第1章 最終話 最終調整は済んだか? ではいくぞ!
いろいろ悩んだ結果、ボーナスポイントはこのように割り振ることにした。
HP:1000+100=1100
MP:1000+300=1300
筋力:500+0=500
防御力:500+300=800
素早さ:500+100=600
精神力:500+400=900
せっかく魔法が使える異世界に行くのだからと、魔法を使う上で重要になってくる値に多めにポイントを割り振ることにした。攻撃手段はメインを魔法にする予定なので、筋力はそのままに、防御力を上げることにした。これでポイント割り振りについては思い残すことはない。異世界での名前だが、出牛唆大学でのあだ名をとって、ショウ=キリュウインとすることにした。それと向こうでの職業についてだが、魔法をいっぱい使いたいので『魔法使い』とすることにした。
さて、ステータスも決定し、この紙にも書いたことだし、アオイさんを呼ぶか。
「アオイ~、できたぞー。」
「おお、結構長いこと考えておったが、まとまったようじゃの。」
「うん。」
うなずいて、例の紙をわたす。
「ふむふむ・・・職業は魔法使いか。特に使ってみたい属性とかはあるのか?」
特に使ってみたいものねえ・・・。
「そーいうのは特にはないかなあ。」
「そうか、では職業は無属性魔法使いにしておくぞ。無属性魔法使いはどの属性の魔法も使えるすぐれものじゃし、無属性魔法使いにしか使えない魔法もあるからな。職業を聞かれたらそう答えるのじゃぞ。それと、スキルとか魔法の習得に関してじゃが、人から教わるか独自に編み出すかしないと習得できんから注意するんじゃぞ。
では、これはおぬしの門出を祝してワタシからのプレゼントじゃ。」
そういって、アオイは上部にチャックのついた巾着を僕に渡してくる。表面にかわいくデフォルメしたアオイのパッチワークが縫いとめられているところがなかなかかわいい一品である。
「これは?」
「おぬしがウンウン唸ってる間にワタシが手作りした財布じゃ。この財布はすごいんじゃぞ。なにせ、財布に入れておいた分までのお金ならどんなに中途半端な値段でも確実にその値段分だけお金をそこから引き出せるのじゃからな! なぜか小銭を入れてなくても、半端な額を引き出そうとすると小銭で出てくるがそこは気にしてはならんぞ。ちなみに中には50000G入れておいたぞ。」
「いろいろと理屈を超越していてすごいな・・・。ありがとう、アオイ。大切に使わせてもらうよ。」
地味に便利な品をもらってしまった。僕はなくさないようにしっかりとズボンのポケットにおさめる。
「れ、礼はいいのじゃ。ワタシが好きでやったことじゃからな。」
照れていらっしゃるアオイさん。これは珍しい。しかし、ここでひとつ気になることがあった。すかさず、僕はアオイに聞く。
「ちなみにGってのは異世界でのお金の単位?」
「そうじゃよ。価値基準はだいたい『1G=1円』くらいと考えるとよいぞ。
それから今のとは別に、もうひとつ渡すものがある。」
まだ何かくれるのか。僕はそんなにこいつに気に入られるようなことをしたっけか・・・。
「ん、なに?」
「そ、そのままだと遠いから、もっと近づいてきてくれんかの?」
「こう?」
そういって僕はアオイのもとに近づく。いまはだいたい3歩分くらいの距離があいている。
「もうちょっと近くに・・・ええい、もうめんどくさいのじゃ!」
そういきなり言うと、アオイさんはいきなり左手で僕の左肩をつかみ強引に自分のもとに僕を引きよせ、自分の顔を僕の顔に近づけてきた。なにする気だ。
「いくぞ・・・動くでないぞ。」
そういってアオイは左腕で僕の頭を動かないように強引に抑え込むと、何かのワザを発動したのかアオイの右手が青白く輝きだす。きれいな光だなぁと思いつつ、ぼーっとその光を見ていたら、その光の持ち主は、光っている己の右手の人差し指と中指、それから親指を、僕の左目にいきなり突っ込んだ。
「!?!?!?!?」
それは突然の凶行だった。思わずアオイの魔の手から逃れようと頭を振ろうとするが、思いのほか彼女の力は強く、逃げられない。
「動くなと言っておろう!痛みはないはずじゃ!もう少し我慢せい!」
アオイが叫ぶ。感覚がマヒしているだけなのかそれともこれも神の御業ゆえなのか、確かに言われた通り痛みはない。素直にアオイの作業が終わるのを待つ。ほどなくしてアオイの右手が僕の左目から引き抜かれた。そのまま、アオイは僕から数歩離れる。僕の体の調子に特に変わったところはないようだが・・・。
