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レンズの先にある景色

とある写真をお題にして書きました。

そのとある写真はネットのどこにも落ちてないと思います。たぶん。


制服を着た男二人が、神社で何やらお祈りをしている写真でした。

(2022/01/13最終執筆)

 例えば、クラスメイトは果たして友だちなのか、とか。同学年皆友だちなわけないのに、なぜ同じクラスというだけで友だちという括りになるのか、とか。思い返せば、小学生の時からそんな疑問を持っていた気がする。

 だから、隣で何かを深く願う彼は、別に友だちではない。先程偶然遭遇した、同じ部活に所属する同級生、という役職名。簡単に言うならばただの知り合いだ。


 ……と、俺は認識していたはずだったのに。


  ◇◆◇


 元々写真を撮ることは好きだった。でも、撮影機材を揃えるほどの熱はない。だから俺が構えるのは、昔親から貰った古いデジカメだ。スマホも最近親に買ってもらったが、滅多にカメラアプリは起動させない。何かが違うからだ。

 また、俺にはとある習慣がある。週に一度は必ず、近場でも遠くでもいいから写真を撮りに出かけるのだ。え? それなのに機材何も買わないの? 人間、慣れたものを使った方が良いときの方が多いだろう……というか、ぶっちゃけ何から何まで高いのである。そこにお金を注ぐのは無理だと、過去に思った。

 そして、なんと言っても素晴らしいのは、週に二回の活動、空気の緩さ加減、人数の少なさ。

 以上の点から、この春高校生になった俺は、写真部へと入部した。それから約三ヶ月経ったくらいのある日のことだった。

 習慣通り、今日は近場で済ますかあ、といつものようにデジカメを持って街を散策していたら。


「あれ?」


 不意に耳が、どこかで聞いたことのある声を拾った。いや、ただの聞き間違い、雑音だろうと振り払って歩こうとするが、それは叶わず。


「ね、きみ写真部でしょ、俺と同級生の」


 肩をがっちり掴まれている。相当強い力だ。

 後ろを振り返ると、自分より少しだけ背の高い男がいた。その顔をまじまじと見つめて、どこかで見たかなぁ……と検索をかける。しかし残念ながらデータが少なすぎて何も引っかからなかった。


「……誰っすか?」

「三ヶ月も経ってるんだからいい加減顔くらい覚えただろ……ほら、四方しかただよ、しーかーたーゆーう!」

「耳元で賑やか……」


 めいっぱいの迷惑な顔をしてやる。でも、頭で漢字が浮かんだので、顔と名前が一致してなかったってやつだろう。顔覚えてなかったけど。


「思い出したか?」

「はいはい思い出しやした、漢字だけ」

「ひどっ! まあ、漢字覚えててくれただけ嬉しいか」


 俺の字書くのちょっと面倒だよな〜、と彼がぼやいている。四方しか思い出してないことは言わないでおこう。ゆうの字の方が書きづらそう、というか選択肢が多そうだよなあ。


「でもさ、きみの名前の方が書きづらいよね、苗字はわかりやすいくせに」


 そう、苗字はただの佐々木なのに、とおるという字が「冬織」なのだ。冬を織ると書いてとおる。男の子にしては綺麗な漢字だよね、とクラスの女子共によく囁かれる。入学したてのときも、やはり隣の席の女に言われた。

 これならまだ「透」とか、「徹」とか、一般的だよね〜と言われそうな漢字の方が嬉しかったな、と何度も思う。もうなんでもいいんだけど。


「……って、相槌ぐらい打たんかい」

「打つ必要性を感じなかったっすね」


 ぺしっ、とまるでお笑い芸人のツッコミの様に叩かれる。なんでやねん、みたいな。彼はにこにこ笑っている。何が楽しいんだろう。

 おかしい……俺こいつと話すの初めてなはずなのに。いや、部活内での雑談中に、賑やかな声がいるもんだ、とは思っていたけれど。俺は基本口を開かないから、誰かと特別仲良くしてたわけないし、そもそも認識されてるかすら怪しい感じだったはずなんだが。

