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命乞いから始まる魔族配下生活〜死にたくなかっただけなのに、気づけば世界の裏側に首突っ込んでた〜  作者: 月森 かれん
第1部配下生活編 第1章 

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食料調達をする②

 「うおおおッ‼」


 「モ゛ォォッ⁉」


 俺は突撃バッファローと対峙していた。この辺りを住処としていて、単体でいることが多いので練習にはうってつけのモンスターだ。

 肉捌きに10回以上チャレンジしているが、

いまだ成功はしていない。


 「ハッ‼」


 数回攻撃を加えた後、突撃バッファローの足元を

すくった。


 「モ゛⁉」


 よろけて体勢を崩した上から剣を振り上げる。

 

 (今だ‼)


 「あっ」


 しかし剣が空振った。突撃バッファローの体は地面に着いた直後、紫のモヤになって消える。


 「今の惜しかったなー、モトユウちゃんー」


 近くの岩に腰掛けているデュークさんが声をかけてくる。

アドバイスするために俺の行動を観察していてくれているのだ。


 「はい……」


 「ヒハハッ、そう落ち込むなよ。

あと3回以内には獲れるんじゃねーの?

 ホレ、次来てるぜ?」


 デュークさんが指さした方を見ると、すごい速さで

突撃バッファローが向かってきていた。

今の戦いを見て激昂したのかもしれない。


 「モ゛オオォ‼」


 「え、ちょッ⁉」


 かろうじて突進を避ける。まだ興奮気味で鼻息が荒い。


 「ブモ゛オォ‼」


 「俺まだ何もしてないけど……」


 「さっきのモトユウちゃんの勇姿みて

コーフンしたんじゃねー?」


 (そんな事で⁉)


 突撃バッファローは少しでも刺激を与えると興奮する。

そしてなりふり構わず突進を繰り返すのだ。

 こちらは避けるだけでいいのでダメージはないが、

動き回られると照準を合わせられない。


 (動きを止めないと話にならないな)


 「モ゛ォォ‼」


 「おわっ⁉」


 2回目の突進を避ける。まだまだ攻撃は続きそうだ。


 (なら、こっちからもやるか!)


 「おりゃあぁ‼」


 俺はジャンプして剣を振り上げる。

突進バッファローは意外と賢く、頭に生えている鋭いツノを

突き出してきた。刺されたら確実に穴が空く。


 (そう来るか⁉なら……)


 俺は攻撃をすると見せかけて突撃バッファローの目の前に着地した。その勢いで足元をすくう。


 「モ゛⁉」


 「今度こそ!」


 (地面につく前に、捌く!)

 

そのまま肉体を切り裂く。突撃バッファローは地面につくと同時に消えてしまったが、俺の左手には肉塊があった。


 「やった!」


 手のひらに収まるサイズだが、獲れると嬉しい。

順調にいけば日が落ちるまでにそれなりの量を

集められそうだ。


 (オネットとテナシテさんの分と……。

あ、魔王にも持っていってみるか)


 怖いのは確かだが、今の俺の状態は魔王のおかげでもあるはずだからだ。

 幹部達はもちろん手下のモンスターからも攻撃されないのは、俺の知らないところで、いろいろ手を回してくれているからだろう。


 「おー、やるじゃ~ん!さすが俺を斬っただけはある」


 俺の左手を見たデュークさんが歓声を上げる。


 「ハハ、どうも……」


 (成り下がる前の話はしてほしくないんだけどな)


 申し訳なさと仲間の事を思い出してしまうからだ。

 今の生活は心地いいが、このまま魔族達と過ごしたいわけではない。

 サイテーな考えだが、俺だけ逃げた罪悪感と仲間から責められるのが嫌だから魔族の配下に成り下がっただけだ。

 デュークさんが不意に呟く。


 「これなら森行っても大丈夫そうだな~」


 「森、ですか?」


 この辺りなら迷幽の森のことだろう。

 複雑な造りでモンスターも強いらしいが、ほとんどの冒険者は魔王城しか目に入っていないためスルーされる場所だ。

 俺も名前しか知らない。

 

 「おう。森にはな、キングベアがいるのよ。

アパちゃんがソイツの肉好物でなー。ウマいらしいぜ。

 俺は食えればなんでもいいからあまり行かないけど」


 (アパリシアさんに持って行けって事か?)


 名前が出てくるとは思っていなかった。

好物らしいし親睦を深めろという意味だろうか。


 「そのキングベアの肉、獲ったらアパリシアさんに

渡すんですか?」

  

 「いや?ソイツの肉を安定して獲れるになれば、

調達に関しては問題なくなるからさ。

 アパちゃんの情報はついで。ヘンに誤解させたなら悪かったな〜」


 「はぁ……」


 (ついでって、わざわざ教えてくれたのか……)


 「別に強制じゃないし、この辺で狩りたいなら、

それでいいぜー」

 

 (キングベアか。強そうだけど森にも行ったことないし、

悪くないかもしれないな)


 「じゃあ、突撃バッファローの肉を安定して獲れるようになったら、森に連れて行ってください」


 「リョーカイー」


 相変わらずデュークさんは俺に世話を焼いてくれていた。

下心なんて無いとは思うが、やっぱり心の片隅で何かを企んでいるのではないかと疑ってしまう。


 (でもさっきの忠告……脅しは本気だった)


 俺の本心を見抜いているのかもしれない。洞察力が鋭いし充分あり得る。


 「じゃあ俺は寝転んどくから、モトユウちゃんが準備できたら起こして〜」


 「は、はい……」

 

 (寝転ぶ⁉それぐらいは信用されてるって

捉えていいよな……)


 部屋を出る前に感じた胸騒ぎがまだある。

 あくびをしているデュークさんを横目で見ながら、

俺は剣を構えた。

③に続きます

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