1-2 オッズ・ゴルドルド・ビーツ・クラーン
……俺の前には知らない誰かが立っていた。その容姿は背丈が小さく頭にはシルクハットをかぶっており、それからは長い金の髪が垂れている。身体には紳士服を羽織っており、中性的な顔立ちだったので男女の区別がはっきりとしないが声だけ聞くと男の子だった。
「いつまで寝てるつもりですか?」
オッズは俺の方を見て首を傾げた。その言葉に流されるように俺は体を起こした。
「あなたはさっき1度お亡くなりになりました!!」
なにか少し違和感があった気がするが、さておき、オッズは明るい声で俺にそう言ったため、俺はつい反射的になんでやねんとツッコミを入れてしまった。
しかしオッズの言うことは正しいと思った。
なぜなら俺は1度死ぬような傷を負ったように感じたから……!?
切られたはずの傷がなくなっていた。
俺は消えた傷の行方を探すかのように腹の辺りから順に背中まで触って確かめた。
しかしどこにもなかった。
「あなたの傷は夢だけでしか作用しませんよ(笑)」
困惑する俺を見てオッズがそう答えた。傷が無い理由は理解した。だが不意にさっきの違和感の正体が判明する。
「お前は俺の今の状況が分かるのか?」
そう違和感の正体はこの目の前にいる人物が何者でなぜ俺の状況を知っていて、今がどうなってるのか、ということだった。
『わかりますとも、この「げぇむ」にあなたを参加させたのは紛れもない、私なんですから』
『「げぇむ」だと……』
平然とカミングアウトするオッズを目の前に俺はつい言葉を途切れさせた。
『はい、「げぇむ」です。スリルがあって楽しいでしょう?』
俺が聞きたいのはそう言うことじゃない。そう言いたいのに俺の思考停止した脳では言葉を発するのにもう少しの時間が必要だった。
「どういうげぇむなんだ?って顔してますね。……いいでしょう、最初なので説明して差し上げます」
「このげぇむは簡単に言えば殺人鬼から逃げるげぇむですよ。ルールの方はですね、
①参加人数は7名(私の独断で選んでます♡)②殺人鬼の弱点を見破りそれを行使することで殺人鬼を消滅させたら終了です。……あ、そうそう3番を言い忘れてました」
「③1回のげぇむで5回死んだら現実世界でも死にます」
「はぁ?」
こいつは今とてつもないことを言いやがった。5回死んだら本当に死ぬだと、いや、待て、本当に整理が追いつない。だからこそ俺は聞いた。
「お前は何がしたいんだ?」
目を丸くするオッズはクスッと笑いながら俺に向かって言い放った。
「何がしたいって?楽しいからに決まってるじゃありませんか」
なるほどな、こいつは根本から狂ってやがるんだ。初めて見た時は不思議な子供にしか見えなかったが、今ははっきりと見える。
ーーー紛れもなく猟奇的快楽殺人犯のそれだ。
俺はオッズに対してこれ以降威嚇の目を休めることは無かった。
**長い沈黙の末先に口を開いたのはオッズだった。
「そんな反抗的な目を向けないでください。
僕怖くて失神してしまいそうですよ。」
くすくすと笑いながら言うその態度がまた俺の中の恐怖心を煽る。よくそんな子供らしい笑顔でここまで狂気的な言葉を並べられるもんだ。
とはいえこのまま話を続けていても埒が明かないのは火を見るより明らかである。
だから俺はふつふつと湧き上がる怒りの心を押し殺してこいつと話すことを決めた。
「別に、そんな反抗的な目でもねぇだろ」
「それよりげぇむについてだ、殺人鬼から逃げるって話だったが、その殺人鬼っていうのは一体どういうやつなんだよ?」
俺がそう聞くとオッズは目を輝かせて俺の質問に答えた。
「おっ!貴方様もげぇむに興味があるのですか!!いいでしょう!お答えします!」
「殺人鬼は私が全て作り出したもの!まあ、なんというかクリーチャーとでも言いましょうか、そんなものですよ」
なっ、作り出した、だと?そんな、殺人鬼を作り出すって、こいつほんとに何者なんだよ。
俺が心の中で考えているとオッズは続けた。
「今一度確かめますか?ここは夢の世界ですよ?だから当然なのですよ。まあ、まだわからないですか」
オッズは意味深に言葉を並べるとくすくすと笑い一段落したあと俺の方を見た。
「じゃ、あと4回頑張って行ってみましょうか!」
「ーーは?」
俺がオッズの言葉に戸惑いを隠しきれず言葉を発した次の瞬間白いだけの空間で激しい白が白い空間を包み込んだ。
「うっ……え?」
ここ、は、記憶に新しい場所だ。
ーー夜の学校。
そう、オッズに言われた5回のリミットのうち1つが終わりを迎えた場所だった。俺は突然飛ばされたため何が何だか分からず困惑していた。そんな時だった。頭の中に声が届いた。
「そう言えば貴方様の名前は確か連夜くんでしたよね?今驚いているでしょう?なんでもお見通しですから。
まあ、そんなことは置いておいて、今その夢の中の時間を止めてあげました。しかしそこから出ることは叶いません。勝手にその夢に入れた私からの少しの気遣いと言いますか、最期になにか聞きたいことはありますか?」
オッズは反省をしていないような声色と必死に抑えるあのくすくす笑顔を想像させるような話し方で俺に問いかけた。俺は聞きたいことなんて山ほどあった。だって勝手に変なげぇむに参加させられたからな!
