第2章 第1話 見える・・・見えるぞ・・・!
ここから、第2の人生がはじまるのです・・・!
気が付いたら、どこかの大通りの片隅に立っていた。
「うわ、本当に来ちゃったよ・・・。」
周りを見渡してみればそこはヨーロッパのような街並み。日本ではまず見られないような白い建物がよく整理されて並べられている。すこし遠くに見える丸底フラスコのような建物はなんなんだろうか?非常に興味深い。しかし何よりも目を引いたのは・・・。
「まさかリアル獣人をこの目で見る機会が訪れようとは・・・。」
目の前を、決してつけ耳などではない、リアルなケモノミミをつけた猫っぽい獣人の子供と犬っぽい獣人の子供が互いの手を取り合い、走り回っている。なんというか、心がなごむ光景だ。
「それはまあいいとして、とりあえずは・・・。」
さて、まずは何をしたものか・・・。こういう時はだいたいとるべき行動は決まっている。日本にいたころは異世界転移ものの小説をネットで読みまくっていた僕だ。ここからどうすればいいかは大体分かる。まずは・・・。
「冒険者ギルド的なものをさがそう! それしかない。」
そういうわけで、僕は揚々と歩みを進めた。
☆
道端にいたおばちゃんに道を尋ねて歩きとおすこと10分。僕は冒険者ギルドと呼ばれている建物の前にいた。建物の入口に、目印として教えられた盾と剣で構成された旗がはためいていたから間違いない。
「では・・・いきましょーか。」
僕は深呼吸をひとつしてから扉を開けた。そしてとりあえず受付の前に出来ている行列に並ぶ。
「こうしてみると、本当にいろんな人種の人がいるんだってわからされるなあ。」
行列に並ぶエルフっぽい人やドワーフっぽい人や獣顔の人・・・もちろん普通の人間―ヒューマンといったらいのだろうか―もいるが、その割合は、だいたい行列を構成する人数の中では3割くらいだろうか。僕はヒューマン(でいいのかな?)の数の少なさを意外に思わずにはいられなかった。
「次の方どうぞー。」
あたりをきょろきょろしてたらいつのまにか自分の前には誰もいなくなっていた。僕は急いで呼ばれた受付の前に向かう。
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
マクロナウドで鍛えられたのかと思ってしまうような素敵スマイルをかます受付嬢。そのスマイルは完璧の一言に尽きた。しかし、ここで一瞬も隙を見せずに行動に移れるのがプロだ(何のかは自分でもわからないがそこは気にもしていないし気にしてはならない。)。僕はすかさず行動に出る。
「はい、じつは冒険者として登録したいのですけど・・・。」
こう答えると、受付嬢の人は、
「わかりました。では、まず冒険者カードを作成しますのでこちらの紙に必要事項をお書き下さい。」
の言葉とともに、謎の紙を渡してきた。『なんか最近必要事項を紙に書くことが多いなあ。』と思いつつそれを受け取る。紙に書かれた文字は日本語ではなかった。しかし、異世界にわたる前にアオイに言われたとおり、不思議言語が読めてしまう。その意味が分かる。まるで、『あっ、これ真剣セミでやったことある問題だ!』ってくらいによくわかる。不思議言語文字を書くのも、書こうとしている言葉を示す文字列が自然と頭の中に浮かんでくるので問題なく出来そうだった。すらすらと借りたペンで必要事項を記入していく。空白を埋める上でとくに詰まるところはなかった。そして書き終わった紙を受付嬢に渡す。
「はい、ありがとうございます。では少し確認させてもらいますね。お名前はショウ=キリュウインさん、21歳、レベル30、職業は無属性魔法使いと。」
「ええ、その通りです。」
「わかりました。ではその内容でギルドカードを作成しますので少々お待ち下さい。」
そう言って、後ろに振り返り、「フジハさん、これよろしく。」と別のギルド員に例の紙を渡す受付嬢。その様子をぼーっと見ている僕。と、そこで受付嬢が僕に話しかけてきた。カード作成まで僕が暇しないようにだろうか。なんとやさしい心遣いだ。
「キリュウインさんは無属性魔法使いなんですよね。私、じつは無属性魔法って見たことがなくてですね、前々から無属性の魔法をナマで見てみたいって思っていたんです。」
「・・・そうなんですかぁ。」
とりあえず適当に相槌を打ったがこの流れはまずい。このままでは何か魔法をみせてくれって流れになるに決まっている。なんてこった。僕はまだ誰かから魔法を教わったりしてないからなにも魔法を習得していないんだ。それを目の前の彼女に言えるのか? 否だ。その理由は彼女の目を見てみれば一目瞭然だ。めちゃくちゃキラキラしてらっしゃる。そんな彼女の輝く瞳を曇らせていいのか? これも否だ。しかし、こちらには打てる手がない! この状況、かなりピンチだ・・・!
