第3章 第26話 お嬢様と西村 その7
今回も西村視点でお送りいたします~。
「だから、右手だと言っている。
その、上側の拳にコインがあるはずだ! 私はその可能性に賭けるぞ!」
コインを使ったちょっとしたギャンブル。万策尽きたお嬢サマは、やけっぱち気味にそう宣言した。
「OK。右手ですね。本当にいいんですか? 今なら変更できますよ?」
目の前のお嬢サマに確認をとりながら、俺はのらりくらりと時間稼ぎをする。このお嬢サマのことだ。『己が宣言した答えの取り消し』なんて最初からしないだろうが・・・この質問。実は意味のある行為なのだ。ああ言えば・・・このお嬢サマは確実に答えを変更しないだろう。そうであってくれなければ俺が困る。このお嬢様には、ずっと俺の右手だけに集中していてもらいたいからな。
「変更はない! その右手だ! いいからはやくその手を開けろ!」
高飛車に俺に命令してくるお嬢様。ふむ・・・いい感じに精神的余裕を失っているな。この状態なら、今このお嬢様の世界は、『俺の右手だけに収束している』と言っていいだろう。この状態に持っていくことが出来て、内心で少しだけほっとする。
「わかりました。では、結果発表と行きましょうか。それでは、御開帳~~。」
俺は右の拳を、岩が山から転がり落ちるようなイメージで、拳の握りを緩めながら俺から見て右側に回転させはじめる。左拳の横で握っていた右拳を開くためだ。ゆっくり動かすと怪しまれる可能性があるので、アクションは早めにすることを意識する。無論御開帳とか言っている今この瞬間も、俺の右手にはまだコインが入っている。このまま手のひらをさらせば、俺の負けだ。だからこそ、ここで仕掛ける。
緩んだ右拳が60°ほど回したところで、右拳の内側が左手親指の真横に来る。この一瞬の間に、左手の親指を使って、右手の中のコインを左手の中にすばやく収納する。この左手親指の一連の動きは、緩んだ右拳が死角を作っているため、このお嬢サマからは確認できない。さらに一応の保険として、間違っても左手に注目されないように予防線も張っておいたため、バレる可能性はほぼ0というわけだ。
コインを移し終えた俺は右手を完全に開く。無論、そこにコインは・・・ない。
「残念ながら・・・はずれのようですね。」
いけしゃあしゃあと宣告する俺。
「そんなバカな!」
己が座っていた椅子を蹴倒し、お嬢サマは俺の右手を直にもにもにと触って検分しはじめる。指の隙間をも探る徹底ぶりだ。
「こんなこと、ありえん!」
本当ならな。
「ところがどっこい! ありえるんだぜ。ほら。」
俺は、開いた右手の隣で左手も開ける。そこには当然・・・コインがあった。これで、完璧に・・・。
「俺の勝ちだ。」
「くっ・・・。
くそおおおぉぉぉぉぉ!!!」
お嬢サマは両の拳を勢いよくテーブルに叩きつける。台パンというやつだ。相当悔しかったんだろうな。
かくして、なんとか俺はこのお嬢サマに勝利した。




