番外編1 ???視点 『指輪と録音機』
どうも、keiから神名剣斗へと著者名を変えました。
今回は番外編です。お楽しみください。
7月10日(土)
今日、秋人が死んだ。午後のホームルームで先生から知らされたその内容は衝撃的なもので、屋上にある柵が老朽化で崩れてしまったらしい。そこに寄りかかっていた秋人もそのまま頭から落ちて即死…
話を聞いた直後、しばらく放心状態になった。今も、本当に死んだのか疑っているくらいだ。
それ程、秋人の死は信じられないものだった。秋人は基本マイナス思考しかしないけど、自殺なんていう馬鹿な真似はしない。
…理由は単純、僕たちが悲しむから。一回自殺しようとしたこともあったらしいけれど、今まで親しくしてくれた人たちを悲しませないために辞めたらしい。
本題に戻そう。今回秋人が死んだのは事故である…と先生は言っていたが、原因はおそらく違う。…秋人は高いところが苦手だから、自分から屋上に行くことなんてない。
多分だけど、秋人はいじめられてたから、いじめの中で主犯格の人に殴られた時、その衝撃で落ちちゃったんじゃないかと思う。
…先生が嘘をついたのは、職をなくすのが嫌だからかな?秋人から聞いた話だと、いじめの主犯格って、理事長の息子らしいし…
…今更だけど、秋人がいじめられていた理由が本当にわからないな…普通にスペックいい方だと思うけど。
そんなことを今考えても無駄、かな…
いじめてた人は、教室内で高らかに笑ってたし…
7月11日(日)
今日は、担任の先生に遺品の整理を頼まれて、幼馴染皆んなで秋人の家へと行った。
普通、こういうのはご両親がやるものだと思っていたけど…どうやら、ご両親がそれを拒否したらしい。
秋人もご両親が嫌いだから家を離れて一人暮らしを始めたって言ってたし、家庭内でも酷い扱いを受けていたのかな…?
…今となっては、知ることができない。
そんなことを思い出しながら歩いていると、いつのまにか秋人の家の前へとたどり着いた。
秋人の家に行く時はいつも気分が良い夏葉はずっと静かだった。いつもはそれを心配する春音でさえも——
——秋人の部屋には、物がほとんどなかった。あるのは、鍵をかけれる机と、必要最低限の家具くらい。娯楽のための物などなかった。
…何度か来ているはずなのに、なぜか寂しく感じてしまう。理由は分かりきっている。だけど、その現実を真正面から叩きつけられた気がした。
今までのことを思い出しつつ、しばらく立ち尽くしていると、無理に笑顔を貼り付けたような顔で夏葉が視界の隅に入った。
「冬弥。そろそろ始めないと、今日中に作業終わらないよ?」
「あ、うん。そう…だね。早く進めようか」
春音は先ほどから一言も声を出していない。ショックだったのではなく、いじめで死まで追い込んだ人に怒っているのだろう。
普段はあまり怒らないで優しい人だけど、怒った時の怖さは4人の中でもトップクラス。昔、春音が保存していた高級プリンを夏葉が勝手に食べた時は本当に怖かった…声もいつもの調子じゃなかったし…
…あの時、僕たち3人で春音を絶対に怒らせないという約束をしたな…
いまの春音には、あの時と同じ雰囲気を感じる。感傷に浸っていて気づいていなかったけど、これはだいぶまずい…
「は、春音…?一回落ち着こう?今はこの部屋を片付けよう?ね?」
夏葉がなんとか春音の怒りを鎮めようとする。だけど…
「…友達が殺されたのに、黙ってみていられると思う?少なくともあいつには人生が壊れるような経験をして欲しいくらいだわ」
…まずい、ガチギレモードだ。こうなったらしばらくは止められない。最悪4時間コースかも…?
「だいたい、なんで2人はそんなに落ち着いてるの?10年間以上一緒にいた友達が死んだんだよ?しかも殺されて」
…落ち着いているように見せているだけだ。内心では動揺の気持ちしかない。
「…秋君が死んで、私が悲しまないとでも思ってるの?」
夏葉の少し怒ったような声が聞こえる。まずい、このままだとこの2人の間で喧嘩が勃発する…!
「落ち着いてって2人とも!こんなので喧嘩したって意味ないんだから!」
「う、そうね…」
「っ!そうだったね…ごめん…」
みんなが落ち着いたところで、秋人の部屋の片付けを始める。
冷蔵庫の中にはなにもないし、片付けるべきところは机の中と本棚のみ。本棚はそこまで大きくなく、学校で使う教科書がしまわれている。
机の中の確認をしようとしたけど、4つの引き出しのうち、2つに鍵がかかってしまっている。
中には連絡用に使っていたガラケーと、予備の文房具。鍵がなければ、残り2つの引き出しの中は確認できない。
ここでお終いにするしかないかな…
「あれ?なんか、ガラケーが入ってた引き出し、厚底になってない?見た目の高さに対して、中身の深さがない気が…」
「え?」
厚底?秋人もそんなことして隠したいものなんてあるのか…?
「あ!鍵だ!これ、引き出しの鍵じゃない!?」
そんなにこの引き出しの中見せたくなかったんだ…重要なものが入ってるのかな…?
