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色彩ーremakeー  作者: 蒼依ゆき
夏季編
32/79

30.  ②

 季節は冬くらい寒い秋。ここら辺は雪は降らないので雪を見ることは滅多にないが、桜島が真っ白になっている姿は見えた。これが雪化粧というやつなのだろう。まぁ、まだそこまで寒くはなってないから、アレは雪ではなく火山灰だろうけど。



「何得意げな顔してんだよ」


「いや、今年も桜島の雪化粧が綺麗だろうなって」



 窓から視線を外すと、人の家のソファーで寛いでテレビを見ている良樹の姿があった。彼は俺の話を聞くや否や、鼻で笑う。



「幻覚が見えるほど雪遊びしたいのか、小学生」


「お前だって数か月前まで小学生だっただろ!」



 かなりムカついた。やはり一発ガツンとキメてやらねばならないようだと思い、そのまま腕を組み、彼に向って近づく。



「はいはい、2人とも早く行かないと遅刻するわよ」



 台所の方から片付けを終えた母がテレビを消し、そのまま俺と良樹の頭を鷲掴みにする。母の目を見ると、有無を言わさぬ目力でこちらを見ていたため無言で頷く。それは良樹も同じだったようで、母から目を反らしていた。



「おはよう。あんた達、朝から元気ねー」



 上の階段から下りてきたのは姉で、その手には参考書が握られていた。姉は今年受験生であるせいか、毎日勉強が大変そうだ。正直あの参考書を見たとき、高校生になりたくないとすら思った。



「雪那さん、おはよ。受験勉強大変そうだね」



 いつの間にか母の手から逃げていた良樹は姉の元へと行く。逃げ足も速いやつだ。仕方がないので、姉と話している友人を横目に学校に行く準備をすることにした。


 ちなみに彼はちゃっかり準備万端であり、いつでも出れる姿勢なのだ。



「まぁね、部活ばっかりしてたツケが回ってきた気分」


「でも朝練なくなって、早起きしなくていいから良かったね」


「何よその顔、生意気ね。こねくり回してやろうか」


「うわ、やめっ」



 早起きが苦手な姉を揶揄(からか)った(むく)いを受けている彼の姿は、いつものすました態度ではなく年相応に見えた。姉は勉強が大変なのか、若干疲れているようにも見えたが、今は笑顔を浮かべている。というか、悪い笑顔だ。



「勉強が大変なら推薦受けてればよかったのに」



 仕方ないので姉にからまれた良樹を助けるため、声をかける。すると姉は、得意げな顔で良樹の頭をポンっと叩いた。



「元々、受験はするって決めてたから」



 今年は姉がいた高校のバスケチームがインターハイまで行ったため、にいくつかの大学から推薦が来ていた。だから受験勉強なんてしなくても良かったはずなのだ。


 俺にはよく分からない。せっかく勉強しなくてもいい手段があったのにそれを蹴るだなんてもったいなさすぎる。



「でもお父さんは寂しんだよ、雪那ちゃんが一緒にゲームしてくれなくなって!」



 廊下の奥からスーツ姿の父が悲しげな表情で現れた。そしてその手には、ゲーム機が握られている。もしかしてまた、出るギリギリまでゲームをしていたのか。


 不意に父と目が合い、俺がゲーム機の存在に気づいたことに気づいたようで人差し指でシーっとして、それを鞄の中へと隠した。


 もしかしなくてもそれ、職場に持っていくつもりだろうか。いいな社会人、どこでもゲームできるの羨ましい。(※誤解です)



「あ、お父さんおはよ」


「受験生になんてこと言ってるの、って良和(よしかず)さんも遅刻じゃない!」


「今日は外回りだから大丈夫だよ」


「何が大丈夫なのか分からないんだけど、ほらさっさと行ってらっしゃい」


「はーい、行ってきまーす……」



 項垂(うなだ)れた背中のまま家を出て行く父。今朝はゲームしていたことを母にバレなかっただけ重畳(ちょうじょう)だろう。そんな後姿を見送ったのは猫のクロだけだった。父さんに幸あれ。



「雪ちゃん、朝ごはんは?」


「今日はいいかも、ごめんね。行ってきます」



 腕時計を確認して急ぎ足で出て行く姉も見送り、俺も壁掛けの時計を見る。そろそろ良い時間になってきたらしい。どうして学校って行くまでがこんなに面倒なのだろうか。行ったら楽しいんだけど、授業以外。



「俺たちも行くか」


「うん。じゃあ、行ってきまーす」


「なっちゃん、良樹くん行ってらっしゃい、気をつけてね」



 エプロンを外し、外出の準備をする母に手を振り、俺たちも学校へ向かった。





  ◇  ◇  ◇




 暖かい昼下がり、給食で膨れたお腹と心地よい子守歌。この寝てくださいと言わんばかりに整えられた空間で、睡魔に(あらが)うことができようか、いやできない(反語)