「ちなみに無属性魔法使いってここでは珍しいものなんですか?」
ひとまず応急処置として話題を変えてみる。
「はい、かなり珍しい方だと思いますね。魔法使いの中でも無属性が主属性になっている方は、魔法使いの中でも割合的に1000人にひとりいるかいないかくらいって言われるほどですし。ですので無属性魔法はかなり珍しい魔法だと言うことが出来るんです。実際、私も無属性魔法使いの方にお会いしたのはあなたが初めてなくらいですし・・・。そういうわけで、さあ、何かやってみせてください!」
しかしまわりこまれてしまった!
ぐっ・・・どうする・・・万事休すか・・・! ん、いやまてよ・・・。そうだ、あれを使えば!
あれを使えばそういう魔法を使ったって言い張れる! そうと決まれば・・・。
「わかりました。では、僕のとっておきを披露しましょう。」
「何を見せてくれるんですか?」
「とっておきを披露する前にあなたにしてほしいことがいくつかあります。まずあなたの名前を紙に書いてください。ただし、書いているところを誰にも見せないようにしてください。書けたら僕に教えてください。」
そう言って、僕は後ろを向く。
「書けました。」
しばらくカリカリとペンの音を響かせた受付嬢が知らせてくる。僕は後ろを向いたまま、さらに指示を出す。
「わかりました。では、その紙を小さく折りたたんで手の中でしっかりと握って下さい。」
言われたとおりに紙を小さく折りたたみ、手の中にしっかりと封印する受付嬢。ここに来てようやく、僕は正面を向いた。
「さて、僕はまだあなたの名前をうかがっていないし、僕とあなたは初対面。そしてあなたは名札を付けていないため、僕にはあなたの名前を前もって知る手段がありません。」
「はい。」
こくりとうなずく受付嬢。さあ、ここからだ。
「僕が今から使う魔法は無属性魔法の一つ、透視の魔法。あなたが紙に書いた名前をこの魔法を使って当てようと思います。」
ここで受付嬢が『そんなことありえないわ!』みたいなことを言ってくれれば完璧だ。その流れで行けば、流れの果てには僕が透視の魔法を使ったことにできる!
だが現実はそう甘くなかった。受付嬢は『ひらめきました。』とでもいいたそうな顔でこう言ってきた。
「残念でしたね。私には種がわかりましたよ。事前に誰かから私の名前をうかがっていて、さも透視の魔法を使ってメモの内容を見抜いたかのようにしたいのでしょう?」
まだまだですね。と言いつつにやにやしながらこちらを見てくる受付嬢。クッ・・・これは予想外だ・・・。しかし、なんとかして透視の魔法を使うような流れに持っていきたい・・・。そうだ。ならば、こうするか。
「じゃああなたのレベルは?あなたのレベルを誰かに話したりはしてませんか?
もしあなたのレベルも魔法で当てることができたら、この魔法、信じてもらえますか?」
彼女がもし自分のレベルを誰かに話していなければそれがベストだ。仮に誰かに話していたとしても、その誰かにあてはまるのは彼女の友人くらいだろう。そして、彼女は『自分の友人が他人に自分の友人の個人情報をみだりに漏らす』とは受付嬢も考えないはず・・・。
どうでる・・・?
「まあ、私のレベルを知っている者はいないわけではないですが・・・彼女たちが話すとも思えませんし・・・。わかりました。じゃあ私のレベルもこの紙に書き足しますので見事当てて見せて下さい。」
そう言って受付嬢は後ろを向き、さらさらと先ほどの紙に何かを書き加える。しばらくして彼女は紙を小さく折りたたみ、こちらに向き直った。
「さぁ、言われた通りに書きましたよ。どこからでも透視をやって見せて下さい。でも透視の魔法はまだ机上の空論だって言われているんですよ。あなたにそれができるんですか?」
挑戦的なセリフを吐く受付嬢。そのわりにはその瞳がキラキラしている。そんなこと出来ない。という思いが半分、この人ならきっと・・・という期待が半分。と言ったところだろうか。
なんだかだましているようで気が引けるなあと思えてきた・・・。いかん、罪悪感で押しつぶされそうだ。でも、ここでやめるわけにはいかない。
「そう言われてるからこそとっておきなんですよ。では参ります。」
少しうつむき、右手を前に少しだけつきだし、左手は顔の左半分に当てる。さらに目を閉じて口パクで適当に呪文を唱えているふりをする。そしてそれと同時に左目を少し開けて受付嬢をこっそり指の隙間からじっと見つめる。そうすれば、彼女のとなりに彼女の情報を記したウィンドウが僕の視界に出てくる! そしてそのウィンドウは、僕にしか見えないから証拠が残らない!
つまり、今この瞬間、僕は透視の魔法を使ったことにできるんだ!
やがて彼女の右隣にウィンドウが浮き出てくる。そこには、『フィーア=ヴェイル、LV:45、HP:1250』と書かれていた。僕はそれを読み上げる。
「わかりましたよ。あなたが紙に書いたのは、『フィーア=ヴェイル、LV:45』です!いかがでしょう?!」
受付嬢が折りたたんだ紙を開ける。そして現れる『フィーア=ヴェイル LV:45』の文字。
それが確認された瞬間、いつの間にか集まっていたギャラリーから喝采がとんだ。