どうにかパシリを終える
「さて、どうするか」
俺は荒れ地を歩きながら頭を悩ませていた。
肉を取ってくると言ったはいいのものの、武器を持ってないからだ。
「石でも拾おう」
素手よりはマシだと思う。それに遠くからでも攻撃できるし持っていても損はない。
地面を見るとそこそこ石が転がっていた。
適当な大きさの石ころを拾いながら、さらに歩みを進める。
「ん?あれは……」
全身真っ黒なオークがいた。
前にデュークさんが言っていたエインシャントオークだろうか。俺に気づくと奇声を上げながら襲いかかってくる。
早速手に持っている石を投げつけた。
「くらえッ!」
オークの体に当たっても石が跳ね返っている。この辺りのモンスターは魔王城周辺ということもあって頑丈みたいだ。
(硬いな)
「オオオオ!」
「ていやッ!」
迫ってくるオークの攻撃を避けて蹴りを入れたが、
もともと力が強くないためダメージがみられない。俺の脚がジンジンと痛んでいるだけだ。
「やっぱ石と蹴りじゃダメか。格闘家でもないし」
「グオオオオ‼」
背後から雄叫びが聞こえる。慌てて振り向くとオークが腕を振り上げていた。もう1匹、俺の背後に近づいていたようだ。
「ヤベ……」
せめてもの防御で顔を腕で覆った。
しかし覆う直前、1筋の光が見えたかと思うと、うめき声を上げながら目の前のオークが倒れた。戸惑っていると再び一閃が走り、最初に襲いかかって来たオークも倒れる。
(え?)
「誰かと思えばモトユウちゃんじゃない〜。
なに?マーさんに駆除でも頼まれた?」
聞き慣れた声と共に赤い大剣を肩に担いだデュークさんが近づいてくる。
「デュークさん⁉いえ、個人的にです……」
「あ、そう。にしても武器無しで挑むフツー?」
「いろいろ事情がありまして……」
今までの経緯を話すとデュークさんはしばらく腹を抱えて笑っていた。ようやく落ち着いたあと口を開く。
「は〜、アパちゃんのパシリね〜。別に断っても良かったのに。お人好しだねえ、モトユウちゃん〜」
「はぁ………どうも……。
それで、デュークさんは何を?」
「俺〜?俺は見回ってたの」
そう言いながら持っている剣を軽く揺らした。
「今、エインシャントオーク倒したけどさ、
アレ野生なのよねー。城の内に入って来られちゃ困るから駆除してんの」
(やっぱエインシャントオークだったのか。
って野生なのか⁉)
「そうなんですか⁉てっきり魔王……さんが操ってるのかと」
「そうなんですよー。
マーさんの分は別に居る。本当にマーさんの言う事しか聞かないヤツらがな」
「え?」
(魔王専用のモンスターがいるってことだよな)
固まっているとデュークさんがニヤリと口角を上げる。
「さぁて、一肌脱ぎますか!
手伝ってやるぜ、モトユウちゃん!」
「あ、ありが――」
そこまで言いかけた俺は口を閉じて、顔を少し下げる。
(いや、ちょっと待て
お礼に何か要求してくるかもしれねぇ)
いつものように顔を覗き込んでこようとするデュークさんを避けると俺は顔を上げた。
「ン?何かご不満?」
「不満ではないんですけど……お礼に何したら良いですか?」
「え〜、何でわかったんだよ〜。
つまんな~い」
ふてくされるデュークさんを見ると何か要求する気だったようだ。
(でも俺にとって難しい事を要求されても困るから、フロでも持ちかけてみるか。だいぶ慣れたし……)
「フ、フロなら良いですよ……」
「マジで⁉よっし、約束だからな!モトユウちゃん!」
デュークさんは左手でガッツポーズをつくると、
すぐに姿を消した。
(速ぇ……。そんなにフロ好きなのか……)
遠くで何かの奇声と土埃が上がる。デュークさんの仕業だろうそれ以外だったら逆に怖い。
「申し訳ない気もするけど、このまま任せとこう。
俺が行っても役に立たないし」
脚の痛みがとれない内にデュークさんが帰って来た。
手にはどこから調達したのか、ロープで括った肉を
持っている。
「はい、いっちょ上がり〜。こんぐらいありゃアパちゃんも満足するだろー」
「ありがとうございます!」
「ヒハハハッ!約束忘れんなよ〜、モトユウちゃん!」
デュークさんと別れてアパリシアさんの元へ戻る。
地面に座っていたが俺を見ると立ち上がった。
「お、意外と早かったな!」
「思わぬお手伝いさんと会ったので」
「へー、そうか」
アパリシアさんは明らかにテキトーな相槌を打つと俺から肉を奪い取った。
「わーい、肉だー‼」
子どものように喜ぶアパリシアさんを見ていると取ってきて悪くはなかったと思う。
火魔法を使ったようで、すぐに肉の香ばしい匂いが漂ってきた。思わずアパリシアさんを見ると、豪快に肉にかぶりついている。それを飲み込んだ後、俺を不思議そうに見てから、肉を放り投げてきた。慌ててキャッチする。
「腹減ってんのか?1つやるよ。取ってきてくれたしな」
「あ、ありがとうございます……」
(デュークさんといいアパリシアさんといい、思ったより魔族ってマトモだな)
ハッキリ敵だと意識していないからかもしれないが今の所良い人ばかりだ。
俺も肉にかぶりついた。しっかりと中まで火が通してあり、食欲をそそる。
(意外と美味いな。ちょっと固いけど)
やっぱり空腹感はなかったが、いつ感じるともわからないので、そのまま完食した。
アパリシアさんも問題なく平らげた。そこそこ量があった筈だが、大食いのようだ。満足そうに口を開く。
「は〜、うまかった~!
そーいやお手伝いさんって誰だったんだ?」
「デュークさんです」
「ゲ⁉アイツ近くに居るのか⁉」
アパリシアさんの顔に焦りが出る。相性が悪いらしい。
「でもどこかに行きました。もうこの辺りには居ないと思いますよ」
「うー、アタシ、アイツ苦手なんだよ。
ノリ軽いし、本心は読めねぇし、何かムカつくし」
(最後のムカつくは余計じゃね?)
「あ、でもデュークさん、前に言葉は全部本心だって
言ってて――」
「ハ⁉そんなこと言ったのか?信用できねー!」
(相当苦手なんだな……)
本心が読めないというのはわからなくもないが、デュークさんが少し可哀想になってきた。
よほど性格が悪くない限り、嘘で言ってることが全部本心なんて言わないと思う。
「さって、戻るか!じゃーな、げ、下僕!」
アパリシアさんはそう言うと何かの呪文を唱えて姿を消した。ワープ魔法だろう。
「っていうか名前教えたのに下僕呼びかよ……」




