109話 グレイとリボン
四人が先に帰った後、そこにはグレイとリボンの2人が残った。もう戦う理由がなく、グレイもぐるぐる巻きにされているので安全なはずなのだが、二人の間には何とも言えない緊張感があった。
その理由は、リボンがグレイを警戒しているからではない。グレイがリボンを警戒しているからだ。
「なんで、先にみんなを行かせたんだい?」
「グレイさんを回復させるためですよ。こんなボロボロですし」
「嘘だ。君ならすぐにけがを治せるはずだ」
戦いの最中、リボンが一度だけ仲間を回復させた時があった。それは、グレイから距離をとった一瞬の間のことであり、グレイはそれを覚えていたのだ。なのでグレイにとって今の状況は違和感しかない。
「さすがにこんなにボロボロだと時間もかかりますよ」
「それでも先に帰ってもらうほどではないだろう。何を企んでいるんだい?」
しらを切るリボンにグレイは追求すると、リボンは深くため息をついた。
そして、グレイの胸に手を当て、
「わかりました。ちゃんと直しますよ」
そう言って、みるみるとグレイの傷を治していく。ルイのときやシオリの時と比べたら大分遅いが、それでも一般の回復魔導士と比べたら桁違いだ。
しばらくして、グレイの傷が完璧に治り、動けるぐらいまで回復した。
「すごいな、君の魔法は」
「でしょ?」
魔王幹部に褒められ、リボンは嬉しそうにどや顔をする。
「それより、二人きりになった理由をまだ聞いてない」
「教えますよ。もう準備も整いましたし」
「準備?」
グレイの考えている顔を見て、リボンはふふっと笑い、
「これから私の言うことを聞いてください」
と言い始めたのだ。これにはグレイも頭にはてなマークを浮かべている。
「…何を言っているんだ?」
「言葉通りですよ」
「はは、そんなこと聞くわけがないだろう。生かしてもらえる代わりに魔王軍の情報提供をするで取引が完了したはずだ。第一…」
グレイは、魔力を放出させリボンを脅しながら言葉を続けた。
「一番弱い君がどうやって僕に言うことを聞かせるんだい?」
一瞬で殺されても仕方ないこの状況。ルイやフレイ、ましてや勇者でも足がすくんでしまうだろう。しかし、リボンは一つもおびえることはなかった。むしろ、笑っていたのだ。
「何を笑っている?」
グレイは笑っているリボンを見て余計にイラついてくる。魔王幹部として、こんな小さい女に馬鹿にされているのはメンツが持たない。
さらにビビらせてやろうとリボンの胸倉をつかもうとしたその時だった。
「ぐっ……!?」
グレイが胸に手を抑え、膝をついたのだ。
グレイは、何事かと思いリボンを見上げる。
「何をした?」
「ハートロックです」
「ハートロック…まさか!!」
グレイははるか昔、その魔法について噂で聞いたことがあった。回復させた相手のハート、いわゆる心臓を自由に扱うことができるチート級の魔法。その時は所詮噂だと思っていたのだが、今その魔法を身をもって感じている。
「いうこと聞いてくれますか?」
グレイはリボンに見下されながらもう一度聞かれる。
完全に上をとられている状況で、グレイは一瞬で殺してしまえば逃れられるのではないかと考えたのだが、それをわかっていたかのように、
「ちなみに、リボンを殺したらゆっくりと心臓をつぶすように設定してるので」
これで、完全にグレイのやれることはなくなってしまった。
「最後です。いうこと聞いてくれますね?」
「はい…」
三回目のお願い。いや、これはほぼ命令だった。グレイはこの命令にただうなずくことしかできなかった。
上下関係がはっきり決まってしまった今、グレイはようやく気付いた。リボンに回復してもらったときに、なぜ女性恐怖症なのに体が反応しなかったのか。そして自分から胸倉をつかもうと思えたのか。
ハートロックをされた時点でグレイにとってリボンは、女性の枠組みを飛びぬけていたのだ。
「悪魔だ…」
「小悪魔って言ってくださいよ」
悪魔という言葉にリボンはほっぺを膨らませてかわいらしく怒る。
グレイにとってはその顔も恐ろしい悪魔にしか見えていない。
「リボンはルイさんのためにも強くならないとなんです」
「ルイ君のためか。まさかだが、ルイ君にも…」
「もちろんかけてますよ。ハートロック!それもグレイさんとは全く違った愛のこもったハートロックです!浮気は許しませんから」
「へ、へぇ。二人は付き合ってるんだ。お似合いだと思うよ…」
「いえ、付き合ってません。これから付き合う予定ですが」
「へ?」
恋愛経験のないグレイだが、これだけはおかしいと断言できた。わけのわからないことを言っているリボンに動揺を隠せない。
「リボンを好きになってもらうためにハートを奪うんです」
「なかなか物理的だね…いいと思うよ」
「でしょ!」
その恋する乙女の笑顔を見てグレイは思った。
もしかしたら自分よりルイの方がかわいそうなんじゃないかと。




