第3章 第35話 あれれーおかしーぞー?
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「私がこの街に来たのは、3年ほど前にジルコムの奴に頼まれたことが始まりだった。『人間世界に潜り込んでスパイ活動をしてくれ。』と言われてな。」
補足のような感じで、お嬢様は僕に説明を始めた。が、開始早々知らない名前が出てきたので僕はいきなり話をぶった切る。
「ジルコムって誰ですか?」
「ん?ああ、ジルコムというのは今の魔王の名前だ。ここから遠く離れた場所で魔王として活動している。」
魔物がいた時点で、いるかもしれないとは思っていたが・・・魔王と言うものは、この世界では本当に存在するのか。
「奴が私に頼んだのも、私であれば大抵の荒事なら巻き込まれても対応できるし、私の見た目が人間に近かったからだろう。
でな。その当時暇だった私は奴の頼みを受けた。あの時はちょっとした旅行気分だったな。」
旅行気分でスパイ活動するとは・・・。とんでもないお嬢様だ。
「とりあえずこの国の一番端の街から探っていこうかと考えて、私はこの街までやってきた。『旅行客だ。』と身分を偽ってな。ふふ、まぁ半分は本当の身分だが。
まずはこの街で、人間どもの生活スタイル、物や金の流れ、出回っている武器、法や治安維持の手段なんかを一定期間観察することにした。一か月もしたら次の街に行こうと思っていたんだが、この街である人物に出会ったことでそのプランを変更した。」
このお嬢様の行動計画を変えさせた人物・・・。いったい何者だろう?
「その人物とは?」
「このソーア家の現当主とその妻だ。」
ああ、言われてみればそうか。ソーア家にいるのならどこかで接点がないとおかしいもんね。
「あれはいつのことだったかな? 私がこの街にある孤児院の前を歩いていた時だった。歩いていたら、知らない老婦人に話しかけられたんだ。『あなたは、あそこの施設の子なの?』とな。
その当時人間と会話をするのも面倒に感じていた私は、『そうだが?』と一言だけ残してさっさとその場を去ろうとした。だが、会話はそこでは終わらなかった。そいつは隣にいた同年代の男にうなずくと、今度はその男が私に向かって面白いことを言ってきた。
『君、うちの養子にならないかい?』とな。」
「・・・それはまた、なんというか突然ですね。」
「貴様もそう思うだろう? 『なぜ私を引き取りたいのか?』とか、『おとなしい雰囲気とは裏腹に人身売買でも企んでいるのか?』とかいろいろ考えた。
考えた末に、『何か企んでいたとしても私の脅威にはなりえないだろうし、仮とはいえきちんとした立場を獲得できるのなら悪くないか。』という結論に至った私は、この老婦人の誘いを受け入れた。そして、彼らに連れていかれた先がこの家だった。」
このお嬢様からしたら、期せずして大物の懐に入り込めたという形になるのだろうか。
「じゃあその老婦人がソーア家の当主とその妻だったっていうのは、その時にわかったんですか?」
「ああ。家に入れてもらった時に、その場で自己紹介をされてな。『自分はソーア家当主のフリナック=ソーア。こっちは妻のローカイト=ソーアだよ。』とな。思わぬ幸運だったと、あの時は内心ほくそ笑んでいた。
初めのうちはそう思っていたんだが・・・しばらくここで暮らしているうちに妙だと思うことが多くなった。」
妙なこと?
「と言いますと?」
「まず、私に今も使っている日傘を買い与えてくれたことだ。これはローカイトに『ヌホクリーデちゃんも貴族令嬢の仲間入りをしたんだから、お外に出る時のたしなみとして持っておきなさいな。』と言われて貰った物なんだが、私が『いらない』と何度言っても聞いてくれず、意地でも持たせようとした。」
これはそんなに変なことなのだろうか? 嫌がる子供に強引に自分のオススメを押し付ける親の図、というのはどこにでもあるありふれた光景だと思うのだが・・・?
「次におかしいと思ったのはこの家の窓だ。私が来てから一週間と経たないうちに、私が家にいる時はすべての窓のカーテンを常に閉じたままにするようになった。まるで、日光を家にいれないようにするかのごとくな。」
・・・。
「極めつけはこの家の料理だ。フリナックとローカイトのやつは、ニンニクをアホほど効かせた焦がし醤油を使ったステーキが好きで、3日に1度はそれをセロイグに作らせていたそうだ。だがそれも、私が来てからはセロイグに作らせないようにしていた。セロイグに聞いたら、「『医者からしばらく控えるようにと言われた』と、フリナックに説明されたから。」だと説明された。
だが、私には別の意図があるとしか思えなかった。」
日の光を当たらないようにする工夫に好物であるニンニク醤油ステーキの自重・・・。この二つの意味するところは一つしかないだろう。
「わかるだろう? あいつらは、『私が吸血鬼である』ことにたった一週間のうちに気付いたというわけだ。」
「ヌホクリーデさんがボロを出してしまったわけでもなく?」
「ああそうだ。」
うなずきながら、ちょっとこちらをにらむお嬢様。僕の前で自分がうっかりミスをしてしまったことはさっさと忘れろと言いたげな目だった。
お嬢様の話は、まだまだ終わらない―




