深夜の宴
「あっつ!」
俺はレンチンしたスープを取り出そうとし、余りの熱さに火傷しかけた。いつもならクソ野郎とブチ切れる所だが、今日は寛大な心で許そうと思う。俺は火傷しないように注意深く器を持ち、コタツの上に並べる。
「最高じゃね?」
目の前にはたった今温めたばかりの湯気が出るスープを見た後、他の品に目を移していく。直ぐ傍には冷たい温玉ぶっかけうどん。足は温かいのに上は涼しそうなものはなんだ?これだ。
そのすぐ先にはシーチキンマヨのおにぎり、鮭、おかか、最高のおにぎりたちの共演だ。
その横にはホットスナック。フランクフルトにアメリカンドッグ、ホットスナックといったらこれらは外せない。
もちろん飲み物も忘れてはいけない。こんな時だからこそ、コーラとイチゴオレを飲む。お茶とか水とかなんてつまらない物は飲まない。
そして中央には俺の大好きな唐揚げ弁当。チンしたから唐揚げのジューシーな香りが部屋を満たしている。
そして、ちょっとした箸休め用にポテトチップスやチョコレート等のスナックも用意して準備は万端だ。
今宵、一夜限りの宴が始まる。
「どれから食おうかな」
俺は迷ったが、やはり目の前でほかほかの湯気を出すこのスープからだろう。外は冷え込み、体は寒い。それを温めてくれる先陣はこのスープだ。
「頂きます。ずず、ずずずずず。ぷはぁ~」
旨い。コタツも温かいが、このスープは俺の体を中から、心の底から温めてくれる。口の中に拡がるコンソメの風味も、これから食事をするんだと意識させてくれた。まずはエンジンを動かすガソリンといった所だろう。これを飲むだけでフルスロットルまで入ってもおかしくはない。
スープで心と体を温め、半分飲んだところでぽかぽかしてきた。流石に加速をさせ過ぎた。ここは一度冷ますべきだろう。俺はぶっかけうどんを取り上げる。
「ずるずるずるずる」
俺は薬味等をしっかりとかけ、一気に啜る。ここで中途半端に啜るなど有り得ない。それはうどんに対する冒涜と言っていい。だから啜る。口の中でうどんが跳ねる。寒い中を俺と共に来たからかうどんもキンキンに冷えていて、コシも素晴らしい。熱くなった俺の熱をうどんに分けてあげねば。
うどんを啜り、よく噛んで飲み込む。
「ふぅ」
少し体が冷えて冷静さが取り戻せた。うどんの上に載っている大根おろしも口をさっぱりさせてリセットだ。これで俺の口と腹は振り出しに帰ってきた。そして、次は山を登ることにする。まずはツナマヨの山がいいかな。
パリ、パリリ。
おにぎりの封を切って海苔でおにぎりを巻く。これでパリパリの海苔で美味しいおにぎりを食べられるのだ。
口に入れて一口食べる。しかしやってしまった。おにぎりを上から食べてしまったからのりとご飯しかない。そこで、ちょっとフライングになるが、フランクフルトを手に取り一口口の中へ。
フランクフルトの弾ける皮と、肉の弾力に味がご飯をより進ませる。この食べ方だけで人はもっと米が食べれるようになるだろう。そして、俺はそんな誘惑を押しとどめ、フランクフルトを元の位置にそっと戻した。
「ちゃんとおにぎりはおにぎりで食ってやらないと」
俺は少しだけ見える具に思い切りかぶりつく。おにぎりの中にはツナとマヨネーズが完璧な調和をもたらしていて、その山に完璧な自然を作り上げていた。俺はその調和を崩していく悲しさを覚えつつも、動かす手と口は止まらない。ずっとこの作業が続けばいいのに、そう思っても目の前の自然は無くなってしまった。人間の罪とは何と重いのだろうか。
俺はホットスナックに目を向ける。そして、さっき食べかけだったフランクフルトを持ち上げた。そして、ケチャップとマスタードを同時にかける。フランクフルトが赤と黄色に染められていく。目の前でプロのアートが完成していくのを見ているようだ。これが芸術か。
俺はその芸術を口の中にそっと入れる。それは少しでもその形が保つように、しかし、いざ口に入ったのならじっくりと味わえるようにしたいのだ。さっきのフランクフルトとはまた違った顔を見せてくれる。ケチャップの酸味と甘味、マスタードの絶妙な刺激。そしてフランクフルトの肉肉しさが合わさりこれぞジャンク感を体現していた。
俺は一口、二口、あっと言う間に食べきってしまった。
「あぁ、もう無くなっちまった。ありがとう」
俺の目の前から消え去ったフランクフルトにそっと別れを告げて口直しを。
俺はコーラ栓を開けてラッパ飲みをする。コップに入れて飲むなんてやり方は生ぬるい。豪快に一気飲み以外は認めない。コーラはラッパ飲み以外は違法、そんな法律があったって驚かない。それくらいこの飲み方は刺激的で旨い。
「ごくごくごく」
喉をならしながら腹の中に入れる。腹に行くまでの道を炭酸が弾け、刺激しまくるがそれがまた堪らない。
「うはぁ~やっぱコーラは最高だな」
俺は残り3割くらいまできたコーラを置いて遂にメインディッシュに向かう。
カパァ。
唐揚げ弁当の蓋を取る。そこからはアツアツで揚げたてのような匂いすら感じさせる唐揚げ弁当がそこにはあった。唐揚げは豪勢に5個入っていて、それぞれ一個一個が中華料理屋で出てくるほどに大きい。その下には良くあるスパゲティが。これがあるとソースと油が絡んで堪らないんだ。ご飯も重たく普段の食事ならこの弁当一個でで満足出来てしまう。端に気持ちばかりの漬物があるくらいで、それ以外は唐揚げと米を食え!とハッキリ主張しているのがすがすがしい。こうもハッキリと言われたら買うしかないじゃないか。
俺はまずは唐揚げ、これを一つ持ち上げる。
「重」
力を抜けば落としてしまいそうになるほど重い。その重く、大きな唐揚げにかぶりつく。
「あーん。熱い!」
唐揚げの中はジューシーで熱々に熱された油が口の中を駆け回る。だが、それがいい。それでこその唐揚げだ。
俺は唐揚げを食いちぎって弁当に戻し、急いでご飯を口に入れる。そのご飯で油を冷やし、唐揚げとのコンボを決めればそれだけで食事の点数は満点になった。
「旨い、旨い、旨い!」
俺の言葉はそれしか出てこない。旨いものを食って旨いという。それの何がおかしいのか。恥ずかしいのか。俺は壊れた機械の様に歌い続ける。
一しきり唐揚げの旨さを歌い上げた所で、俺は再び唐揚げを取り上げ食べる。
「旨い」
やはり旨い。何度食べたとしてもこの旨さが色褪せる事はないように思う。
それから唐揚げを2個食べ、一休みした所で、俺の視線は再びスープへ。
「まだまだ、宴は始まったばかりだな」
俺の宴はまだまだ続く。
Fin
お菓子が忘れていたと思いましたか?勘のいいガキは嫌いです。
罰としてブクマと評価をしていきなさい。