歯が立たない事がわかっているので、武器がないと詰む。もし許可されなかった場合は、お下がりを貰う等してどうにかするしかない。
緊張しながら魔王の言葉を待った。
「……頭を上げろ、下僕」
(え?)
おそるおそる顔を上げると、見下ろしている魔王と目が合う。目つきは鋭いが攻撃しそうな感じではない。
「……あと、そんなくだらない姿勢は我の元から
去る時にしろ」
「は、はぁ……」
戸惑いながら座り直す。魔王にとって土下座はくだらない部類に入るようだ。
(俺達の間でも、くだらないのは変わらないけどな)
「何の話かと思えば、つまらん……」
「で、でも俺にとっては――」
「そもそもキサマに武器の所持を禁じてはおらぬわ‼」
(……確かに⁉)
魔王の言うことはもっともで、所持を許されていないのなら配下に成り下がった時点で没収されているはずだ。
予想外の言葉に瞬きを繰り返す。
「本当に所持してていいんですか?」
「……刃向かってきたら叩きのめすまでよ」
「わ、わかりました。ありがとうございます!」
勢いよく頭を下げておいた。
最近はないが、いつメイスで殴られるかわからない。
(薄々感じてはいるけど、魔王らしくないな……)
死にかけたことはあるし、実際さっきも危なかった。だが、それを追加してもイメージしていた魔王とはかけ離れている。何かが足りていない。
機嫌を損ねるわけにもいかないのでゆっくりと頭を上げた。
すると、魔王が微かに笑う。
「……フン、キサマは面白いな。宿敵に何度も頭を下げてどうする」
「俺、配下ですし……」
(それに、立場をわきまえろって怒られたしな)
「…………自らの立場を理解しているのは大事だが、
あまりにも謙虚が目立つと我が苛立って殴る」
(理不尽だな⁉)
「で、でも逆に調子に乗ったら」
「調子に乗りすぎても殴る」
(何も言えねぇ)
ほどほどに振る舞えということなのだろうが、
それができれば苦労はしない。
今のところ大丈夫だが、長期間続いたら調子に乗る可能性が高い。
「……話はそれだけか?」
「えっと……」
(朝叩き起こしに来なくなったこと、俺が空腹を感じないこと、デュークさんが火傷したのがわかったこと。あ、いろいろ出てきた……悩む!)
「まだいくつかあるんですけど」
「……1つだけ聞いてやる」
「1つだけ⁉……ですか⁉」
「聞いてやるだけありがたく思え」
魔王は短く答えると腕を組んだ。
(どれがいいんだ?)
さんざん迷って、大事なことはあるのにさっきの件を優先させてしまった。
「どうしてデュークさんがケガしてるって
わかったんですか?」
「…………………………少しだが痛みを共有しているからだ」
「え……魔力を分けているからですか?」
そう言うと魔王は意外そうに眉を上げる。
「…………聞いていたか。魔力を分かち合うと、付与した者が負ったキズを自身も負う」
「じゃあ、火傷を……」
魔王が肯定するように目を閉じる。
身近で見たことがなかったのも納得した。本来なら負わなくてもいいキズを負うのなら、気前よく他者に付与するはずがない。
「……デュークは魔力が皆無だからな。あの火傷なら必ずフロに行く。……パーティにでも会ったか」
とりあえず頷いた。俺が魔法を使えないことなんて見抜かれているだろうが、念の為だ。
同時に1つの疑問がわく。
(ん?なんで俺に詰め寄ったんだ?)
「じゃあさっき俺の首を絞めたのは?」
「…………居るとは思っていなかったからだ。キサマが魔法を使えるとは思っていないが、万が一ということもある。
それに、あの場に居るということは何らかの事情を
知っていると見た。
そのような時は問い詰めるのが1番だからな」
「危うく「教会送り」になるところだったんですが……」
すると魔王は気まずそうに俺から顔をそらした。
「………それは……………………………すまなかった」
(謝った……)
やっぱり魔王らしくない。
引っかかるが今は気にしないことにする。
「……魔王さんって部下のことしっかり
管理してるんですね」
「…………頂点であるからな。
部下など掃いて捨てるほどいるが、入れ替わりが激しいとデューク達、幹部の負担が増える。
言うことを利かない者は放置、統制を乱すのならば潰す」
(俺達人間、顔負けのマネジメント力だな。
言うこときかないからって殺すまではしないけど)
複雑な気分だ。
「……さて、武器を持っていいとわかったな?
喜べ、キサマに仕事を与えてやろう」
「ヘ?」
「……エンシェントオークは知っているな?
アレを50体倒してこい」
(50体⁉)
素手と石ころで挑んだ前回とは違い、武器を持っていてもいいとわかったので、立ち回りを上手くやればクリアできそうだ。
しかし、体感ではあるものの皮膚は地面のように硬かったし、斬るとしても一撃では倒せないだろう。
「…………もの足りんか?」
「い、いえッ⁉作戦を練ってただけです!」
慌てて弁解する。真剣に考え込んでいる様子が不満そうに見えたらしい。
「ならば行って来い」
「期限は……?」
魔王は少し考えた後、口を開いた。
「3日。それぐらいあれば充分だろう」
(結構あるな……)
てっきり今日中、もしくは明日までかと思っていた。
だが、俺の実力では終わりそうにない。誰かの手を借りるしかなさそうだ。
次話でわかること
・オークの生態
・やっぱりデュークさんスゴい
よろしくお願いします




