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色彩ーremakeー  作者: 蒼依ゆき
過雨編
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72.壊色②

 なんで、こんなことになってしまったのだろう。頭の片隅で小さく痛みを感じた。


 今日は厄日なのではないかと思うほどに、いいことがない。いや、佐竹に会って以降と言った方が正しいだろうか。



「今の、どういう意味よ」



 目の前には虚を突かれたように目を瞬かせた後、姉は言葉の意味を理解して眉を釣りあげる。そして、持っていた鞄を床に投げ捨てた。



「そのままの意味だよ」



 玄関に入ったばかりの俺は、未だに濡れた靴を履いたまま立っている。身体に張り付く濡れた服も、水浸しの靴も、俺の体温を徐々に奪っていった。それなのに、熱くなった脳内は、全く冷めることなく沸騰しているようだ。



「あ、あんたは悪くないって散々言ったでしょ!?」



 先程まで、濡れて帰ってきた俺を心配してくれていた姉は大きな声で怒鳴った。その表情はなんだか苦しそうにも見えて、その原因はやっぱり俺なのだ。



「全部俺が悪い、それの何が間違ってるって言うんだよ」


「根本的に間違ってるから言ってんのよ」


「俺が悪くなければ、一体誰が母さんと父さんを殺したっていうんだ! そんな簡単に人殺しを許すなよ!」



 溢れ出そうな何かをせき止める様に、俺の口は止まらない。


 こんな風に吐き出したかった訳じゃないのに。ずっと自分の中に留めておかなくちゃいけない言葉だったのに。



「……何してんの?」



 ガチャリと無遠慮に開かれた扉。俺と姉の他に帰ってくる人間がいなくなったにも関わらず、開いた扉の先には、困惑した表情で傘をさしている良樹の姿があった。



「別になんでもない」



 俺はもう1人になりたくて、良樹に目を配ることもせず靴を脱いで姉の横を通り過ぎる。



「待ちなさい、まだ話は終わって」



 しかし、姉が俺の腕を掴み、それを制止する。横目で姉を見れば、怒りと言うより哀しそうな表情をしていた。もう、そんな目で俺を見ないで欲しい。



「これ以上何を話すって言うんだよ。結果は分かり切ってるじゃん」


「何も分かってない。そうやって自分のことばかり責めて」


「お願いだから1人にしてよ、今日はもう疲れたんだ」



 掴まれた腕を振り払い、階段を上る。


 何も言わなかった良樹はどう思ったのだろうか。なんで毎度タイミングの悪いときに現れるのだろうか。


 しかし、彼なら姉のことをフォローしてくれるだろうから、逆に来てくれて良かったのかもしれない。そうでなければ、俺は自分を止められなかっただろうから。


 バタンと扉の閉まる音だけが廊下に響いて、俺は2人を振り返ることなく部屋の中へと入った。




  ◇  ◇  ◇




 どれだけ時間が経ったのだろうか。真っ暗な部屋には時計の音だけが鳴り響いている。ベッドの上に寝転んでも、全く睡魔が襲ってくることはなく、不思議と目は冴えていた。


 それでも、何かを考えるわけではなく、ただボーっと昔のことを思い出していただけだ。


 トントントン


 ノックの音が聞こえた。しかし、声を出す気力すらなく無言でいると部屋の扉は勝手に開かれた。廊下から通る光に目を細めると、部屋の電気が点いて部屋が明るくなる。



「入るぞ」


「駄目」


「お前の返事は関係ないんだよ」



 既に入った後だけど、という突っ込みは余計なのだろうな。

 

 無遠慮に足を踏み入れた良樹に、俺は仰向けから横向きへと体勢を変えて、彼に背を向けて布団にくるまる。



「そういう横暴なところどうにかした方がいいぞ」


「気が向いたらな」



 俺の文句はどこ吹く風、というようにドカッという振動を感じた。


 恐らくいつもの定位置へと腰を下ろしたのだろう。しかし、彼から何かを言うような様子はなく、ただ黙って座っているだけだ。



「……今日だけは1人にしてほしいんだけど」


「今日だけ? 本当か?」



 言っても無駄だろうなと思いつつ、要望を口にしたが呆気なく切り捨てられた。ズキズキと痛む頭に、鬱陶しさを感じ始める。



「俺は今、お前と言い争う元気なんてないんだから放っておいてくれよ」


「俺だって好き好んでお前と言い争う気なんてねぇよ、面倒な」



 あぁ言えば、こう言うとは今の状態だろう。であれば、もう黙るしかない。


 彼が何を考えて、何しにここへ来たのか、下で姉に事情を聞いたのか分からないが、本当に俺はこれ以上何も喋りたくはなかった。



「そうやって、お前はまた1人になろうとするんだな」



 しばらくの静寂の後、良樹は口を開く。その声は、いつになく淡々としていた。



「気持ちは分かる。俺だって自分の始末は自分で付けるタイプだし」



 だったら、放っておいてくれよと心の中で愚痴る。昔の良樹なら面倒ごとに首を突っ込むことなんて絶対しなかったではないか。



「だけどお前は1人でどうにか出来るほど容量よくねぇだろ。無鉄砲だし、なんだかんだ言って昔から俺に手伝わせてたしな」


「そんなことねぇし」


「喧嘩が弱いのに頭も弱い、その上頑固で臆病。お化けも未だに怖いとは恐れ入ったわ」


「喧嘩売ってんのかコラァ!」



 そして急な悪口に頭にきて、俺は思わず起き上がり良樹を睨みつける。しかし、淡々とした口調とは裏腹に、その表情は悔し気に歪んでいた。



「買うなら喧嘩ぐらいいつでも付き合ってやるけどな。いい加減こういう面倒なことに突き合せるな。なんで俺が、毎日お前の為に足しげく通わなきゃいけないんだよ」


「だったら早く出て行けよ」



 声が少し上ずる。言葉はトゲトゲしいのに、それに表情がともなっていないのだから仕方がない。


 具体的にどう説明したらいいか分からないが、とにかく優しい顔で悔しそうに眉間にシワを寄せているのだ。

 年齢や性別によって喧嘩には違いがありますよね。私が一番印象に残っているのは、中学生の時に殴り合いの喧嘩をしていた女子生徒たちですかね。


 女の子同士でも、あるんだなぁと眺めてました。その後どうなったかは知りません。




次回は10月30日22時更新予定です。

よろしくお願いします。


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