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今日の夜が明けるまで  作者: 香文 亜紀
第1章 「始まりのスクールライフ」
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1-5 一点の光

 別の棟である南棟を目指す俺と今日子は後ろを確認しながら必死に逃げた。逃げて逃げて逃げ続けた。殺人鬼の姿はまだ見えない。ほんの少しではあるが安堵を覚える。


 「バリーンッ」


背後でガラスのようなものが割れる音が聞こえた。おそらくあの殺人鬼が窓ガラスを割りながら追いかけているのだろう。そうに違いない。だが今はそんなこと関係ない。とりあえず逃げるだけだ。追いつかれたら一巻の終わり。南棟に着いた俺と今日子は曲がって三番目の教室に入って隠れた。辺りは静かだ。足音一つ聞こえず、生き物はまるで俺と今日子だけしかいないような感覚に陥った。脈が速くなるのを感じる。心なしか汗も滲みだしてきた。緊張が走る。この時間が早く過ぎるのを祈ることしかできない。隠れ場に選んだのはよくある掃除ロッカーの中。一人で入る分にはスペースがあるが二人となると話は別だ。かなり狭い。だがそこにしか隠れることが出来ないのでしょうがない。そうすると自然と今日子との距離が近くなる。お互い顔はよく見えない、走ったからだろうがお互いの息が荒れているのを感じる。しかし見つからないようにその息をお互い隠そうとする。永遠と錯覚するほどの時間が流れる。俺と今日子の心臓はありえないくらいの速度で打っていた。


 「ガラガラガラガラ……」


自分たちがいる教室の扉が開く音。俺と今日子は息を殺した。その場の空気が一瞬でも震えないくらい押し殺した。それでも恐怖の足音は近づいてくる。俺はもう諦めかけていた。ロッカー以外特に何もない教室、そこにいるはおそらく三人。俺と今日子とあいつ。ロッカーには少しの隙間しか空いていないため外の様子を確認することも出来ない。何もすることはかなわない。「ただただこの時間が早く終わればいいのに」と心の中で声にならない叫びをあげる。

 しかし、ロッカーの扉から薄暗い外の光が入ってきた。徐々に開かれるロッカーの扉を確認し、俺と今日子は目を閉じていた。終わりを悟ったのだ。このまま開かれたら本当に終わりだ。二人ともあいつに殺される。もう一度、あの場所に飛ばされるのだ。


 「おい、無事か……?」


予想と違う展開に俺は目をゆっくりと開けた。そしてそのまま見開いた。そこには外見はおそらく四十代くらいの男が立っていた。てっきり殺人鬼だと思っていた俺と今日子は呆気にとられた。


 「とりあえず少し移動するぞ」


中年の男は俺と今日子を交互に見たあと教室の出入り口に向かった。そして俺たちはその男に続いて歩いた。南棟の端っこの教室、ここは特別第七教室だ。


 「まずは自己紹介からだな、俺は佐々木実だ。 木の実の実でみのるだ。 お前らは?」


教室に入った途端、男はそう名乗った。俺は少しまだ状況がうまく呑み込めておらず、少し狼狽していた。


 「……私は、渡辺今日子です」


今日子が俺の横で男に応える。今日子の自己紹介で少し冷静さを取り戻した俺は


 「俺は村西連夜です」


と今日子に続いた。すると男は


 「お前たち、あいつ、見たよな?」


と続けた。俺と今日子はうなずく。続けて実が言う。


 「お前たちはもう何回か死んでいるのか?」


俺と今日子は再び首肯する。そしてまた実が続ける。


 「じゃあお前らはこれが初めてか?」


俺は聞かれていることがよくわからなかった。隣にいる今日子の顔を確認したが今日子もこの質問はよくわからなかったらしく頭にはてなを浮かばせていた。


 「……どういうことですか?」


俺は耐え切れずそう聞いた。


 「言ったまんまだ、この悪夢みたいなもんは過去現在一回きりじゃないってことだ。 去年この学校で同じようなことが起きたと聞いたがお前らそのことは知らなかったのか?」


俺はオッズとの会話で話したことを思い出した。


 「それは知ってる。 オッズとかいう変な奴にそう言われたよ」


男は不憫そうな目で俺を見て


 「そうか」


と短く答えた。続けて言う。


 「実は俺はこの悪夢のような世界を研究してるんだ」


 俺と今日子は再び目を見開いた。


(この男は一体何を言っているのだろうか。 この世界を研究している? 俺から言えば正気の沙汰じゃない。 こんな変な世界を研究しているだなんて。)


 「なんだ、疑っているのか?」


男は俺を見てそう聞いた。また俺は顔に出ていたらしい。


 「いや別に、そういうわけじゃ……」


なんとか言葉を出そうとしたけれどうまく言葉を見つけることが出来ない。


 「じゃあ、まあ、別に無理に信じなくてもいいぞ。 だがこれだけは言っといてやる。 俺はこれで三度目だ」

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