第3章 第11話 お嬢様とコイン その1
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「魔法を使わない、魔法の技術・・・? 想像がつかんな。どういうものなのだ?」
ヌホクリーデさんが疑問を持つのは無理もない。マジックを知らない人に、マジックを言葉だけで説明して理解させるということ自体が難しいからだ。ましてやここは魔法が当たり前のようにある世界。魔法を使えば不思議現象を簡単に起こせるのだから、わざわざ『魔法を使わないで不思議な現象を起こす技術』を磨こうとする者など現れるはずがない。
ゆえにこその、この疑問だ。そして、そう来ることこそ、僕の狙い通りだ。
「言葉で言われてもいまいちピンと来ないでしょう? ですので実演して見せましょう。」
ヌホクリーデさんの対面に座った僕は、オルガさんに頼んであるものを3つ持ってきてもらう。そのあるものを僕はテーブルの上に横に一列に並べて手のひらで示す。
「これらは、この店で使用されている普通のコップです。」
「そうだな。私がここに来た時に出された物と同じ物だ。これはモルファスのコップだな、焼き物で有名な町の。なかなかいいものを使っている。」
オルガさんの方を見ながら言うヌホクリーデさんに、オルガさんがうなずいて答える。
「今回使用するのは、この『中身が見えないコップ』3つと・・・」
言いながら、僕はポケットから財布を取り出し、その中から100G銅貨を一つ取り、テーブルの上に置いた。
「このコインです。」
「うむ、そうか。これらを使って・・・何をするつもりなのだ?」
なにをするつもりかと言えば・・・。
「ちょっとしたゲームです。」
「ゲーム?」
「そう、ゲームです。
ルールは簡単。まず、この3つのコップを逆さまにしてテーブルに置きます。」
実際に、テーブルの上のコップを順番にすべてひっくり返していく。その様を、ヌホクリーデさんは、己が紅い瞳でじっと見つめる。
「次に、この3つのコップのうちの一つに、この100G銅貨を隠します。」
真ん中のコップを持ち上げ、コップがあった場所に100G銅貨を置き、コップを戻してコインにフタをする。
「今、コインは真ん中のコップの下にあるわけです。」
真ん中のコップの底面(今は上を向いている部分)を、指先でツンツンして指し示す僕。
「その通りだな。貴様がコップの下に置いたコインを、コップで死角を作りつつ回収していなければな。」
・・・このお嬢様。真っ先にその可能性に思い至るとはなかなかやるじゃないか。
「そんなことはしませんよ。ほら。」
内心で密かに感心していることを心の奥底に隠しつつ、真ん中のコップを持ち上げてそこにコインがあることを証明する。
「・・・そのようだな。コインがテーブルと接触する音がしなかった。」
ずいぶんと疑り深いお嬢様だ。だがそれでこそ、意表の突き甲斐があるというものだ。
「でしょう?
ルール説明に戻りますね。コインをコップで隠したあとは、コップを並べ替えます。今回は例題なので簡単にいきますね。」
3,4回ほどゆっくりとコップの配置を入れ替える。だが、その次の移動だけ、コップを高速で動かしてフェイントを入れる。動体視力がかなり良くないと動きを追いきれないだろうスピードで、だ。フェイントを入れた瞬間、コイン入りのコップを目で追っていたヌホクリーデさんから「むっ・・・。」っと声が漏れる。この最後の動きが想定外だったようだ。全ての挙動を終えた今現在、コインは左手で握っているコップの中にあるのだが、このお嬢様は当てられるだろうか・・・?
「で、コップを移し終わったところで、ヌホクリーデさんにコインが入っているコップの位置を当ててもらいます。見事当たればヌホクリーデさんの勝ち。簡単でしょう?」
「まあ、な。ルールは理解した。」
「ちなみに今回の移動後のコインの位置、わかりますか?」
お嬢様の動体視力がいかほどか・・・気になるところだ。
僕にコインの場所を聞かれたヌホクリーデさんは・・・。
「当然だな。
・・・その左手のコップの中だ。」
と、自信満々に僕の左手のコップを指し示してきた。
どうやら、お嬢様はかなりの動体視力の持ち主であるらしい。




