ナイト達の趣味を知る
「う、腕と足が……」
俺はゆっくり四肢を動かして体勢を崩した。ずっと同じ姿勢だったため体が固まったのだ。
周りを見るとへネラルさんたちも一息ついているところだった。関節を伸ばしていてそこからボキボキと音がしている。
(魔族でも疲れるんだな。それにしても、誰も全く警戒してない……)
俺の側には新品同様の武器が並べられている。
つまり、反抗しようと思ったらできる状態だ。
(反抗なんてするつもりもないけど。それにへネラルさん達を倒しても、魔王からボコられるのは目に見えてるし。
そもそも俺に武器磨きを頼んだ時点で……)
手が足りないからと言われればそうなのだろうが、
わざわざ俺に頼んだ理由がわからない。
(暗黒ナイトだってたくさんいるだろうし、俺よりも
武器磨きに慣れてるヤツなんていそうなんだけどな)
そう考えていると暗黒ナイトの1体が俺の正面に立った。腕を組んで俺を見下ろしている。
(ヤベ、武器見てたから怪しまれたか?)
「…………オマエ、ヤルナ」
「へ?ど、どーも……」
驚きながら軽く頭を下げると暗黒ナイトは敬礼して仲間のところに戻る。
(認めてくれたのか?それに意外と話し通じるんだな……)
カタコトではあるが話せるし、ある程度の言葉も理解しているようだ。
「み、みなさん、お疲れさ――キャーー⁉」
聞いたことのある声がした。様子を伺っているとドアの陰から顔を真っ赤にしたオネットが顔を覗かせる。
「オ、オネット⁉」
「モ、モトユウさん……なんでいるんですか?」
「え、なんか成り行きで……」
まさか叫ばれるとは思わなかったので軽くショックだ。
オネットの服装は部屋で会った時とは違い、黒い下地に白いフリルがついている。俗に言うメイド服だ。
(魔族にも浸透してるのか?)
「そ、その服装は?」
「え、えっと……よければ着てくれって言われて……」
オネットは顔を赤くしたままへネラルさんを指差した。彼は照れくさそうに頭を掻いている。
「あんたの趣味かっ⁉」
思わず叫ぶとへネラルさんは籠手に覆われた親指を
立てた。
「褒めてないです!」
「て、でも私、この服気に入っているんですよ」
「え……誰かに貰ったの?」
「じ、自作です」
オネットが指を突き合いながら答える。
「自作⁉」
(クオリティ高ぇ⁉店出せるレベルだぞ⁉)
「ぬ、縫い物得意なんです……」
テナシテさんと同じような感じでほとんど外に出ないので、自然と上達したのだろう。
(そういえば、ぬいぐるみも手作りっぽかったな。
丹精込めて作ったって言ってたし。ぬいぐるみも服も素材はわかんないけど)
「でもムリして着なくても……」
「わ、私はへネラルさんたちが定期的に武器を磨いていることを知っているので……ときどきこうやって来ているのですが……」
そう言いながら暗黒ナイト達を見る。彼等は腕を振り上げており、明らかに喜んでいる。メイドパワーは効果バツグンのようだ。
「ガーーーッ!!」
「イーーーー!!」
(嬉しいとかあるのか……。コイツら鉄仮面だから表情が見えないけど)
「モエーーー!!」
「モエェーーーー!!」
(どこで覚えたんだよ……)
いろいろ気になることはあるが、まさか「萌え」を知っていると思わなかった。侮れない。
「みなさんがこうやって元気になってくれるので、
は、恥ずかしいけど着ようかなって……」
「そうなんだ……」
(オネットなりに応援してるのか……)
それにしてもへネラルさんのイメージが一気に崩れた。ギャップがすごい。
(アレか。幹部の役割上クールでなくちゃいけなくて、コッチの方に走ったか?)
デュークさんとアパリシアさんが突っ走るタイプのようなので、そうなってしまったのなら、ある意味被害者だ。
(でもなんかホッコリするな)
目を当てられないような事ばかりやらされるのではないかと思っていたので、初日の廊下掃除といい、想像と全く違ってびっくりしている。疲れるのは確かだが拷問とかよりは断然いい。
「じ、じゃあみなさん頑張ってくださいね!」
そう言うとオネットは帰っていった。てっきり飲み物でも持ってくるかと思っていたが激励しに来ただけのようだ。
「イーーーー!!」
「ウェーーー!!」
「モエーーーー!!」
それでもメイドパワーのおかげで暗黒ナイト達のやる気は高まっている。
いつの間にかへネラルさんが入口に立って俺達に向かってテマネキしていた。
(なんだ?)
ぞろぞろと移動する暗黒ナイト達に続く。
すぐ隣の部屋だったが、中にはさっきと同じような武器の山。
俺が入ったのを確認するとへネラルさんは拳を突き上げた。それにつられるように暗黒ナイト達も拳を上げる。
「イーーッ!!」
「ガーー!!」
「モエーーー!!」
(メイドパワーが抜けてないヤツがいるのは置いといて……まだあるのかよッ⁉)
終わるのは夜になりそうだ。




