食料調達をする①
「つーワケで俺からは以上!
またなー、モトユ――」
「ち、ちょっと待ってください!」
慌ててデュークさんを引き止める。頼みたい事があったからだ。
呼び止められると思ってなかったようで、
デュークさんは瞬きを繰り返している。
「………オウ?」
「俺に肉のとり方を教えてください!」
デュークさんに深く頭を下げる。
なぜこんな事を頼んだかというと、自分でも食料を確保できるようになっておきたかったからだ。
相変わらず空腹を感じることはないが、いつ感じるようになるかわからない。
それに、魔族と一緒にいるようになって――特にオネットやテナシテさんと会ってから考えが変わってきた。魔族でもお腹は空くだろう。特にテナシテさんは外に出られないみたいなので、せめて食べる物だけでも届けたいと思ったからだ。
頭を上げずにいると深いため息が聞こえてくる。
「あのさー、モトユウちゃん、
そんな真剣に頼まなくても教えてやるぜ?」
「でも……」
「いきなりどうしたよ〜?
モトユウちゃんの方からなんて珍しいじゃん」
デュークさんがニヤニヤしながら近づいてきた。
確かに俺の方から頼み事をするのは少ない。
「俺、ここに来てからなんだかんだ言って良くしてもらってますし、お礼をしたいなと」
「ほ〜。モトユウちゃんやっぱオモシレ〜」
「え、何でですか?」
「何でって自分以外のヤツの為に何かしようなんて
思わねーもん」
(そ、そうなのか?)
首を傾げる。デュークさんの言ってることは間違いないだろうが、オネットは自分なりにへネラルさん達を応援していた。それにデュークさんだってそうだ。相変わらずの気遣いで俺の事を気にしてくれている。教育係だと言われればそれまでだが。
「前、デュークさんに取ってもらったことありましたけど、どうやったんですか?
だってモンスターってすぐに消滅するじゃないですか」
「あ〜、アレはな、倒して地面につく直前に捌けば
肉取れるぜ〜」
「マジですか⁉」
「マジですよ〜。ヒハハッ。
だったら俺も肉取れてねえって〜」
デュークさんの言うことはもっともで、そうでなければアパリシアさんのパシりはクリアできなかっただろう。
(でも、俺にできるのか?)
ここに来てから体は動かしているので体力面は大丈夫そうだが、剣さばきは自信がない。
手入れはしているものの、振ってはいないからだ。
「モトユウちゃん、いま不安だろ〜?」
「う……」
「だって顔に出てるもん。わかりやす〜い」
「ハハハ……」
苦笑しかできなかった。
顔に出やすいというのは悪い事ではないのだが、
意図を読むのが得意な相手にとっては良いエサだ。
「さてじゃあ行きますか!あ、そこの剣持ってきなよ〜」
壁に立てかけてある俺の剣を指差すとデュークさんは部屋を出ていった。
「今まで1度も言われなかったけど気づいてたのか」
没収しようと思えばいつでもできるから触れなかったのだろうか。
(剣を持つの久しぶりだからな。
空振らないようにしないと)
腰に剣の重みを感じながらデュークさんについていくと城の外に出た。
ここに来るのは前にアパリシアさんの「サンドバッグ」で2回。今回で3回目だ。
(モンスターは野生だから気をつけないと)
意気込んでいると声をかけられる。
「んで、何の肉獲るの〜?」
「あ……」
(考えてなかった!)
この前はエンシェントオークだったが、周りにそれしか居なかったからだ。
魔王城周辺にモンスターが1種類しか居ないのは、
いくらなんでもありえないだろう。
(オーク以外に何がいたっけ)
記憶をたぐり寄せてみるが思い出せない。
だが、肉の獲れそうなモンスターはいたと思う。
(あの時は進むのに必死だったからな……)
「あ、マッドネスウルフがいるー」
「え?いでッ⁉」
デュークさんの声につられて上げた頭を堅いモノにぶつけた。状況がのみこめず固まる。
頭上にゲンコツが作られていたのだ。
「ヒハハハハッ!引っかかった〜」
「は……?」
(え、ウソ?)
「そんな真剣に考えなくてもさ〜、
だいたいのヤツは食えるから、狩れるモン狩ろうぜー」
「は、はぁ……」
気楽に考えろという事なのだろう。それにしてもやっぱり引っかかる。
また目の前で考え込んでいたのに語尾が伸びているからだ。
(たまたま忘れてるだけだよな?)
「つーかモトユウちゃ~ん、ここ来る前からボーッとしてるコト多いけど、どっか調子悪い?」
「いや、大丈夫です……」
「そーお?ヤバそうだったらすぐ言えよ〜?」
「はい……」
「じゃ、ウロつこうぜー。この辺はモンスターの種類多いからな。さっきのはウソだったけど、
マッドネスウルフは本当にいる」
デュークさんは機嫌が良いようで、いつかのように少し跳ねながら歩いている。
(なんか胸騒ぎがする……)
俺はモヤモヤしたまま後を追った。




