第3話
頭が真っ白になってしまう。それもそのはず、自らの死を突き付けられたからである。すると、恐怖と落胆がこの身を包んだ。
「ああ・・・、そうなんだ・・・。俺、死んじまったんだ・・・・。変わりたくて、変えたくて、せっかく辿り着いたっつうのに・・・・。くそう・・・。くそう・・・・。」
俺のこの腐った人生の中でも、一つだけ信念があった。それは、生きること。クサイかもしれないが、それでもあいつと約束したからと。先に死んでいったあいつの分まで、しっかり生きると。そう決めていたのに・・・。
「ちょっと!これはわかりやすく言うためで、ほんとに死んだわけではないです!生きてます!ただ、命を落としてしまっただけです!」
「何言ってんだよ・・・。命を落とすってことは、死んだってことだろ・・・・。もうこれ以上何も言わないでくれよ・・・・。」
「いやだから!悲観しすぎです!もうめんどくさいんでそのまま言います!いいですか!?あなたは生きてます!ただあなたという殻の中から『命』が泉に落ちてしまっただけなんです!」
後悔の念の中でかすかに聞こえる精の言うことが、いまいち理解できない。その中で、至極まっとうな疑問が浮かんだ。
「じゃあ、今の俺は何だ?もしかしてここは、死後の世界というやつなのか?」
「違います!ここは、反転世界。あなたの住んでた現実世界の裏側ということになります!この泉は、その二つの世界を唯一繋げている、いわばトンネルです!」
「じゃあ俺は別に、死んだわけじゃなくて、異世界的なところにいるってことなんだな・・・・。」
「そうです!やっとわかってくれましたか!」
そう納得した途端、ほっとしてしまった。よかった、まだ生きてる。あいつにまだ合わせる顔がある。
「とゆことは、俺はいま空っぽなんだよな?『命』がなくても、人は生きていけるものなのか?」
「いえ!『命』がなければ人は死んでしまいます!」
「じゃあ、なんで俺は生きてるんだ?」
「それは、泉に落としたあなたの『命』のかわりに、先ほどの『金の命』と『銀の命』があなたの中にあるからです!」
『金の命』と『銀の命』・・・・。なるほど、さっきの二つの玉がもしかしたらそれなのか・・・。そして「木こりの泉」の泉の精が目の前にいる・・・。そうか、だんだんわかってきた。おとぎ話の中でいう斧が、俺の場合『命』だったというわけか。それにしても、ほんとにあるなんて・・・。
「泉の精さん、あんたはあのおとぎ話を知ってるんだよな?もしかして、あの話はほんとなのか?」
「いえ、あの話はおとぎ話にすぎません。あれは確か、こっちの世界の私の知り合いが私のために書いてくれて、それをうっかり私がこの泉に落としてしまったために、あちらの世界で広がってしまいました!」
この泉の精さんは、いささか天然があるらしい。なぜか、威張って偉そうにそれを言うからである。
「まあ、その何もない胸を張らなくていいから、俺を現実世界に返してくれ・・・。」
「あ!とんでもないセクハラをしますねあなた!それも人が一番傷つくことを!それに、もうあなたは現実世界に帰ることはできません!」
「はあ!?なんでだよ!そこの泉を通ればあっちに帰れるんじゃねえのかよ!」
「いえ!あなたはその二つの『命』に対しての成果を上げていません!」
どうゆうことだ?つくづくこの精の言うことは分からない。
「なんだよ『成果』って!じゃあどうすれば帰れるんだよ!」
「あなたの『命』に対する『成果』は、この反転世界を救うことです!!」
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