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外伝1 とあるマジシャンのお話

私からのお年玉さ!

俺が物心ついたときには、既にそれは身近にあった。物を浮かばせる。相手が選んだカードを当てる。物を密閉容器内に貫通させる。人体を輪切りにし、再びくっつける。などなど・・・。

これらの不可思議現象をもたらす技術をウリにする職業・・・マジシャンが、俺の一家の職業だった。いつからそうだったのかはわからないが、俺もいつかその道を歩むのだろう。幼い自分は既に将来が固定されているという事実に、何の疑問も持たずにそう思っていた。

別に、それでもよかった。マジックの技術を学ぶことは面白かったし、技術を体に覚えこませる過程も苦とは感じなかったから。この頃は、『勉強・練習すること』が楽しいと感じていたから。あの頃は暇さえあれば、いや、食事と睡眠以外は、マジックにかかわることしかしていなかったと言っていいだろう。


そんなタチだったから、俺のマジックの腕がぐんぐん伸びていったのはある意味当然と言えるだろう。小学校を卒業するくらいの年には、既にマジック業界では名を知られ、『自分以上のマジシャンはいないだろう』とまで騒がれ始めていた。アメリカにとてつもない鬼才、現る!とかTVなどで取り上げられていた記憶がある。


順風満帆と言って間違いない人生だった。

だが、だからこそ俺は縛られた。

常に、マジック界のトップランナーでなければならなくなった。

同業者ですら驚嘆するマジックを生み出し、実演し続けなければならなくなった。

手持ちのネタが尽きた瞬間が来るのを、恐れなければならなくなった。

マジシャンは、マジックのネタを自ら考案することもあるが、他の人間からマジックのネタを買うこともある。どうしてもマジックのネタを思いつかない場合は、そうやってレパートリーを増やすのだ。

しかし、俺にはそんなことは許されていなかった。他者を頼った瞬間に、トップランナーではなくなるのだから。いつか来る滅びを先延ばしにするように、俺は必死に思考を動かし続ける日々を送っていた。


そんな地獄のような日々が、ある時突然終わりを告げられた。

終焉を運んできたのは、極東生まれの、一匹の黒猫だった。黒猫は不吉の象徴と言われる、とどこかで小耳にはさんだが、それは正しかった。

 奴の演技をこの目で一度見ただけで俺は悟った。こいつは俺のマジシャン生命を終わらせるかもしれないと。

奴の演技は巧かった。鮮やかに、鮮烈に、強烈に。印象を相手に植えつけるとは、こうやるのだ!と言われているような気持ちにさせられた。

だが、まだだ。

たしかにこいつは巧い。しかし、まだ俺と同等程度。俺を終わらせるには届かない。そう思っていた。あの日、あのマジックを見るまでは。


そのマジックに用いられている技法の名は、サンダーチェンジ。由来は知らないが奴がそう命名した。

現象は至ってシンプル。カードのふちを指で弾くだけで、トランプの柄を次々に変えていくというものだ。

このマジックが、俺を完全に殺した。指裁きの神が編み出した究極の指芸。数多のマジック知識を有する俺を以ってしても暴けない、そのトリック。このマジックを超えることは出来ない―。そう結論付けたのは、ソレを始めてみてから5年の月日が経った後だった。


その結論を導き出した次の日、俺は、奴に会いに行った。

そして、涙を呑んで、絞り出すように、奴にこう言った。


「あのマジックのタネを教えてくれ! 金ならいくらでも払う!」


 と。


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