1ー6 佐々木実という男
言葉を放ったこの男はよっこらせと言葉を漏らし床に座り、俺たちにも座るよう促した。
三回目だと言ってのけ、今も俺たちの目の前にいるこの男。
俺と今日子が男の話に唖然としていると、
「お前たちはこれが初めてっぽいな」
と、見透かしたように実は言葉を投げる。
「三回目」と、確かに彼はそう言った。俺はいくつかの感情が自分の中で沸き起こったのが感じ取れたが、未だその言葉の意味を理解するのには時間がかかりそうだった。
「あの… 三回目っていうのは、どういうことですか…?」
確認せずにはいられなかった。言葉の意味がまるで理解できなかったから。
「あ? なんだ、案外頭悪いんだな」
実は嘲笑気味にそう答えた。
「は?」
自然と口から洩れた言葉は弱く、半分は空気が抜けたような返答になってしまった。
「三回目っていうのは文字通りだ。 お前もあいつから聞いたろ? 『げぇむ』だよ『げぇむ』、知らないのか?」
信じられなかった。こんな地獄のような状況を三回も?
そのことが信じられなくて俺は疑っていたのだ。
「なんか言えよ」
実の言葉を聞いた俺は頭の中での独り言を止めた。
「ていうことは、実さんはこの『げぇむ』?から二回抜け出したことがあるっていうことですか?」
そうやって間に入って答えたのは今日子だった。
「おっ、そっちの嬢ちゃんは案外ちゃんとしてるみてぇじゃねぇか」
なんとも言えない顔で見つめる今日子をよそに実は話を続けた。
「嬢ちゃんの言う通り、俺はこんな感じの悪夢を過去に二回、切り抜けてきた……」
実の言葉は竜頭蛇尾のごとく覇気が消えていった。
「どうしたんですか?」
そう聞いたのは今日子だった。俺も気になった実の勢いの消失に同じような違和感、いや疑問を覚えたのだった。
「いや、何でもない……。 いや、何でもありすぎたんだな」
言葉が終わると同時に上を見上げた実。
俺たちはその様子を見て思った。
この人もこのいかれた「げぇむ」という名の悪夢に参加していたというのなら当然見てきたのだろう。
――有り余るほどの死体を――
だから思いが巡らすような語気になってしまったに違いない。
今日子は実と異なり顔を落とした。そして俺も、どこか聞いちゃいけないような話を聞いたみたいに顔を背けた。
「お前らが気にすることじゃないさ、これは参加者に課せられた運命みたいなもんだからな。
だがしっかり覚悟はしておいた方がいい。」
「お前さんたちはいくつかの死体及び殺人現場を目撃してきたかもしれない。
ひとまず今は心の中で軽く整理がつき始めている頃でもあるだろう。
だがな、こればっかりは慣れないもんだ、もう一度見たら恐怖に震えるし、この記憶はずっと心に残っちまう。 よーはフラッシュバックってやつだな。」
ここまで語った実は深呼吸して間を整えた。
「だからお前ら、心してかかれよ?
もしかしたら知人の消失現場を見ちまうこともあるんだからな……」
そう言って吐き捨てた実はどこか寂しそうな顔をしていた。
それに応えるように俺は実の言葉を重く受け止めこの先のことを考えた。
消失現場と言うのはおそらく現実での死。
この悪夢での五回目の死のことだろう。
横を見るとどうやら今日子も同様の想いを抱いたらしく、覇気を取り戻したように見える。
「さてとだ、そろそろこのふざけた『げぇむ』から脱出しようじゃないか!」
「脱出の仕方を知っているんですか?」
「そりゃ知っているさ、なんせ二回はこの『げぇむ』をクリアしているんだからな。 お前はあのふざけたガキから何も聞いてないのか?」
ふざけたガキというのはおそらくオッズのことだろう。
「確かにそのことについては聞きましたが……」
「なんだ、その言葉が信用できないってか?」
肯定も否定もするでもなく応えかねていると実は続けて言った。
「まあ、あいつのことを信用できない気持ちはよく分かるが、多分嘘はついてない。
現に俺は二回もクリアしているわけだからな!」
ガハハと言わんばかりに歯を見せて笑う実はそう告げた。
「さて、それじゃあまずはアイテムとヒントがあるっていう校長室に向かうとするか!」
実はこれまたよいしょと声を出しながら立ち上がった。
「でも、ここにはやつがいます。 どうやって切り抜けるんですか?」
今日子は実に聞いた。
そう、この学校にはやつがいる。
紙袋をかぶったあのいかれた殺人鬼が。
「……そう言えば、あれから随分時間が経つけどここには来ないな?」
先ほどから抱え始めた違和感を二人に共有した。
「だってあいつは校長室に入られたくないんだろ? 見てれば分かる」
「だからあいつは校長室から一番遠いこの部屋にはまず来ないと言っていいだろう」
実はそう教えてくれた。
確かに、二回目に死んだときも校長室前に死体があってそのあと俺が殺された。
そしてさっき見た校庭の参加者もそうだ。
「あいつは校長室付近の人間を優先的に殺してるっていうのか」
「そういうことだ、随分頭が冴えてきたじゃねぇか」
さあ立てと言いたげな実は手で立つように指示してきた。
あまり乗り気はしないがクリアしないことには元の世界に戻れないため、俺と今日子も立ち上がった。
「よし、じゃあ校長室へ行くか!」
実はそう俺らに告げて教室の扉に近づき、引手に手をかけた。
おそらく二年半ぶりの更新となりますが、多くの人に読んでもらえたら嬉しいです!
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