「じゃあ聞いていいか、殺人鬼の数は1人だけか?」
「夢にもよりますがその夢は1人です」
「次に、ほんとにこのゲームには7人の人がいるのか?」
「ええ、いますとも。探し出して共に協力してその夢から抜け出してください」
「最期に、殺人鬼を消滅させたら元の世界に……この夢から帰れるのか?」
「ええ、帰れますよ」
オッズはやれるものならやってみろと言うように俺に対して応答した。
「では、頑張ってくださいね」
その声とともにオッズからの声は届かなくなった。俺は現実世界に帰るために、この胸くそ悪いげぇむから抜け出すために……夢から覚めるために、この「げぇむ」をクリアすることを目標に頑張って生きることにした。
「あっ!1つ言い忘れていたことがありました!」
「うわぁぁぁぁぁ!?」
急にオッズの声がしたもんだから俺はらしくもない声をあげて驚いた。
「なにか困った時は校長室に行くといいでしょう。手助けアイテムもありますし、ヒントも書かれています。他の7名にも同じことを言いましたので、もしかしたら会えるかもしれないですね!では、時間を再開させまーす」
オッズのその言葉を契機にこの学校に不穏な空気が漂いだした。
とりあえず校長室に行かなきゃなにも始まらないと思った俺はすぐ校長室に向かった。校長室の場所は確か1階だったはずだ。窓から顔をだし見下ろしてみると、
「3階か」
殺人鬼に見つからないように1階に行くため俺は慎重に身を窓よりかがめて移動することを決めた。
(これで変なBGM流れてたら俺怖すぎて死ぬな、うん)
そう思いつつ俺は歩き始めた。
ーー2階に着いたくらいのときだった。
明らかに不穏な空気の濃度が変わった
「(絶対に何かあるじゃん!)」
心の中でツッコミを入れて俺はより一層警戒を強めた。少し歩くとその不穏な空気の正体が判明した。自分の心臓の鼓動がありえないくらい早く動いている。
「あっ……」
俺はずっと変な匂いがすると思っていた。でも実際は違った。匂いなんてしない。いや、匂いよりも他に意識がいっているのかもしれない。赤く染まった目の前の風景に唖然して俺は行動不能になった。
腹を裂かれた状態で倒れていた、人だったものがそこにはあった。下には血溜まりが出来ていて、腸が飛び出ていた。
「お、おい、大丈夫か?」
既に絶命しているようで返事はなかった。
俺はもう一度死体を見たために心のリミッターがはずれ気持ち悪くなり嘔吐した。
そんな時だった。目の前の死体と血溜まりが光とともに霧散していった。
俺は最初こそ驚いていたが、俺も同じようになったんだと思い、気持ち悪くだる重い体を動かして1階に向かった。
そして俺は校長室を視認できるまでの距離に到達した。
「カツンッ、カツンッ……」
ーー足音が聞こえた。ゆっくり、ゆっくりと近づいてくる足音だ。負のオーラを放っているのが遠距離からでも伝わるヤバいやつ。咄嗟に近くの教室の掃除用ロッカーの中に隠れてヤバいやつが通り過ぎるのを待った。
だんだんと近づいてくる。
「カツッ……」
足音が止まったようだ。足音からして、すぐ近くで。
「ガラガラ……」
俺が逃げ込んだ教室のドアが静寂の中で鳴り響いた。
ーー殺人鬼が教室に入ってきた。
カツンカツンと音を立てて忍び寄る殺人鬼の足音が俺の心臓をバクバクさせた。殺人鬼はロッカーに近づいてきている。
ーー赤い点々が洋服の模様になっているのではないかとおもうほど返り血を浴びた殺人鬼はロッカーの前を通り過ぎていった。
俺は殺人鬼が自分の存在に気づいていないという安心から心臓の鼓動がゆっくりと正常になっていくことを感じる。
「ガラガラ……」
2回目のドアの音。待ちわびた音。俺はその音がしてからも10余分ほどロッカーからは出られなかったが近くに気配がないことを確認して外に出ることを決意した。恐る恐るロッカーを開けて外へ出た。
「みぃツケだ……」
声のするほうを見るとさっき見たような赤い斑点が付いたような服を着ているなにかと目が合った。よく見てみるとそれは大きな斧を持っていて「可愛い顔をした」紙袋を被っていた。記憶を呼び起こした。
ーーこいつが1回目の俺を殺したんだ。
たくさんの人に読んでもらい、たくさんの方からの応援が欲しいです!
もし良ければブックマークよろしくお願いします!