第2章 第3話 つまりこういうことだってばよ
今回はフィーアさん視点でございます。
「しかし無属性魔法ってのはすごいんですねー。透視を可能にするなんて・・・。」
うらやましそうな声を出しているこの子の名前はフジハ。彼女はここで働くようになってからまだ1年と少しの新入りだ。ちなみに今はギルドの営業時間が終わったため、私と雑談をしながらギルド内の清掃をしている。その雑談の相手は私ことフィーアだ。彼女の上司でもある。
「それは、今日登録に来たキリュウインさんのこと?」
まあほかにいないとは思ったが一応確認。
「はい。」
彼女から帰ってくるのは予想した通り肯定の返事。しかし彼女は気づいていないのだろうか。仮にもあなたが彼の冒険者カードを作成したというのに・・・。
「あなたはカード作成時に彼のスキル取得欄を確認しなかったのですか? 彼のスキル取得欄には何も書かれていなかったはず。つまり彼は無属性魔法をまだ習得していないということです。」
そう、作成した冒険者カードを彼に渡すときに気づいたのだが、彼はまだ魔法を何も習得していなかったのだ。それはつまり・・・。
「ということは、彼は偽りの職業を申告したということですか? でも・・・。」
そう、この世界において冒険者カードに記される職業に偽装はできない。偽の情報で冒険者カードを作成しようとすると、冒険者カードを作成する際に不思議作用が生じ、なぜか冒険者カードを作れない。それは、この世界においてはもはや常識だ。
「そう、偽りの情報を用いての冒険者カードの作製は不可能。となれば残る可能性は・・・。」
それはありえない可能性だったが、私にはもうそれしか思いつかなかった。私の考えの先をフジハさんが口にする。
「魔法を使わず、透視を行った・・・?」
そういうことになる。
「それしか、ないでしょうね・・・。」
そういうことであると同意するしかないが、しかし意味が分からない。どうやって透視をしたのか。そのからくりがまったくわからない。魔法を使ったと言われた方が、まだ納得できるのに・・・。
「でもなんで魔法が使えないのに、魔法を使ったふりをしたんでしょう? 素直に申告すればいいではないですか。『すみません僕はまだ魔法を習得してないんですよ。』って。」
フジハさんが新たな疑問をまえにして、あーでもないこーでもないとうなり始めるが私には何となく答えが読めていた。きっとそれは・・・。
「それは、おそらく・・・。」
たぶんだけど、私の目の輝きを見たから。楽しみにしていたものが実は見られないなんてことになればきっと私は落胆しただろう。目の前の女性をがっかりさせたくなかったから魔法を使ったふりをした。もしそうなら・・・。
「かわいいわね、あの人。」
キリュウインさんか。彼ならきっと、なにかもっと、無属性魔法を使うよりももっと素敵なことをしでかしてくれる気がする。その時がきたら・・・。
「それを初めて見るのが、私だといいな・・・。」
私は、フジハさんには聞こえないよう、こっそりと口の中だけでそうつぶやいていた。