「黒岩ぁ、次から読んでみろ」


「へあ!?」



 うとうとと微睡(まどろみ)の中にいた俺は、呼ばれて反射的に立ち上がった。そして辺りを見渡せば、クスクスと笑いを堪えるクラスメイトに呆れ顔の先生が目に入る。


 それだけで状況は全て理解できたし、とりあえずヤバいことだけは分かった。どうにか出来ないかと席が隣の良樹を見ると、小馬鹿にしたように鼻で笑いそっぽを向かれた。こいつに助けを求めた俺が悪かったな、うん。



「寝てたのか、黒岩」


「いえ、寝てません」



 悪足掻きを見せつつ、今の授業の進行度を探るが何一つ分からない。隣の良樹は使えないし、壁側の後ろと言う最高な席であるが故に、頼れるクラスメイトが少なすぎた。



「ほら寝てるの全員起きろー、ここまで終わったら後半は文化祭準備にしてやるぞー」



 先生の宣言で、人がいないかのような静けさに包まれていた教室は一気に歓喜に沸いた。それは俺も同じで、一気に目が覚める。中学最初の文化祭だ、気合が入ると言うものである。


 あと単純に、授業がなくなるのが嬉しい。そもそも5時間目に国語を入れる方が悪いと思うのだが、時間割を考えている人に物申したいところだ。



「じゃあ、次を読め」



 完全に思考回路が違う方へ向いていたところに無慈悲なる一言が放たれた。まさか文化祭準備と言って油断を誘い、俺が読み上げるページを確認する暇を与えないとは。これでは寝ていたことがバレてしまう。おのれこの学年主任、やり手かもしれない。



「黒岩君」



 先生と目が合う。背中を冷や汗が伝った。そしてこの間、数秒。前の席に座っている佐竹が小声で声をかけてきた。そこへ視線をやれば、何も言わずに教科書を指さしていた。



「えーっと、五月雨を集めて早し最上川」


「はい、いいぞ。えー、この句は――」



 なんとか危機を乗り越えたらしくホッと息をつき、そのまま座ると佐竹と目が合った。口パクでお礼を言えば、彼は照れくさそうに笑みを浮かべる。以前からは想像できない表情の変化で、個人的には大変満足しているところだ。



 佐竹と話すようになってから約3か月、確実に笑顔は増えていると思う。あとは他のクラスメイトと仲良くなること、ひいては同級生全員と話せるようになることが目下の目標だ。



「今日はここまで。他のクラスの邪魔にならないようにな」



 先生の説明終わり、長かった授業が終わった。注意されたにも関わらず全員が喜びの声を上げて、各々の作業場所へと散っていく。先生はというと困った顔をしつつ教科書を片付けていた。



「黒岩君、僕たちも行こう。女子は遅いだろうし」


「俺らの班は結構終わってるから焦らなくても大丈夫、大丈夫」



 佐竹は棚に置いていた、つまようじが入った容器を数個手に持ってきた。それらには赤や黒と様々な色が着いているため、準備ができている分だろう。



「那津」



 後ろから声をかけられ振り向けば、良樹が絵具を片手に立っていた。おそらく今から自身の担当〈つまようじの着色〉作業を行うのだろう。面倒くさがりでグループ作業に向かないこの男を説得するのにどれだけの苦労を費やしたことか。


 所謂(いわゆる)、不良というわけではないため、番長と違って説得さえすればしっかり参加してくれるだけマシなのだけど、自分だけ楽しようとするのをどうにかしてほしい。



「どうした?」


「他の色は終わったらそっち持ってくから」


「おーけー、いつもの美術室にいるから」



 気だるげな友人の背中を見送り、佐竹へと向き直る。彼は絵が好きなだけあって工作の方も好きなのか、早く行きたくてソワソワしていた。それが面白くて笑ってしまいつつも2人で作業場所へと向かう。


 ちなみに俺たちのクラスの出し物は展示で、つまようじアートだ。テーマは夢だったため、クラスみんなで意見を出し合って、某有名アスリート選手の絵を描くことになった。描くと言っても、元の写真を引き延ばしたものを下書きに使ってはいる。



「澤北君、色塗り班で上手くやってるかな」


「まぁ、あいつは作業が始まればちゃんとやるから」



 他のクラスは授業中のために、静かな廊下を2人で歩く。足音だけが反響し、発する言葉もいつも以上に大きく響き渡る。それだけで、なんだか悪いことをしている気がしてくるから内心はドキドキだ。自然と話す声も小さくなってしまう。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

次回まで、少々過去編が続きますが、よろしくお願いいたします。


因みに作者は、この物語を書いている最中ずっと白石さんに癒されたくて仕方がありませんでした。

早く現在に戻って黒岩くん、過去編とかもういい((


次回更新は10日を予定しております!


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