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今日の夜が明けるまで  作者: 香文 亜紀
第1章 「始まりのスクールライフ」

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1-7 人生で最も遠い校長室

 ドアを慎重(しんちょう)に開けた実は首から先だけを少し出して廊下を確認した。


今いるのは南棟の四階。そして向かう校長室は北棟の一階にある。

つまりほぼ正反対の位置にいることになる。


 「見える範囲にやつはいないみたいだ」


そう言う実は手招きして俺たちを促した。

俺と今日子も恐る恐る廊下を確認しつつ、教室を後にした。


 「まあ、ここから校長室は遠いみたいだし、おそらく襲われる心配は低いだろう」


実は自ら先頭に立ち歩みを進めながら言った。


 「そうですね、校長室は北棟の一階にあるのでゆっくり目指しましょう」


今日子は実に向けて言った。

それぞれが緊張感を持っているのが伝わる。

それほどこの空間は異常な空気に満ちていた。


 北棟へ行くには二階か一階にある中央廊下を渡らなければならない。

そのため俺たちはまず南棟の二階に向かうことにした。


 「お前ら、念のためだが余計な物音は絶対に出すなよ」


俺と今日子は首を縦に一回振り実の声に同調(どうちょう)した。


 歩き出した一行は、南棟の階段を目指し歩き始めた。

まずは二階まで降りることを優先した結果だった。


先ほど怪物を見ていた三階に到着した。

しかしそこには何者の気配も感じられなかった。


特に三階には用事が無いので気にすることなくそのまま二階を目指した。




 しかし、俺たちは二階に着いても南棟に行くことが出来なかった。

南棟には確かに中央廊下は存在する。しかし、その道は散りばめられたガラスの破片によって床が埋め尽くされていた。

周りを見ると蛍光灯(けいこうとう)がことごとく割られていて意図的に道が閉じられていた。


中央廊下を抜けることも出来るが、それにはこのガラスの道を歩かねばならない。

音もなるしもしかしたら怪我をするかもしれない。


ここでそのリスクを負えるはずが無かった。


 「一階から行こう」


そう言うと実と今日子も同じことを思っていたのか静かに首を縦に振った。


(きびす)を返して再び階段を目指すことにした。


 「ガタンッ!!」


一階へ向かうために階段に足をかけたその瞬間、後ろから大きな音が響いた。

声は出さなかったが全員がびくりと振り向いた。


音の行方は後方30メートルほどから聞こえてきた。

教室にして三部屋後の方から聞こえてきた感じだった。


何かが壁に当たったようにも、机に当たったようにも聞こえてきたその音は暗い廊下の中に消えていったが耳にはずっと違和感(いわかん)を与え続けた。


 「今の何の音?」


静寂(せいじゃく)のときを遮ったのは今日子の声だった。


 「分からない、だが何かがいることは確かだと思う」


俺はそう答えたけど、本当にそうとしか思えなかった。


"何かは分からないけど、何かがいる”


