第1話
「はぁ、はぁ、はぁ、・・・・」
木の幹を手すり代わりにしながら、ゆっくりそのいびつな道を上ってゆく。緩やかではあるものの、確かな上り坂だ。その途方のなさに気が遠くなりそうだが、俺は足を止めない。いや、止めるわけにはいかないのだ。この腐りきった人生に、終止符を打つために・・・・!
「うわっ!」
ぬかるみに滑ってしまった。来ていた白Tシャツとジャージズボンが泥まみれだ。だがすぐ顔を上げて、俺は歩き出した。少し擦りむいたか、肘がひりひり痛む。ちゃんと地面を受け止められないのは、日ごろの運動不足の賜物かもしれない。そんな自分を後悔しながらも、俺は歩みを進める。
「この先に、あるはず、だから・・・!」
スマホの充電なんてとっくに消え、今が何時かなんてすでに興味もない。ただ、それを求めて歩く。
歩く、歩く、歩く・・・・・
すると、目線を覆う木々の間から、強い光が差し込んできた。俺は、それに引き寄せられるように歩いて行った。そして、何日かぶりに、開けた場所に出た。
「あ、あった・・・・。」
目の前に広がるのは、泉。そう、不自然なくらいに空色の、泉。
「やった・・・・。あった・・・・。あった・・・・。」
朦朧とする中、俺は水を目指した。視界が揺らぐ。ただ、前に進んでいることだけわかる。
ドボンッ!
途端、視界が暗くなり、息ができない。そして俺は、ゆっくりどこかに落ちていった・・・・・。
「お、おきてーーーーーー!!」
「うぎゃぁ!!」
ゴチンッ!
「いってぇぇ!!!」
頭がずきずきする。鼓膜もなんだかビリビリ言っている。最悪な寝覚めの中、目を開けるとそこには水の上で悶絶している女の子がいた。
「いったあぃ・・・・」
金髪のショートカット・・・・、そして白い、一枚の布を巻いただけのような恰好、なるほど、一般人ではない。
「あ、あのぉ・・・、だいじょうぶ、ですか・・・・?」
恐る恐る、手を差し伸べながら話しかけてみる。すると、
バシッ!!
手がはたかれる。
「あのですよ!まずそこは謝るのが常識なんじゃないですか!?」
こちらを指さし、青い瞳でこちらをにらむ。奇麗な瞳だ。しかし俺はすぐその違和感を制す。
「いやこっちだって痛えんだよ!!大体そんな恰好したやつに常識は求められたくないわ!」
「な・・・!あなたこの名誉ある精に何を言いますか!これだから、現実の人間は好きになれないのです!」
女の子はおでこを赤くしながらそっぽを向いた。こうもわかりやすく頬が膨れる奴なんかなかなかいない。俺はとりあえず聞いてみる。
「なあ、おまえは誰なんだ?俺は何で寝てたんだ?なあ、教えてくれよ!」
「ふふふ・・・。遂にこのセリフを言うときがきましたね・・・・。」
女の子が不敵な笑みを浮かべながらこちらを振り返る。そして立ち上がって両手を広げ、叫んだ。
「あなたが落としたのは、この金の命ですか?それともこの銀の命ですか?」
すると、女の子の背後から強い光が放たれた。この瞬間から、俺の命を削る長い異世界生活が始まった。
初投稿です。
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