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第3章 第27話 もうひとつの決着

お待たせいたしました! 3月最初の更新です!

今回は、いつもの足立視点でのお送りとなります!


 西村があのお嬢様を見事に下すのを、僕達はその目でしかと見た。西村は、細い綱を最後まで渡りきってみせたというわけだ。今回の勝負についてあいつは『勝率は60%くらいだ』とか抜かしていたが、フタを開けてみれば大嘘もいいところだ。勝率はかなり甘く見積もって30%くらいだっただろう。仕方ないとはいえ危なっかしすぎた。

 勝負を終えた西村は、テーブルに残されたコインとコップを持ってこちらに戻ってくる。あれやこれやと言うのは後でいいだろう。今は、そういうことを言う時ではない。


「お疲れ様でした、師匠。」


 軽い口調でそう口にし、右手を上げる。『自分も忘れるな』と言わんばかりに、マリーが僕の頭の上できゅーきゅー鳴きながら飛び跳ねる。ジャンプするたびに頭が揺れるので早めにやめてほしい。


「ああ。お疲れ様だ、ニシムラ。」


 オルガさんも西村の労をねぎらい、片手を挙げる。オルガさんは左手を挙げた。と来れば、あとはやることは一つしかない。


「お疲れっ!」


 『やりきった者だけが持つやりきった感』を全身からまき散らして、西村は僕たちと手を打ち合わせる。マリーは西村の肩に飛び移り、手を伸ばして西村の頭を撫でていた。

 しばしの間喜びを分かち合う僕達。しかし、そこに水を差す者が現れる。


「ニシムラ、と言ったか。一つ問いたいことがある。」


 それは我らが宿敵、ヌホクリーデ=ソーアさんだ。僕たちはそろって彼女に向き直る。


「今回の勝負、貴様はどこまで見抜いていたのだ?」


 それを聞くのか。それを聞くということは、自分で『イカサマをしていたこと』を証明することになると思うのだがいいのか。まぁ、こっちもこっちでいろいろとイカサマのようなことをしている手前、人のことを強くは言えないが。

 質問された西村は、素直に答えた。


「最初の足立との勝負の時点で、『コインの位置座標を特定するなんらかの方法を持っている』って可能性が頭をよぎっていた。でもあくまでそれだけで、具体的な方法も、特定の精度も、なんもわかってなかったぜ。」

「ならどうして、あのような手で勝負に出たのだ? 手の出し方を変えるだけで、こちらの策を潰せるとどうして気付いた?」


 そこは、僕も気になっていた。どうして西村は、アレが有効策であると気付けたのだろうか。


「いや、有効かどうかなんてちっともわからなかったぜ。」

「「「は?」」」


 西村からお嬢様に返された返事は、どうやらお嬢様にも想定外だったようだ。僕、オルガさん、ヌホクリーデさんの声がきれいにハモる。マリーは、声を出さずただただ目を丸くしていた。


「いや、だって具体的な方法が分かってないのに、策が有効かどうかなんてわかるはずないだろ?」


 それはそうだけども・・・。


「あれでコインの位置情報をかく乱できるかはどちらでもよかった。本当に重要だったのは、『ヌホクリーデお嬢サマがコインの位置を特定しつづけるのに、代償を払う必要があるかどうか』という点だけだったんだぜ。」

「どういうことだ?」


 ヌホクリーデさんが西村以外のこの場の全員のセリフを代弁する。


「それを説明する前に、一つ確認。」


 なにをだろう。


「あの勝負の時、ヌホクリーデお嬢サマは『俺がコイン位置特定の手段を見抜けている』と少しでも思ったか?」

「いや、まったく思わなかった。」


 即答するお嬢様。


「だろうな。」

「それがさっきの疑問に関係するのか?」

「ああ。大事なことさ。」


 西村はここで一息つく。一度考えを整理しているようだ。


「一番最悪だったのが、『コイン位置特定の手段が、3次元的にcm単位で正確に把握でき、かつその手段に維持コストがまったくかからないものである』場合だ。しかし、そんな魔法やスキルはこの世界始まって以来、未だに確認されていない。」


 うなずくお嬢様。僕はと言えば、そんなことは初耳だったのでひそかに驚いていた。


「となると次に最悪なのは、『コイン位置特定の手段が、3次元的にcm単位で正確に把握できるが、維持コストがかかるものである』場合だ。」


 まぁ、そうなるな。


「ここで、ちょっと想像してみてくれ。

今、自分は500G持っているとする。相手は右手か左手にコインを隠し持っていて、コインの位置を当てられれば勝ちだ。自分は100Gを使えば、それを使った時点でのコインの位置を正確に知る手段を持っているが、相手はそのことを知らない。」


 ・・・・・・うん。


「さて、この時、勝負に勝つために自分は何G使う? はい、足立。」


 えっ。


「ん・・・そりゃあ、一回使って場所が分かればいいし、100G?」


 でいいよね?


「だな。」

「ああ。」

「きゅ。」


 他のみんなも、僕の考えと同じのようだ。


「そう。その条件なら、普通はそう考える。100Gを使ってコインの場所を特定して、右手か左手かを宣言すればそれで勝ちだ。」


 ですよね。


「だが、『相手が、コインの位置を自分にわからないように一度だけ好きな時に入れ替えられ、かつ自分はそのことを知らない』という条件がついたらどうだ? 勝負の結果はどうなると思う?」


 その場合は・・・。


「こちらが100Gを使い、自信満々に場所を宣言したところで、相手は手を開く前にコインの位置を入れ替える。そうされればこの勝負は相手側の勝ちになるな。

・・・まさかっ!?」


ヌホクリーデさんが質問に答える。そして、自分で口にして彼女は気付く。これは・・・。


「そう、それが俺のしたことだ。」


 お嬢様が気付いたように、このたとえ話は、まさに今回の勝負の結果まんまだ。


「もし仮に100Gを使わなくてもコインの場所を特定できるなら、その手段を相手が手のひらを公開するまでその手段を使い続ければ確実に勝てる。コインが移動したとしても、それがリアルタイムでわかるからな。だが、予算に余裕があるとはいえ、その手段にコストがかかるとなれば・・・必要最小限のコストで済ませようと思ってしまうのは当然のことだ。

だから、そこを突いた。」


マジシャンは、精神的な隙を常に突く。西村の説明を聞いて、改めてそのことを思い知る。


「・・・完敗だな。これは。」


お嬢様はため息とともにそうつぶやく。そのつぶやきとともに、場の空気が軽くなったような気がした。


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