 「少し見に行くか、同じような参加者なら協力したいし、化け物なら位置を見れるに越したことは無いからな」


そう実は言うが、俺はそうはしない方がいいと思った。

明らかにリスクの方がでかいからだ。

もし、同じような参加者がアイツに襲われていて、それで俺たちまで見つかりでもしたら最悪も最悪だ。


 「いや、行くのはやめましょう」


色々考えた俺の口から出たのはそんな言葉だった。

しかし、どうやらその場でその意見を持つのは俺だけらしかった。


 「私は見に行った方がいいと思う、どっちだとしても……」


多数決的に言えば二対一で俺の意見は通らない。

ここはその場の流れに身を任せた方がいい気がした。


 「分かった。 二人の意見には賛成する。 でも、決めごとをしよう」


 「決めごと?なんだそりゃ?」


今日子も実と同じことを聞きたいような顔をしていた。


 「見に行くのは二人。 一人はこの階段付近で待機………」


何か言いたげの実ではあったが、俺の言葉がまだ最後まで言われてないことを察してか開いた口をまた閉じてくれた。


 「そして、もし誰かがやられたら四階の特別第七教室に集合にしよう」


もう話す気が無い俺の方を確認して実は話し始めた。


 「まず確認だが、特別第七教室ってのはさっき話していた教室の事で合ってるよな?」


 「そうです」


 「OK……」


実は左の歯に力を込めて考え込んだ。


 「さっき聞こうと思ったんだが、その、一人で残るってのはなんでだ?」


実は先ほど聞きたかったであろうことについて話し始めた。

至極(しごく)まともな疑問だと思う。

実際俺もそう思っていただろう。このような状況じゃなければ。


 「この世界には化け物がいる。 そいつがいつどこから来るかは分からない」

 「だから、一人はこの階段で様子を見ていた方がいいと思ったんです」


実は少し考えてから頷いた。


 「確かにその方がいいかもな。 何が起こるかわかったもんじゃないからな」


今日子も小さく頷き意見に賛同してくれた。


 「じゃあ、誰が階段に残るか。 だな」


実はそう言って、俺と今日子のことを見比べた。

俺も今日子も何も言わず首を左右に振り誰が残るのかと考えていた。


 「……んじゃ、俺が残るとするか。 何かが来たら何かの合図をしよう」


そう言って沈黙(ちんもく)を破ったのは実だった。


 「分かりました。 じゃあ今日子と俺でちょっと確認してきます」




 実を階段に残し、俺と今日子は音の正体を確かめに行くことにした。

出来るだけ物音を立てないように注意し、息を殺して音がした方に向かった。


おそらく音がしたのは、「三年三組」と書いてあるこの教室だろう。

前のドアは閉じているため中の様子はよく分からない。

しかし、どうやら後ろのドアは少し隙間があるようだった。


 「後ろのドアが少し開いてる、あそこから見よう」


小さな声で今日子はそう言って手で促した。

俺たちは足音を立てないように後ろのドアまで進む。


 そして恐る恐る教室内を確認した。

見えている限りでは何も確認することは出来なかった。


扉に近づき顔を近づけていると少し音が聞こえた。

それはこの教室から鳴る音だった。

耳を近づけ教室内の音に集中するとどうやらその音は足音に近かった。


 「っん!?」


突然肩に手が当たったので少し驚いてしまった。

肩に手を置いたのは一緒に来ていた今日子だった。

どうやら今日子も音に気付いたようで、中を確認しようと考えているようだった。


高くなった心臓の音を落ち着かせてもう一度教室の中を確認した。

すると、微か(かすか)に教室の前方で動く影を見た。


しかし開いている隙間が狭すぎてその全容(ぜんよう)を見ることは出来なかった

このままだと(らち)が明かないので、恐怖の感情を押し殺し教室の扉を開けることにした。


ゆっくり、ゆっくりとその扉を右側にずらしていった。


 『ガタッ……』


扉の立て付けが悪いせいか音が鳴ってしまった。

その音に気付いたのか音の主もぴたりと動きを止めた。


互いに硬直し、何かを待った。

開けるべきか、開けないべきか、頭がものすごい速度で回転するのを感じる。


しかし、中にある足音が少しずつこちらに近づいてくるのを感じ身構えた。

いや、動けなくなったと言ってもいいかもしれない。

恐怖で動けなくなってしまった。今日子もどうやら同じようだった。


一歩、また一歩と足音は近づいてくる。

そしてその存在は扉のすぐ近くまで来ていた。


扉の奥に"何か”がいるのを感じる。

心臓の音がとてもつもなく大きくなっていくのを感じる。


目が大きく見開かれ、鼻からはいつもより多くの空気が行き来しているのが分かった。


そして、目の前にある扉が少しずつ右にスライドされていく。

少し、また少しと扉が開かれていく。



 しかし、俺は呆気(あっけ)に取られていた。

今日子も同様に呆気(あっけ)に取られていた。


扉の先。

そこに立っていたのは木刀(ぼくとう)を持った男。

高崎先生だった。

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