「これで完了じゃ。今行ったことについてじゃが・・・。説明するよりも実際にやってみた方が早いじゃろう。ワタシに注目してじっとみつめてみるのじゃ。」
「こう?」
言われたとおりにじっとアオイを見つめる。するとすぐにアオイの右側(僕から見て)になにやらウィンドウが出てきた。何か書いてある。
「なんかウィンドウみたいなのが出てきたよ。名前:アオイ、職業:神、LV:10000、HP:456240って・・・レベル10000!?」
「おお、どうやら無事にできたようじゃな。先ほどワタシがおぬしの目をちょちょいとやっちまったことで、おぬしは注目したものについての情報を少しじゃがウィンドウに表示できるようにしたのじゃ。生物をみればその生き物の名前とレベルとHPを、無生物ならばそれの簡単な説明をウィンドウに表示できるぞ。このウィンドウはおぬしにしかみえないからな。使用中は周りの人に変な眼で見られないように注意するんじゃぞ。
これを出来るのは、おぬし同様に神と出会い、直接目をいじられた者だけじゃ。それからワタシのレベルについてじゃが、まあワタシは仮にも神様じゃからな。レベルがそこらのやつらとは少しばかりちがうのじゃ。」
いやいや少しばかりって次元じゃないでしょうに。っていうか神って職業なのか・・・。
「アオイのレベルにはびっくりしたけど、助かるよ。ありがとう。」
「う、うむ。礼は良いのじゃ。さて、これであとはおぬしを異世界に送るだけなのじゃが・・・。」
「なんか問題でもあるの?」
「・・・いや、なんでもないのじゃ。では、おぬしを異世界に送ろう。」
キザなポーズをとり指を鳴らそうとするアオイ。しかし、しゅっという指が擦れる音しかしなかった。
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
決めポーズのまま固まるアオイ。あ、顔がどんどん赤くなっていってる。かわいいやつめ。
「うにゃああああ、いまのはなしじゃあ!忘れるのじゃあ!」
真っ赤な顔でうでをぶんぶん振り、ひたすら喚き散らしてからもう一度指を鳴らすことを試みるアオイ。今度はきちんと『パチン!』といういい音が鳴った。するとアオイの背後にぽっかりと人一人が通れるくらいの穴があいた。中は黒い渦が渦巻いている。渦だけに。
「これを通れば、自然と異世界・・・ソアイ=フィリアの世界にたどり着くじゃろう。幸運を祈っておるぞ。」
「・・・・うん。」
異世界に行けるとなって興奮もしたけど、やっぱりこの段になると恐怖のような感情が胸に去来する。異世界でもうまくやっていけるのか、という不安が押し寄せる。でも・・・。
「こわいのかの?大丈夫じゃ。ほれ、俗に言うじゃろう。神はいつでもあなたを見守っていると。おぬしにはワタシがついておる。恐れることはない。さあ、その扉をくぐるのじゃ。」
不思議だな。アオイに言われるとすごく安心する。まるで幼子が母親に抱くような安心感を覚える。今、初めて会っただけの関係のはずなのに。
なぜか不安を覚えていることをアオイには悟られまいと思ったから。アオイの言葉に自然と安心できたから。僕は何でもないような調子で、
「うん。行ってくる。」
と、その黒い渦巻に向かって進み始めた。しかし、扉をくぐって3歩進んだところで、
「そ、そうじゃ。最後にひとつ聞かせてくれぬか。おぬしはワタシのイカサマ賽を使って12を出すという奇跡を起こしたじゃろう。それはつまりおぬしはひょっとしてワタシと同等かそれ以上の力を持った神ということなのか・・・?」
と、こころなしか震えている声でアオイに尋ねられた。
事故に巻き込まれて死んじゃってる時点でその予想は違うとわかりそうなもんだし、サイコロはイカサマで出目を調整しただけなんだけど、でも、そうだな。ここはこう返すことにしようかな。
「そうだなあ。僕は、神様なんかじゃあない。どこにでもいそうな普通の人間さ。」
「じゃったらどうして・・・?」
「普通の人間だけど、ある技術を教え込まれてる人間なんだ。それは・・・。」
「それは・・・?」
「魔法さ!」
その言葉を最後に残し、僕はいつぞやの重さんのように、右手をひらひらふりながらその不思議空間から姿を消した。彼のようにサマになっていたかは自信が持てないが・・・。
「・・・・・・・。」
あとに残されるアオイ。彼女は僕の答えにしばらくほうけたあと、
「嘘じゃッ!!!!!!!」
と、ちょっと人には見せられない顔でシャウトしたそうな。
次回、ようやく異世界編に突入です。