 まあなんでもいいや。腕時計を見ると、短針が四の字を指していた。

 じゃ、と言い残してこの場を立ち去ろうとする。肩に乗っていた手はいつの間にかどいていたし。


「きみはこれからどこに行くの?」


 今度は手を掴まれる。自分の手よりも冷たい。夏場なのに汗ばんでない。まるでそう、生きているか確かめたくなるような……。

 いや、まあ考えすぎだ。人と手を繋ぐ経験を最近ちっともしてないから触覚がおかしくなったんだ。そういうことにしておいて。


「……近所の神社を撮りに行きます」


 行き先を伝えればこの手が離れると信じていた。


「お、そしたら俺も着いてこっと」


 今度は腕を組んできた。どっち方向? とこちらを見て言う姿に何とも言い難い感情が湧いてくる。

 ……これはもう打てる手が無い。諦めることにし、こっちと指を指して歩き出す。


「……その距離感の近さは何ですか?」

「きみこそ、その中途半端な敬語は何さ」

「最低限の礼儀」

「同級生に礼儀なんている?」

「同級生でも他人だろ、同い年ってだけで友だちになってるわきゃねぇ」


 そう投げかけると、彼は黙ってしまった。


  ◇◆◇


 そこからしばらく、お互いに無言で歩いていた。

 てっきり彼が何かしら喋ると思っていたので、内心少し驚く。が、すぐにどうでもよくなる。

 そもそもこの状況がおかしい。そう何度も言い聞かせて、神社への道をひたすら進む。


 神社の鳥居前に着く頃には、これまたいつの間にか組まれていた腕がどこかにいっていた。

 自分いくつ分の高さだろう、とか考えながら一息つく。半歩後ろに立つ彼も、小声で疲れた、と呟いた。


「この階段上がるよ」

「うげ、まじ……? こんな歩くとは思ってなかったわ……」


 彼は既にヘトヘトな様子だ。額に汗が浮いていて、頬が少し赤くなっている。体力はさほどないのだろうか?

 とん、とん、と一定のテンポで階段を上がり始める。こういうところの階段は段差が一つ一つ違うから、普通は間違えて突っかかったりしないよう気をつけなければいけない。でも来慣れたので、なんてことない。後ろから「ひえぇ〜」という声が聞こえた。

 階段を上りきる。とりあえず山頂(?)からの写真をいくつか撮り、その辺にくっついていたせみの写真を撮り、せっかくだからお参りしてこうかな、と考えた頃にようやく階段を上りきった人がいた。


「いくらなんでも早すぎだろ……」

「そっちが遅すぎるだけでは?」


 ぜぇはぁと肩で息をしている彼を数秒見つめる。

 先程よりも頬が赤い。ちゃんと血液が巡ってるんだな……と、手を繋いだときのことを思い出しつつ、考えていた。


「……置いてくぞ?」


 待てよぉ、と後ろから声が聞こえたが、無視をして拝殿の方へと歩く。と言っても、すぐそこなのだが。

 段数の少ない階段を上る。屋根のおかげで日陰だからか、神社の空気なのか、吹く風が涼しい。ポケットから五円玉を取り出し、投げ入れる。鈴を鳴らして、二礼二拍手。目をつぶって、何かを考える。

 隣に彼が並んだ気配を感じた。彼も硬貨を投げ入れて、鈴を鳴らす。少しして、二回手を叩いた音。

 自分はある程度気が済んだので、目を開けて一礼する。隣を見ると、首を下げた彼がいた。まとう雰囲気が先程と違い、どこか真剣味を感じる。

 何願ってんだか。


 しばらくして、目を開けた彼は一度深々と礼をして、こちらを見てくる。どこか驚いた様子だ。


「待ってたんだ? てっきり気配を消して逃げてるものかと」

「……俺をなんだと思ってんだ」

「偶然会った知り合い?」

「そうだな」


 その通りだ。俺と彼は、同じ部活に入っていた、偶然遭遇した知り合い。

 しかし、この後彼によって起こされる変化を、このときの俺は知る由もなかった。

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