第3章 第13話 お嬢様とコイン その3
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「どこに隠すかな・・・。なかなか悩ましいものだな・・・。」
人差し指で己のこめかみをコツコツ叩きながら、ヌホクリーデさんは思考にふける。どこに隠すのが正解なのか? おそらくこのお嬢様が最も重要だと考えているポイントはそこだろう。であるからこそ、この時点でこれほどまで考えている。参考にできるデータと呼べるものは、先ほどの一連のやり取りのみ。たったそれだけの少ない情報から、考えられうる限りの最善手を思考により導き出す。それを為すために、あれやこれやと悩みながらもいろいろと考えるのだ。
そのような、『考察を進めている時間』は面白いものがあるが・・・『考察している人間を観察する』というのもまた、面白いものだ。そんなことを、ヌホクリーデさんを見つめながら思う。
「・・・よし、決めたぞ。ここにしよう。」
3分ほどの黙考ののち、そう言ってヌホクリーデさんがコインを隠したのは、真ん中のコップだった。先ほどの開始位置と同じ場所である。
「そこで、いいんですか?」
念のために確認をとる。
「あぁ。ここでいい。・・・それとも、この場所では不服か?」
ニヤリ、といささか黒い笑みを浮かべるお嬢様。なかなか悪役っぽい笑顔だ。
「いえ、そんなことはありません。・・・では、コップを移動させますよ。」
スッスッスッ・・・と、僕は何回かコップの場所を入れ替える。ある時は、隣同士のコップの位置を。またある時は、腕を交差させるように大きく動かし、両端のコップの位置をそれぞれ入れ替える。コップを入れ替えるスピードは、一つの入れ替えに1秒程度かかるかどうか、といったところだ。間違っても、先ほどのフェイントのような高速の移動はしない。今回はそれが目的ではないからだ。
6回ほどコップを移動させたところで、僕は手を止めてヌホクリーデさんに質問する。
「では、問題です。コインは今、どこのコップにあるでしょう?」
両手を広げて、『自分は手の中にコインを隠し持ってはいないですよ』というアピールをしつつ、コップを両手で示す。ヌホクリーデさんはあきれたような声を出して僕の質問に答えた。
「貴様は私をバカにしているのか? こんなもの、さっきよりも目で追うのは簡単だぞ。間違えるわけがない。その左端の・・・貴様から見て右端のコップだ。」
ヌホクリーデさんは少しイラついたような表情をしながら、僕から見て右端のコップを指さす。その態度で僕は確信する。「これは間違いなくかかった。」と。僕は勝利を確信しニヤリと嗤う。さっきのお返しだ。
「本当にそうですか?」
「ああ。間違いない。」
「では、もし仮に・・・仮にですよ? 仮にこのコップの中にコインがなかったら・・・どう思いますか?」
「コインがなかったら・・・だと?」
「ええ、そうです。」
その言葉にヌホクリーデさんは不機嫌そうな表情を収め、真面目な顔で少し考えてから答える。
「真っ先に疑うべきは魔法だな。だが、魔法を使用したのであればこの私が気付かないはずがない。」
なぜそんなことが言い切れるのか甚だ疑問だが、このお嬢様がそういうからにはそうなんだろう。それならばそれで好都合だ。
「だから・・・そんな仮定は、ありえない。」
ありえない・・・ね。
「ふふ・・・それはどうでしょうね? では、コップを開けてみましょうか。」
こんな時でも右肩に乗っているマリーにウインクで合図を送り、マリーに問題のコップを開けてもらう。コップの下には・・・。
「んなっ・・・! 馬鹿な・・・!」
コインは影も形もなかった。マリーを抱き上げて、そのぬいぐるみの体をすみずみまで調べるが、コインは見つからない。マリーを疑いたくなる気持ちはわかるが、マリーは無関係だ。
「これが僕の『魔法を使わない魔法のような技術』の一端です。逆側のコップを開けてみてください。」
「・・・・・・。」
黙ってヌホクリーデさんは僕に言われた側のコップを持ち上げる。そこにはもちろん、コインがあった。ヌホクリーデさんが『ありえない。』と断言した、ソレが。




