選べ危険
お題
「選べ危険」
(2021/01/17)
目の前に、よくわからない箱がたくさん置かれている。何がよくわからないのか、自分でもよくわからないけど、とにかくよくわからない箱が置かれている。そう、わかることは「これは箱だ」ということだけだ。
考えてみよう。これはどんな箱だ? じっと見つめて、観察する。観察するとわかった。大きさはバラバラで、形もバラバラ。立方体、直方体、三角錐。あれは星型、あれはハート型。素材も違う。木材、紙、プラスチック。機械仕掛けのものもあった。
上を見上げる。
【選べ】
それだけ書かれた紙があった。きっとこの中の箱から何かを選べ、という話だろう。
……困った。何を開けよう。とりあえず一つ手に取る。
この箱は、小さめの、紙でできた立方体だ。3分の1くらいのところで切れ目が入っている。自分は、この箱の開け方を知っている。
3分の1の方を掴んで、3分の2の方を上に持ち上げた。パカッ、と軽い音。中には鎖が繋がったようなデザインの指輪が入っていた。触った指先から、北極を溶かして固めたような冷たさが伝わってくる。
「本当にそれでいいのか? それは危険だ」
誰かの声が流れ込む。誰の声か? そんなことはどうでもいい。
……これではない。蓋を閉めて、その辺に転がす。
次、目についたのは星型の箱だ。自分の腕の長さほどで、金属製。てっぺんにいかにも手をかけてください、と言っている溝がある。自分は、この箱の開け方がわかる。
手をかけて、思い切り引っ張る。中にはポテトチップスがぎゅうぎゅう詰めに入っていた。思わず一つ掴み取り、口の中へ放り込む。塩味がきいていて美味しい。もう一枚、もう一枚と手を伸ばす。
「本当にそれでいいのか? それは危険だ」
また誰かの声が流れ込む。
……これではない。蓋を閉めて、その辺に転がす。
次、手に取ったのは、先程から視界の端でちらちらと光っている、機械仕掛けの箱だ。手に取ると、見た目以上に軽い。でも、開け方はわからない。歯車の回る音がする。
ふと、この箱にディスプレイが付いていることに気がついた。パスワード、と表示されている。なんだっただろうか。適当に打ち込む。
……違う。自分は、この箱の開け方を多分知っている。
自分の誕生日を打ち込むと、箱は変形して、見覚えのある薄さの物体になった。そうだ、今日のログボをもらっていない。メッセージもたくさん来ている。返信しなきゃ。
「本当にそれでいいのか? それは危険だ」
また誰かの声が流れ込む。
……これではない。電源を落として、そっと床に置く。
上を見上げる。
【選べ】
そうとしか書かれていない文字は、自分を逃がしてはくれなさそうだ。