1-4 仲間
殺人鬼を観察していた現場から離れた今日子と俺は四階の音楽準備室に逃げしていた。
「どうして今日子がこの世界にいるんだ?」
俺は今日子と会ってからずっと思っていた疑問を今日子にぶつけた。
「それはこっちのセリフ」
すかさず今日子から言葉が発せられた。
「私は本当に何も知らない、夜寝て夢を見てたの。 いや違うわね。 夢だと思ったのよ。 そしたらこの世界にいたってわけ」
今日子は大体の経緯を話してくれた。
「俺もそんな感じ、気づいたらこうなってた」
俺も同じ状況なのだと今日子に語った。一通り話したので一呼吸つくことにした。そうなったら気になるのはあのことだ、どうやら今日子も同じことを聞きたかったらしい。
「連夜、今何回目?」
俺は聞こうと思っていたことを聞かれたので迷うことなく察した。そして俺は静かに
「二回」
と答えた。今日子は驚きもせず
「そう」
と応えた。俺もすかさず聞き返してみた。
「今日子は、今何回目なんだ?」
今日子は指で示した。その指は一を表していた。俺は今日子もあのオッズとかいうふざけたやつとの体験をしたんだと思いながら静かに首肯した。さてそうなると、次に注目するのは「ほかのメンバーと再会すること」と「校長室に行ってそこにあると言われているアイテムを取ること」。
「今日子はほかの参加者に会ったか?」
今日子は首を横に振る。となると、まずは参加者を見つけることから始めることになる。多分だけど下の階に行けば行くほどあの殺人鬼との遭遇率は上がる。今まで見た殺人現場は下の階が多かったからだ。あいつも校長室に参加者を近づけてはならないということが分かるのだろう。
ここまで考えられたならもうここから出なければならない。この悪夢を終わらせるためには……
俺は意を決し今日子と仲間を探すことにした。この学校が自分らの学校で合っているのならばこの四階には授業で使うような教室はないはずだ。あるのは家庭科室、調理室、家庭科準備室、特別第四教室、音楽室、そしてここ音楽準備室だ。俺と今日子は音楽室準備室を出て、音楽室、家庭科室、調理室、家庭科準備室を順々に周っていった。しかし誰もいなかった。驚くほど静かであり一人も見つからない。ということは残るのは特別第四教室だ。この教室は正直なぜあるのかが分からない。何に使われているのかも全く分からないが昔からあるのだと先生から聞いたことがある。特別第四教室の扉に手をかけた、その時。
「きゃぁぁ……!!」
突如起きた悲鳴が俺と今日子の鼓動を早くした。
「やめて、来ないで、来ないで……」
聞き覚えのある声だった。おそらく夏帆の声だ。声はどうやら二階から聞こえてくるようだった。俺と今日子はその悲鳴の主を助けに行こうと前へ進もうとする。が、その足が出ることはなかった。ただ息を殺して時が過ぎるのを待つだけだった。悲鳴が聞こえてから少し経つ、二人の首筋に汗が垂れる。
「ぐちゃっ……」
鈍い音だった。しかしそれだけで伝わった。どこをどうされたのか細かいことは何もわからなかったが、「殺された」のだ。殺されたであろう夏帆の声はもう聞こえない。恐る恐る階段のほうに近づき様子を確認しに行く。
「ぎぃぃ、ぎぃぃ……」
聞き覚えのある音がする。あいつが斧を床にこすりつけながら歩く音。身の毛がよだつ音。すくむ足を抑え今日子と移動しようとすると突如音が消えた。
どうしたのだろうか。俺は階下を確認し、そして戦慄を覚えた。向こうもこちらを覗いている。階下から見上げていた。俺も殺人鬼も少し硬直していた。「動いたら、動いたらダメなんだろう」そう思わせる何かがあった。突如、
「おリてコいよぉォぉォ!!!!」
唸るのは殺人鬼。そして最初に動き出したのも向こうだ。階段を駆け上がってくる。「ドタドタドタドタ」と足音を立てながら登ってくる。俺たちがいる4階まであともう少し。俺と今日子は一目散に逃げた。焦りと恐怖で細かいことは考えられない。一度体験してしまったら忘れることが出来ないあの恐怖。俺たちはその恐怖から逃げるために無我夢中で走る。コの字になっている校舎を駆け別の棟を目指した。迫りくる恐怖の権化はいまだ収まるところを知らない。
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