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第3章 第24話 お嬢様と西村 その5

今回は、西村視点でお送りいたします。


「左手だ。」


 目の前のお嬢サマのその宣言を聞いた俺―西村遊稀は、素直に左手を開く。そして、この場の全員に、そこに宣言通りコインがあることを確認させた。


「・・・お見事。」


 俺は素直に賛辞を贈った。


「フゥハッハッハッハ!! どうだ貴様よ!このくらい、私にかかればどうとでもないわ!」


 さっきの勝負では足立に指を突き付けて高笑いしていたが、今度は俺に指を突き付けて高笑いを繰り出してきた。これで師弟そろって笑われたことになるのか。

 だが、そんなことは問題じゃない。今の勝負で、俺の予想は確信に変わった。それだけの価値のある情報を、このお嬢様は漏らしてくれたのだ。


「確かに・・・。これは一筋縄じゃあいかないな。」


 俺は、悔しそうに聞こえる様にそう漏らし、右手を自分の腰にパン!とたたきつけた。一見、この動作は己の気合いを入れ直すための動きに思えるが、この動きの目的はそこじゃない。右手に未だ持っている、『足立が勝負に使用したコインと同額の、前もって用意しておいた別のコイン』をさりげなくポケットに隠すための挙動だ。


 なぜ、そんなことをする必要があるのか? それを説明するためにも、今のリハーサルにおいて俺がやったことを、順を追って説明しよう。まず、俺は右手に前もって一つ別のコインを握りこんでから、テーブルに近づいた。そして、テーブルの上に置いてあったコインを右手で掴み取った。ここで、分かりやすくするためにテーブルに置いてあったコインを『コインA』、俺が事前に手の中に仕込んでおいたコインを『コインB』としよう。

 『コインA』を拾った俺は、まず最初にそれを手の中で『コインB』とすり替えて親指の上に置いた。このアクションは、お嬢サマに見えないように握りこぶしの中でなされるので、お嬢サマにばれる事はない。そして、その『コインB』を親指で弾き、空中を飛んでいる『コインB』が落下運動を始めるその前に―舞い上がっているコインにお嬢サマが気を取られている隙に―右手の中に残っている『コインA』を、左手に持ち替える。このコインの受け渡しのアクションだが、プロマジシャンレベルになれば0.1秒以下以内の時間に十分可能であるため、お嬢サマが空高く打ち上げられて始めているコインに注意が行っている間に余裕で受け渡すことが出来る。

 あとは、落ちてきた『コインB』を右手でキャッチし、どちらの手にコインがあるかを尋ねるだけだ。勝負が終わったあとに逆の手からコインが出てきてしまうのはマズイため、証拠を隠滅するためにコインをポケットに隠す必要があったというわけだ。今回のリハーサルではどちらの手の中にもコインが残っているため、どちらの手を宣言されたとしても俺の負けになってしまうが、そこはリハーサルなので問題はない。重要なのは、この勝負でお嬢サマが宣言した手が『どちらであったか』の一点だけだ。

 なぜ、俺が今回リハーサルなんていうものをはさんだか。その理由は至って単純で、俺の推測を確信に変えるためだ。

 俺は、足立との勝負を見ていて、『このお嬢サマはなんらかの方法を使って目で追わずとも、自分がターゲット認識したコインの座標を特定できるのではないか』という考えに至った。そうでもしないと、あの勝負の結果に俺の中で説明がつかなかったからだ。しかし、こんなものはあくまで俺の予想でしかなく、本当にそうであるとは断言できない。そこで、俺はあのリハーサル勝負を仕掛けた。あの勝負では、純粋にコインの位置を目で追えているのならば間違いなく『右手のコイン』を宣言してくるだろうし、俺の仮説が正しいとするならば『左手のコイン』を宣言してくるだろうと予測できるからだ。結果はご存知の通り、『左手のコイン』が宣言された。それも、自信をもって、だ。つまり、俺の仮説が正しいという可能性が濃くなった、というわけだ。


「勝負の流れは、今ので理解いただけましたかね?」

「ああ。十分だ。別にリハーサルするまでもなかったんじゃないか?」


 お嬢サマはそう言うが、そうもいかないんだよ。俺にも目的があったからな。


「じゃあ、本番。・・・いくぜ。」


 そう言って俺は、左手のコインを右手の親指の上にセットした。


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