…秋人にとってみられたくないものなんだろうけど、ものすごく気になる…
「中身は——日記と…こっちには、3つの箱…」
「いや、夏葉!?確認するのが早すぎるよ!」
「遺品整理なんだし、ここら辺も片付けないとでしょ?それに、もう秋君は文句も言えないし」
「夏葉…秋人にこっぴどく言われたことの仕返し?」
「なんのこと?もう恨んでも仕方ないんだし、恨んでなんかないよ?」
……絶対に恨んでるでしょ……
「先に……この小さい3つの箱を確認しよう?ちょうど一つずつだし」
「関係あるの?それ。まぁ、私は全然いいけど」
「僕も別にいいけど……」
「じゃあ決まり!春音はこっち、冬弥はこっちね!」
そう言って、夏葉は僕に3つの箱のうちの1つを渡してきた。
箱は小さめで、手のひらにギリギリ乗るくらい。高さは…多分、5センチくらいかな?
箱が結構高そうだけど、お金のない秋人がどうやってこれを買ったのだろう…?いつもギリギリだって言ってたけど…?
「じゃあ、せーので開けよう?」
「「「せーの!」」」
夏葉の提案で、僕たちは一斉に箱を開ける。中に入っていたのは…かなり高そうな、指輪だった。
「え?これ、どうやって…!?というか、なんでこんなものが…?」
春音が驚愕の声を漏らす。値段などは書いていないけど、これ一個で5万手前くらいはかかりそう…
「ねぇ、これ…内側にHappy Birth Dayって書いてあるわよ?私たちに誕生日プレゼントとして渡す予定だったの…?」
「本当だ…僕が開けたものもそう書いてある…」
「あれ?私が開けたものだけILYって書いてあるよ…?それに、どれが誰のものなんだろう…?」
「ILY…?何かの略語かな…?」
「どれが誰かのものっていうのはわからないけれど…上にハマってる小さな宝石の色が違うから、それで判別できるんじゃない?」
色?確かに、全部違う…僕の物が紫色で、春音の物が緑色、夏葉の物が赤色…けど、これらは何を表してるんだろう…?
「…まさか、誕生石?」
「…確かに、それならHappy Birth Dayも納得がいく…」
「私のILYだけ納得がいかないんだけど!?」
「他の2つが誰のものかを判別できれば、必然的にそれが誰のものかもわかるよ」
「そうだけどさ…」
「えーっと…紫色がアメジストだから、冬弥の誕生日である2月、緑色が翡翠で、私の誕生日の5月…最後に、赤色がルビーで、夏葉の誕生日の7月。だったかしら…?」
「全部覚えてるんだ…すごいな」
「一回興味を持った時に全部覚えたの。役に立ってよかった…」
「じゃあ、このILYって書いてあるの私の…?私だけなんでまともに誕生日を祝ってもらえてないの…?」
「秋人なりの思惑があるんじゃないかな?意味のないことをする人じゃないし…」
「それもそうだけど…はぁ…」
「じゃあ、次はこっちの日記を見てみましょう?というか、何か挟まって…?」
春音が秋人の日記を開いた瞬間、挟まれていた何かが落ちてきた。四角い箱…?いや——録音機だ!
「録音機!?何を録音していたんだろう…?」
「先に、日記を読んでみよう。何か手がかりが書いてあるかもしれない」
——日記の内容は、大抵が愚痴や日常のことが書かれていた。中1の頃から日記をつけていたらしく、かなりの量だ。
その中でも最近の日記に、指輪と、録音機についての話があった。
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6月2日
幼馴染全員への誕生日プレゼントとして、全員分の指輪を買うことにした。もちろん、自分の分も。
指輪につける宝石は、それぞれの誕生石。それぞれ、翡翠、ルビー、シトリン、アメジストの4つだ。
金銭の都合上、あまり高いものは買えないが…喜んでくれると嬉しいな…
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6月27日
いい加減、いじめられているのが嫌になってきた。自殺をする気はもう一切ないが、それでも現実逃避くらいはしたい。
…そうだ、録音機でいじめの様子でも録音して、大学入試直前であいつが受験する大学に送りつけてやろう。そうすればあいつの人生は崩壊。少しは気が晴れるだろう。
そうと決まれば、早速録音機を買いに行こう。貯金が残っているし、それを切り崩すか…足りるかな?
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「…秋人もいいこと考えるわね…これであいつに仕返しできるわ」
「そうだね、あの理事長の息子だけは許しちゃいけない。私たちの幼馴染を奪った報いを受けさせる…!」
「僕もそれをしたいところではあるけど、あまり無茶はしないようにやろうね。僕らが退学になったら、それはそれで秋人も嫌だろうし…」
「というか、一つ疑問なのだけれど…四つめの指輪はどこへ行ったの?」
…確かに、日記には、4つ目の指輪のことが書かれていた。なんで、一個だけ足りないんだ…?
「…考えてもわからないんだし、今はいいんじゃない?それより、この指輪をどうするか決めようよ!」
「そうね。うちの学校、装飾品の類は禁止だものね…」
「そこまで大きくはないし、指につけずに財布とかスマホのカバーとかに入れておくというのはダメかな?」
「いいね!私は財布に入れて置こっと!」
「私も財布かな。スマホだと邪魔になってしまいそう」
「じゃあ、それで決まりで。これは僕たちが秋人を忘れないためのもの。絶対に無くさないでね?」
「「もちろん」!」
そうして、僕たちはまたいつも通りの日常へと戻っていった…
いかがだったでしょうか。主人公の前世の友人の視点でございます。
相変わらず投稿に一ヶ月かかる小説ですが、これからも宜しくお願いします。
2024年4月19日
冬弥の性格と主人公の死因の変更により、文章を全て書き直しました。さらに、前回の二倍ほどの長さになっています。執筆した時間も会って、すごい眠い…