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翔田美琴のぶっちゃけトーク   作者: 翔田美琴
ぶっちゃけトークコーナー 2
22/29

15 とあるアルバイトの一日

 六月の初めころ、私は珍しい場所でアルバイトをした。

 場所は、神奈川県の川崎市にある等々力競技場だった。その現場に行くのは二回目だったけど、初めて等々力競技場に訪れた時の衝撃はなかなかのものだった。

 仕事は、川崎市にホームを置くJリーグの川崎フロンターレの仕事で、いわゆるイベントスタッフと呼ばれる種類のものだった。

 その仕事に行くのは最近出来た友人と共に…のはずだったけど、友人は体調を崩してしまって行けなくなってしまい、一人で行った。

 その以前の仕事ではその友人と共に行ったので、道迷いすることもなく行けた。

 だが、時間の読みを甘く見ていたのか、集合時間の30分前にたどり着くことが出来ずに、結局は15分遅れて、現地に到着した。

 それでも、責任者の方は怒ることもなく、慣れた調子で朝礼を始めた。私の他にも実は遅刻している人がいたらしい。

 イベントスタッフの仕事は今まで経験などなかった私だが、二回目ともなると何となく要領はわかってくる。

 私がその日、担当になったのは、試合時間の合間のハーフタイムで抽選が始める、ホーム・川崎フロンターレのレプリカユニフォームが当たるという抽選チラシを配布する仕事だった。


 その日は、川崎フロンターレは浦和レッズとの対戦だったのを覚えている。


 職場の友人曰く、川崎フロンターレのファンというかサポーターは優しい人柄で、負けた試合であろうが、ブーイングとかヤジとか飛ばさないらしい。

 対して、浦和レッズのサポーターは激烈なファンらしく、試合に負けようものなら、遠慮なくヤジを飛ばすのだという。それが事実がどうか確かめようと思った矢先に、実は仕事の時間は終わってしまった。

 ただ…あまり競技場の試合の観戦はしてはならないと注意をされていたが、少しだけ試合前の等々力競技場を見たら、激烈な浦和レッズのサポーターが等々力競技場の姿を見せていた。

 あの特徴的な真っ赤な集団は確かに浦和レッズのサポーターだった。

 また、試合前だったので、その等々力競技場では当然、リハーサルみたいなものをしていた。

 男性の声で抽選番号を、リハーサルなので「00000番」と言いながら、あの抽選チラシの番号を言いながらリハーサルをしていた。

 大きな液晶画面には、テレビでよく見る、解説者とアナウンサーの姿が映し出されていたのだ。

 試合前の等々力競技場をざっと見渡した。

 そこは、まさにテレビで見る世界。

 人工芝のグラウンドに、客席には特徴的な青色のファンの姿。液晶画面にはその日のスタメンの紹介の映像が流れ、思わず心の中で”おお〜っ”と感心してしまった。

 私は仕事が本格的に始まるまで、第7ゲート付近の競技場の中で仕事の説明を受けていた。

 そこは、自由席に一番近いゲートでお客様が押し寄せる場所でもあった。少しでも良い席で観戦をしたいという理由で押し寄せる場所だと、もう何回もその配布の仕事をこなしている男性が説明してくれた。

 それはそうだと私も思う。誰だって、良い席でスポーツを楽しみたい。私も多分そう思う。

 そうして…第7ゲートの前に警備員さん達が集まり、警備員さん達も、”この第7ゲートは一般客が大量に押し寄せてくるので厳重に管理をお願いします”みたいな注意をした後、川崎フロンターレのファンである観客の皆さんが押し寄せてきた。

 配布するものは、”ハーフタイム抽選券”なので文字通りハーフタイムが始まる前にそれを全部配らなければならない。

 とは言っても、終わってみれば、あっという間の仕事だった。

 そこには、私の他にも約8名の男女の方がいて、第7ゲートの階段でそれを配布した。

 観客という観客にそれを手当たり次第に渡していく。

 私もそうだし、みんなもそうだった。やっぱり、子供の観客は喜んで受け取っていく。女性の観客も喜んで受け取る。

 チケットの枚数分だけ配布するようにとも注意を受けた。

 大きな声を出して、注目を集めるように私は配布していたのを覚えている。途中で声が枯れて、飲んでいるペットボトルのアクエリアスが無くなっていったのもいい思い出だ。

 そうやって配布すること、約正味2時間。全部を配布し終わったので、控え室に戻ることになった。

 もちろん、その待機中は試合の観戦は厳禁。でも、その時間ははっきり言うと選手たちはウォーミングアップ中だったのがほんの少しだが見えた。

 

 控え室で待機中の時に、選手の入場が始まったのが記憶に新しい。

 その時の等々力競技場の熱気は、控え室にいても凄いとしか表現できない。

 誰かが亡くなってしまったのだろうか…?そこでは黙とうも捧げられていた。

 そして、試合が始まる。音だけでも十分迫力が感じられる。やがて、テレビでよく聴く応援歌が歌われ始める。

 と同時に、舞台裏で待っている私と同じ時間のシフトに入っていた人はそこで仕事の時間が終わったことを告げられた。

 帰り道で、同じシフトに入っていた人と、帰った。

 私が”道がわからないので、一緒に武蔵中山駅まで行ってもいいですか?”と聞いたら”構わないですよ”と優しく応えてくれて、共に帰った。

 その帰り道の等々力競技場は観客の熱気をはらんだ声援がかなり離れた場所まで響いていた。

 

 まるで、社会科見学でも行った気分だった。

 Jリーグの試合は一つあるだけで、裏では、様々な人達がこうやって支えていることを、ようやく知ることが出来た。

 なら、「三つの背徳の果実」のバートン財団も、様々な社員…それこそいわゆる一般社員が沢山働いているはずだ。

 その一般社員から見た”バートン財団代表取締役社長・レンブラント”とはどう見えるのだろうか?

 きっと、雲の上の存在みたいに見えるのだろうか?

 でも、案外、直に話せば…意外と、どこにでもいる普通のおじさん…少し性に対する欲と、価値観と、倫理観が違った、割と茶目っ気がある人物にも見えるかも知れない…。

 そういう話も作ってみるのも面白い…そう思ったアルバイトだった。


 余談だが…初めて等々力競技場に向かった時…私は「とうどうりき」と読んでいた。

 正しくは「とどりき」競技場である。漢字の読み間違いには注意しよう。

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